内的家族システムによるセルフリーダーシップ ③追放者の悪影響から全体を守る防衛者というパーツ

3.追放者の悪影響から全体を守る防衛者というパーツ

 追放者のエネルギーは、残りのパーツにとっての脅威となるので、追放者の悪影響から全体を守るために、残りのパーツは団結して対処する必要が出てきます。そうした追放者から全体を守る役割を担ったパーツを防衛者(protector)と呼んでいます。また、防衛者は、その働きから、2種類に分けることができます。一つは「管理者(manager)」と呼ばれるパーツ、もうひとつは「消防士(firefighter)です。それぞれの特徴と機能を以下解説していきましょう。

⑴管理者(manager)
 管理者は、追放者が目覚め、騒ぎ出さないように戦略的に自分の環境や人生を管理しようとします。主な働きは、消極的なものと積極的なものの2種類あります。
 積極的な管理者は、追放者を抑圧封印できるように、追放者を無視し、関心を他に向けようとする働きをします。例えば、「仕事にエネルギーのすべてを注ぎ、経済的な成功を目指す」、「論理性を武器に理路整然と相手を批判し、自分の正しさを主張する」、「何事も完璧を目指し、確実に賞賛を受ける結果を出す」、「戦いに圧勝できる非の打ちどころのない強さを持とうとする」などのふるまい、生き方を促します。それが成功する場合は、勝利、安定、成長につながりますが、機能不全になると、ハラスメント、パニック、強迫、攻撃的などの問題につながることもあります。
 もうひとつの消極的な管理者は、追放者を刺激しないように、刺激しそうな事柄や場を避けたり、追放者の信念や感情(ダメ人間、無力、絶望、自罰、恥)に従おうとする働きをします。例えば「人と会わない、話さない」、「できるだけ出かけない」、「自分を犠牲にして人の世話を焼く」、「身を低くして葛藤を避ける」、「注目を集めないよう目立たないようにする」、「受け身でしてくれるのを待つ」などのふるまい、生き方を促します。それがうまく機能する場合は、危険回避、慎重さにつながりますが、機能不全になると、うつ、無力感、引きこもり等の問題を引き起こす可能性があり、注意が必要です。

⑵消防士(firefighter)
 管理者が追放者を目覚めさせないようなさまざまな活動をしているにもかかわらず、努力が及ばなかった時に登場するのが消防士です。消防士は、追放者が目覚め、感情が炎上してしまった緊急時に、その感情の炎を消すためのあらゆる努力を行います。傷つき暴れる感情の炎を消すためには、その感情を麻痺させること、その感情を開放すること等の対処法があります。消防士は激情を麻痺させるためにあらゆる方法を模索します。例えば、アルコール、薬物、食べ物、ギャンブル、セックス、ショッピング、などです。それらは、ある程度の気晴らし、楽しみとしてたしなむのでしたら問題は起こりませんが、時に消防士の行動は衝動的で、依存症につながってしまう可能性があるので注意が必要です。
 また、消防士は、追放者の激情を小出しに解放することで消火しようとしますが、その場合は、怒りの表出、自傷行為、他者への暴力など、衝動的な行動につながります。
 いずれにしても、消防士が出動した場合の本人の行動は、衝動的で問題行動につながることが多く、本人も自分のふるまいに戸惑い、困惑、後悔、自責の念を感じることが多いと言えます。顕在意識では、原因の根本が自分の傷ついたインナーチャイルド、追放者であることもわからないし、傷の記憶もありません。また、その傷の痛みを避けるための衝動ゆえの行動であることもわからないので、自分でそれが問題であることを知っていながら、それを止めることができない可能性が高く、強い無力感、自分を持て余すような絶望感を感じてしまうことが多いと言えましょう。

内的家族システムによるセルフリーダーシップ ②トラウマを担う追放者というパーツ

2.トラウマを担う追放者というパーツ

 人は、自分では消化しきれないショック、痛み、苦悩を体験すると、防衛機構が発動し、その体験の全てをありのままに見て受け止めることを拒否し、担い切れない部分を封じ込めると考えられています。封じ込められた痛みの体験は、氷結されてそのままの状態で身体のどこかに保存されます。そのような封じ込められた痛みをトラウマと呼んでいるのです。トラウマの体験は、顕在意識には登らずに抑圧、封印されることになり、実際にその記憶自体が失われる事例も多数見受けられます。
 IFSの考え方では、人は、無意識的に、このトラウマの痛みを自分の中の一つのパーツに背負わせて、他のパーツから隔離することによって、自分の全体像を守ろうとすると考えています。そして、隔離されたパーツを「追放者(Exile)」と呼んでいます。例えば、わたしたちには誰にでも、子供っぽく弱い部分があります。虐待を受けると、こうした部分は最も大きく傷つき、最も大きく反応します。人は、無意識に虐待のような担い切れない苦痛を体験した場合は、全体を守るために、一部のパーツ、この場合は子供っぽく弱い部分を切り離し、そこに裏切られた悲しみや痛みや恐怖を担わせることになるのです。
 トラウマを担わされたパーツは、「私は愛されていない」や「私は価値がない」などの否定的な信念の下で、暴力を受けた恐怖、裏切られた悲しみ、重すぎる無力感や絶望、担い切れないほどの痛みを抱え込んでいます。追放者は、その強い否定的なエネルギーゆえに他のパーツにとっての毒、有害な存在となり、隔離されます。隔離された追放者は、他のパーツからは、存在を否認され、仲間外れとなって孤立します。かくして、私の中に、見捨ててしまった私、私の手の届かない悲しい痛みのユニット、傷ついたインナーチャイルドが生まれるのです。
 追放者は、たとえ隔離され、封印されても、その存在が消えるわけではありません。実態の影のように、その強烈な痛みや感情のエネルギーを保ちながら、私にぴったりと寄り添って存在します。そして、そのエネルギーは、潜在意識下で雑音のように少しずつ影響を与えると同時に、トラウマを体験した時と同じような環境=その時に見たものと同じようなもの、場所、時間帯、匂いを感じると、直ちに目覚め、騒ぎ出し、恐怖や怒り、悲しみ、罪悪感、恥、自己嫌悪、等の強烈な感情エネルギーを復元させて、本人に問題行動を起こさせる原因となります。その際、追放者の痛みの理由は、その人の顕在意識では理解できないし、その強烈な感情エネルギーは、顕在意識のコントロールでは及びません。その人は、よくわからないままに、強烈な感情や衝動が沸き起こり、何らかの問題行動に走らざるを得なくなってしまうのです。

内的家族システムによるセルフリーダーシップ ①内的家族システムとは

1.内的家族システム理論とは

 内的家族システム(Internal Family Systems Model)、略してIFSは、アメリカの家族療法のセラピストであるリチャード・シュワルツ博士によって開発された心理療法です。1980年代より始まり、30年以上の歴史を持つ療法であり、世界中の多くの心理セラピーの場で活用されています。また、広く一般的に認知されている理論でもあり、2013年に発表された関節リウマチに対する研究論文で、その効果が認められたこと、エビデンスが実証されています。
 IFSでは、人の心は、複数の副人格の集合体であると考えています。この場合の副人格とは、独自の考えと感情を持つ存在を言います。つまり、IFSの考え方では、私の中には、独自の考え方や感情を持つ多くの小さな私(人格)が存在しており、それぞれが、協力したり、戦ったり、働きかけたり、なだめたりしながら、わたしという全体像を作り上げていると考えているのです。なお、IFSでは、これらの副人格をパーツと呼んでいます。ここでもこれに倣って、以降は副人格をパーツと呼びます。
 また、IFSでは、パーツを超えたSelfと呼ばれる意識があるとも考えています。この場合のSelfとは、パーツを超えた高く大いなる意識であり、私たちの「本来の自己」であると考えています。Selfは、私の中のパーツの癒し手であり、私の人生を導く真のリーダーとなります。そしてSelfとパーツの関係性によって、人生のクオリティが大きく変わってくることになるのです。それが反感と不信、罪悪感と恥辱に満ちていると、解離や統合の失調をもたらしますが、相互信頼と安心、思いやりと調和に満たされた場合は、力強く輝く幸せな生き方につながるのです。まさに、セルフリーダーシップによる輝かしい生き方が実現できると言えましょう。

ワクチンパスポートへの意見書

 厚生労働省が、ワクチンパスポートに関する意見を求めています。
 その締め切りが。本日11月30日23:59となっています。

 反対であれ、賛成であれ、こうした時代を変えるような大きな施策にたいしては、意見を表明することが大切ではないでしょうか。

予防接種法施行規則の一部改正案に係る意見募集について(パブリックコメント)

 なお、ページ途中にある2つのpdf文章 ①意見募集要領 ②概要 をクリックしてダウンロードしなければ、次には進めないので、投稿の際にはご注意ください。

 私も、ワクチンパスポートの流れを憂慮する一市民として、さきほど自分の意見を提出させていただきました。時代が大きく変わろうとしているときに、日和見的ではなく、一人の市民として、自分の意見を表明していくことは、とても大切なこと思っています。ですので、当ブログにおいても、提出した私自身の意見書を公開したいと思います。

・・・・・・・・・・以下提出した意見書・・・・・・・・・

ワクチンパスポートに反対します。

ワクチンパスポートを制度として導入しようとする理由はなんでしょうか?

もし未接種者が感染を広げるという根拠であれば、すでに、イスラエルやイギリスのデータを見れば、破綻しています。ワクチン接種が感染予防にならないだけではなく、重症化の予防も保証しないこと、さらには、自然免疫力の低下をもたらすことによって、他の病を発病しやすくさせることが明白となっています。

公開されている正しいデータを観ずに思い込みだけで未接種者を悪とするとしたら、それは科学とは言えずに、狂信、捏造、でっちあげと言わざるを得ません。

このことは、とても本件に詳しい厚労省の方ならばわかるはず。

また、ワクチンは、安全であり、メリットの方が大きいので打つべきだという理由であるならば、余計なお世話で、まさにパワハラです。打ちたくない人たちの気持ちをないがしろにし、人権を無視するおせっかいだと思います。

多くの誠実な医者、医療関係者、製薬会社の勇気ある告発者の言っている通り(あなたなら目を通しているでしょう?もし知らないとしたら、探して見てください。その努力をしないとしたら、それは消極的なサボタージュであり無責任のそしりは免れません)、コロナワクチンには、他のワクチンとは比較にできないほどの有害事象が起こる可能性があります、というか、起こっています。

ワクチンは、病気を予防するものであり、決して人を害するものであるべきではありません。しかし、このコロナワクチンは、今までの事例からも証明されている通り、予防できない上に、有害事象を引き起こす、さらに死亡事例も多数発生しています。このような不完全で有害なワクチンを、強制することは、殺人教唆であり、犯罪だと思います。

ワクチンパスポートを万が一実施したとしたら、歴史が、それを為した者たちの全体主義、ファシズムを永遠に攻め立てることでしょう。

コロナワクチンの強制がどれだけ悲惨な社会混乱を招くのかは、オーストラリアやドイツ、オーストリアの事例を学べば分かるはずです。いずれの国も、決して市民は、ワクチン強制に従っていないし、その暴力に屈していません。多くの勇気ある市民たちが立ち上がり、数万単位の膨大な人数の反対デモが頻発しています。コロナワクチンの強制は、決して成功はしていません。日本においても全くその通りになるでしょう。

真実に勝るウソはありません。どのような詭弁を弄しても真実には勝てません。本当のことはいずれ必ず暴露されるものです。

あなたも、どのような詭弁を弄しても、自分の本質をごまかすことはできません。うそを本当のことだと主張すればするほど、あなたの最も本質的な魂からくる良心がうずくはずです。

自尊心と勇気をもって、本当のことに基づいて方針を決定すべきです。

アウシュビッツの所長であったルドルフ・ヘスは、決して悪人ではありませんでした。上司の命令に忠実な家族思いの一般人だったのです。

ただ、彼には、上司のあまりにもおかしく狂気の命令に対して、意見をし、反対する勇気がなかっただけなのです。恐怖による脅迫にあがらう勇気がなかっただけなのです。

いま、その勇気があなたにも試されているのだと思います。あなたに勇気が無ければ、あなたもヘス同様に、自らには自己嫌悪と自責の未来が、他者からは、軽蔑と憎悪の目が永遠に向けられることでしょう。

あなたは、この意見が陰謀論者のたわごとと簡単にかたずけられない何かがあるはずです。

どうか、賢明になってください。どうか、自尊心を忘れないでください。どうか、勇気をもって、狂気の制度を強引に推し進めようとする流れを止めてください。

あなたには、まだ、狂気への流れをくい止めることができる力がある。

あなたは、国民の代表たちであり、日本を代表する賢人たちです。

恐怖に首をたれて恐怖の代理人になるべきではありません。

勇気をもって、自分の使命を貫いていただきたい。

もし、一歩でも勇気ある方向に踏み出したならば、私のように勇気ある一市民として生きようと決意している多くの人たちが応援すると思います。

その数とパワーは、きっと想像以上の大きさだと思います。

あなたの賢明な判断と勇気ある行動を心から応援しています。

ペーパーバックの出版

 以前から、アマゾンキンドルの電子書籍として自尊心の心理学シリーズ3冊、「自尊心の重要性」、「自尊心が全てを変える」、「To be a Hero」を出版しておりましたが、この度、それらのペーパーバック版を出版することになりました。

 電子書籍でもこうした本を出版出来てありがたいと思っていたのですが、紙ベースの本として出版できるのは、とても光栄でうれしいことだと思っています。

   

 アマゾンさんのシステムを利用させていただき、今回のペーパーバック出版ができるようになりました。

 それにしても、Amazon Kindle による電子書籍のペーパーバック化のシステムは、画期的だと思います。今までにはなかった全く新しい仕組みではないでしょうか。

 通常、紙ベースの書籍を出版する場合は、印刷会社さんに依頼して、まとまった数の本を作っていただき、それを在庫しなければなりません。つまり、初期投資が必要であることと、在庫場所を確保して管理する必要があるのです。

 しかし、本システムは、それが必要ありません。注文があった都度、アマゾンさんの方で印刷製本をして、発送してもらえます。私の方では、初期投資の必要は一切ありませんし、在庫を持つ必要もありません。

 Amazon Kindle出版のサイトの指示に従って、書籍の内容をpdfでアップすること、そして、指定の表紙を作成してこちらもpdfでアップすれば、それだけで出版ができるのです。

 アマゾンからのみの販売となりますが、発注から出荷までの時間が、最短で1日です!つまり、たった1~2日で印刷、製本、出荷ができるのです。しかも1冊単位で!

 本の仕上がりのクオリティも決して悪くはありません。ペーパーバックですので、表紙がないなどの特徴はありますが、十分満足できる、いわゆる立派な商品です。

 こうしたシステムが定着し始めると、出版、書店業界も大きく変わるかもしれません。

 私どものような小さな出版社にとっては、従来の書籍の流通の仕組みは、いろいろな制約が多くて思うように活動できませんでした。

 今回の、アマゾンさんのシステムは、劇的にそうした制約や負担を取り除いてくれます。私どもと同じような小規模の出版社や個人の作家さんにとっても福音となる可能性がありますよね。

 せっかく書籍版として出版することができたので、ねがわくば、たくさんの人たちが手に取ってくださって、愛読書にしてもらえますように!!

オンライン研修が続きます

おかげさまで、10月に入ってから、研修ラッシュとなっております。

コロナ禍も、徐々におさまりつつあり、集合研修も増えてきましたが、実は、圧倒的にオンライン研修が多いのです。

オンライン研修は、交通費と宿泊費、研修会場費が削減できます。

実は、研修を実施する際には、これらの費用がばかになりません。多分、研修そのものにかかる経費、講師料であるとか教材費よりも数倍かかるのではないでしょうか。

オンラインの場合は、それが全くかからなくなるので、極めて経済的です。もしも、集合研修と遜色がないくらいに効果があるのならば、オンライン研修の方が圧倒的に効率的と言えましょう。

この研修効果に関しまして、当社は、オンラインでも体験学習を展開していますが、今のところ、リアル集合研修とオンライン研修を比較して、効果に全く遜色はありません。

むしろ、オンラインの場合には、さまざまなITツールを駆使して、チームワークができること。オンラインによるチームワークが難しいからこそできたときの達成感が大きいこと。オンラインという制約があるからこそ、逆に集中度が増すこと。などなど、オンライン体験学習には、リアル研修では味わうことができない特典、おもしろさ、高い効果があると言えましょう。

おかげさまで、リピートオファーが多くなっており、他の階層に実施したいというご要望が多くなってきております。

とてもありがたく、光栄なことだと感じております。

今月は、これまでも、これからも多くのオンライン研修のお仕事の機会を頂いております。

せっかくのチャンスですので、受けて良かったと思えるような価値ある充実した場にしたいと思っています。

新刊“To be a Hero”の内容紹介 ⑮ヒーローズジャーニーの教え

3.ヒーローズジャーニーの教え

 ヒーローズジャーニーは、含蓄に富んでおり、多くの学びの種がそこに隠されています。きっと深く探求すればするほど、意義深い気づきをえることができることでしょう。ここでは、その中のほんの一部にしかすぎませんが、本書なりにまとめてみたいと思います。

 

①全てのステージが必要である

 前章で、英雄の成長プロセスが、「自然児→傷ついた子供→放浪者→求道者→戦士→達人→魔法使い→変革者→勇者→覇王→仙人→賢者」の12のステージを経ていくことを解説しましたが、英雄として成長するためには、そのすべてのステップを充分に体験し、そこでの課題や学びを体得する必要があります。通常、私たちが、英雄と感じるのは、戦士以降ではないでしょうか。英雄とは光り輝く完成された存在であるというイメージがあるので、欠点の多い自然児から求道者までのプロセスは、英雄とは感じづらいのではないでしょうか。ですが、ヒーローズジャーニーの考え方では、どのステージも英雄が経験し学ぶ必要があるプロセスであり、ないがしろにできるものはありません。かっこ悪いからと言って、そのステージをいい加減に過ごしてしまうと、後々勇者や達人、魔法使いになった時に、残してしまった宿題に悩まされることになってしまいます。ですから、自分勝手で欠点が多いあり方を生きることは、成長へのプロセスとして、必要なことなのです。それを恥じたり責めたりするべきではないのです。なぜならば、そうした下積みともいえる学びがあるからこそ英雄になれるのですから。
今、自分の立ち位置が放浪者で、困難や真実に向き合えずに逃げてばかりいたとしても、決してそのような自分を恥じたり罪悪感を感じたりすべきではありません。英雄には、うそをついて誤魔化す体験、失敗してみじめな思いをする体験、自分勝手で孤立してしまう体験は、成長へのプロセスとして必要不可欠なものなのです。だから、自分の中にある愚かさ、弱点、醜さを、人類全般が通る道であるとして許し、受け入れることが大切です。自分にもそうであるように、他人にも寛容さを持つことが大切です。人類全般が通る道だとしたら、自分が体験した罪や恥は、自分だけのものではなく、あらゆる人が体験するものだからです。罪を憎んで人を憎まないことが大切なのだと言えましょう。自他の醜さや欠点を拒否すればするほど、それはますます強く存在を主張し、どこまでも追いかけてきます。英雄は、その存在を許し、それと面と向き合い、ありのままを知って反省し、成長に向かうのです。ただし、ずっと愚かなままでいいというわけではありません。英雄にはもっと偉大な存在になる可能性がまどろんでおり、その段階にとどまり続けようとすることは不自然なことです。充分にそのステージを楽しんで、ステージの課題を乗り越えることができたならば、次のより成長した自分へと変容を遂げていくのです。

 

②勇気こそが成長を促す

 ヒーローズジャーニーを読み解くと、英雄が成長するために必要なことは、単なる頭のよさやテクニックではないことが分かります。そうした小賢しさは、英雄が直面する死の恐怖には通用しないのです。成長と正義には危険がつきものです。 英雄が故郷を後にして成長の旅に出ようとすると、裏切者扱いしてくい止めようとするものが現れます。英雄が正義をなそうとしたら、闇の圧倒される権力が攻撃をしてきます。そうした非難や攻撃の恐怖を乗り越えるために必要なものは、小賢しさやテクニックではなく、勇気です。勇者が成長し、正義をなそうとするときに邪魔をするのは、勇者自身の恐怖であり、その恐怖を乗り越えるために必要なものこそが勇気なのです。決して大それた蛮勇が必要なのではありません。欠点も含めて正直に自分を語る勇気、相手を攻撃するのではなく愛していると言いう勇気、そして真実の自分を裏切らない勇気です。
 さて、それでは、どうすれば勇気を持てるのでしょうか?実は、勇気は獲得するものではありません。もともと人の美徳として存在し、まどろんでいるものです。太陽が存在しないわけではありません。雲が厚くたちこめているので光が見えないだけなのです。ですから、勇気を取り戻すために必要なことは、厚くたちこめた雲を吹き払うことです。雲とは、自分を信じられない心、自己嫌悪、葛藤、自己憐憫、罪悪感、恥の思い、恐怖、不安、などです。それらの暗く重苦しい思いを受け入れ、許し、手放していけば、自信と愛と勇気は自然に回復してくることでしょう。

 

③勇者の人生にドラゴンはつきもの

 世界中のどのような神話を探しても、ドラゴンが存在しない英雄譚は存在しません。英雄にとって、ドラゴンに象徴される痛みや苦しみ、耐え難い困難はつきものなのです。人も同じであり、この世で生きる限りは、痛みや苦しみ、困難を避けることはできません。うまく逃げ切る方法は存在しないし、たとえ逃げ切れたとしても、成長をすることができないので、勇者にはなれません。ヒーローズジャーニーの視点からすると、困難は避けるものではなく、直面して立ち向かい、乗り越えるものなのだと言えましょう。人は、困難にであい、もがき苦しみ、対処法を考え抜いて、自分を鍛えて成長し、壁を乗り越えることで成長していきます。人の成長には痛みがつきものなのです。
 痛みを嫌い、困難を拒絶し続けると、自分の中で、弱いダメ人間としての自分、被害者としての自分の自己イメージが育まれます。弱いダメ人間としての自己イメージは、言い訳し、正当化し、うそをつきます。被害者としての自己イメージは、周囲を敵とみなし、防衛し、反撃します。欠点を持ちながらもそれを変えようとはせずに相手を責めて相手を変えようとします。それは、もはや勇者ではなく暴君です。
 勇者は、どのような困難であっても、起こるべくして起こったことであり、自己成長のチャンスでもあると認識して、前向きにとらえ対処します。その過程で「何とかなる、大丈夫だ」という自己イメージ、確信が育まれて、困難を通して、反省し、学び、成長を遂げます。暴君として生きることは得策ではありません。自己防衛で疲労困憊するし、努力の割には一向に事態は好転しないし、友は去って孤独になります。一方で、勇者は、自分の弱さや欠点をおおらかに受け入れて正直に語り、仲間とともに笑い飛ばします。素直に反省して、対処方法を学び、今後は、同様な困難があっても容易に乗り越えられるようになります。あなたは、一度の人生をどちらの生き方で過ごしたいですか?

 

④新しい挑戦こそが自分の中の未知なる偉大さを引き出す

 人は、ややもすると日常に埋没しがちです。そこは文句や不満はあれども、安心できる領域であり、ストレスなく快適に過ごすことができる小部屋です。狭く限定された領域を出て、英雄としての成長に踏み出すために、いろいろな形で誘いを受けますが、快適な小部屋に固執する場合は、全ての働きかけを拒絶し、自分の部屋に引きこもります。しかし、そうした態度を続ける事は、決して自然なことではありません。人には、もっともっと大きく偉大なる可能性がまどろんでいて、その可能性を実現させることこそが、人の究極の使命だからです。
 狭く限定された快適ゾーンを抜け出すには勇気が必要です。なぜならば、小部屋の外には、思いもよらない危険があるからです。しかし、日常に埋没していた時には見えなかった自分の新たな可能性が顔をのぞかせるときは、思いもよらない危険に直面した時です。どうすればよいのか分からずにもがき苦しむときこそが、自分の新しい側面を引き出すチャンス、英雄としての成長へのチャンスなのです。
 だからと言って、やみくもに大それた危険に立ち向かうべきではありません。準備が整ってない課題に挑戦することは、無謀であって自然ではありません。それは、パニックゾーンと呼ばれる危険な領域であり、決して満足のできる成功には至りません。むしろ、必要の無い傷を受けて、長く苦しむことでしょう。
 挑戦は、程よいリスクに挑戦することが大切です。しっかりと目を開いて自分の人生を注意深く見つめたならば、聞こえてくる誘いの声、提示されてくる課題は、みな、こうした程よいリスクへの挑戦であるものです。人生に訪れるさまざまなイベントこそが、こうした今の自分にとってちょうどよい程度の挑戦への誘いでもあります。だからこそ、人生のもろもろの出来事を嫌ったり拒否したりせずに、誠実に向き合い、困難から逃げずに学び、準備を整えて乗り越えていこうとすることが大切なのだと言えましょう。

新刊“To be a Hero”の内容紹介】
①おわりに
②ヒーローズジャーニー
③ヒーローズジャーニーをもとにした人の成長プロセス
④ステージ1 自然児
⑤ステージ2 傷ついた子供
⑥ステージ3 放浪者
⑦ステージ4 求道者
⑧ステージ5 戦士
⑨ステージ6 達人
⑩ステージ7 魔法使い
⑪ステージ8 変革者
⑫ステージ9 勇者
⑫ステージ10 覇王
⑬ステージ11 仙人
⑭ステージ12 賢者
⑮ヒーローズジャーニーの教え

 

新刊“To be a Hero”の内容紹介 ⑮ステージ12 賢者

ステージ12 賢者

 仙人は、古き自分を脱ぎ捨てて大きな輝かしい自分へと生まれ変わります。その悟りの技術は、秘伝であり、成就することは容易ではありません。しかし、悟りを得た人は、その悟りを伝える義務があります。伝授し、成長を促すことは容易ではないので、迷いますが、覚悟を決めて故郷に帰り、真実を伝え始めます。
 かくして、仙人は、賢者へと変容を遂げることになります。
 賢者は、真の自己との強いつながりをいつも維持しており、真の自己としての精妙で力強い至福感を日常で体験しています。ですから、自分が幸福になるために必要なものは少なく、他に要求することは、ほとんどありません。賢者は、隠し事をする必要がないので開放的でフレンドリーです。賢者は、防衛する必要がなく、とげとげしい態度は微塵もありません。いつもゆったりと平和的で、穏やかにふるまいます。賢者の日常の暮らしの中に、その叡智と光が差し込み、周囲の人たちの間に混乱があったとしても、自然に解きほぐされて、平和になり、充実した楽しい雰囲気に満たされるようになります。賢者は、そこにいるだけで、その周囲の人たちを幸福にするのです。
 賢者は、周囲の人たちに、人としての礼儀を求めますが、決して権威者としてはふるまいません。思いがけないほど気さくであり、フレンドリーです。賢者は、人の人としての痛みを知っており、人が間違いを犯す存在であることも知っているので、愚かな人たちを裁きません。そのありのままを受け入れて、愛します。時に叱ることはありますが、それは、憎しみではなく大きな愛の鉄槌であり、相手のかたくななハートをノックし、深い感動を与え、相手が主体的に成長しようとする意欲を搔き立てるきっかけとなるのです。
 賢者は、良き指導者です。自分自身は、充分に満たされており多くを望まない代わりに、弟子たちの成長を願うのです。弟子を深くよく理解し、課題を見極めます。弟子の課題に応じて工夫された指導を行い、最も効果的に育成していきます。指導は、言葉だけではありません。言葉ではとらえられないより精妙なエネルギーを体験を通して体得していくように促します。弟子たちが、安全に学べるように、物理的な環境はもちろん、心理的、魂的な環境も整えます。邪を清め、聖なる力で満たすのです。それは、あまりにもさりげないものなので、弟子たちは気づくことも感謝することもできませんが、そうした庇護は確かに存在します。賢者のそうした気高い愛のもとで、弟子たちは育っていくのです。
 賢者は、良きアドバイザーでもあります。高い問題解決能力と人間関係能力を持っているので、周囲の人たちの抱えている問題を、高い視点、多様な角度から観察し、最適な方法を練って、解決に導くことができます。ですので、周囲の人たちは、賢者に、事あるごとにアドバイスを求めるようになります。賢者は、地域社会の良き相談役として、地域社会の平和と幸せに大きな貢献をするのです。
 賢者は、良き薬師でもあります。健康の仕組みに習熟しており、病気の意味と原因、その対処法を深いレベルで理解しているので、診断は正確であり、最も効果的な処方をして、周囲の人たちの病気を治します。そもそも、賢者は、病気が起こらないような雰囲気、自然なありかたを周囲にもたらします。賢者の内面の至福と平和のエネルギーが周囲に放射されて、周囲は、自然な形で邪が祓われ、寄り付かなくなります。周囲の人は、それがあまりにも自然であるので、気づくことはありません。当たり前のことと思って感謝することもありませんが、賢者の太陽の力は常に周囲を明るくしています。賢者は、その存在そのものが薬師なのです。
 賢者は、獲得した叡智を整理統合して、自分なりの哲学の体系を確立します。それは、嘘のない言葉で組み立てられた誠実な論理であり、読む人に生き方を指し示す聖典でもあります。しかし、賢者は、その自分なりの考え方や主張にも次第にこだわらなくなってきます。それとは違う主張をされても、論戦を挑もうとはせずに、異なる主張に耳を傾けようとします。言葉による表現は、所詮は真実の影であって、どんなに美しい文章であっても完璧には到底なりえないことを理解したからです。だから、どんなに権威ある文章であっても、社会が評価するほどの価値はありません。真実は、その言葉のはるか上の世界に存在しているのですから。
 時に、賢者の語る真実を快く思わない者たちもいます。真実は、愛と光であり、決して権力や支配、暴力を肯定しません。ですから、権力者や支配者、暴君の振る舞いは、真実には立脚していません。彼らが立脚しているのは、闇が語る詭弁なのです。闇は光には勝てません。だから、闇は光を恐れ、怒り、あらゆる陰謀を講じて排除しようと努めます。闇は分割して統治します。光が仲間を得て勢力を増大させることを恐れ、仲間の一部に罠をかけて誘惑して裏切者を作り、チームを切り崩して光を孤立させます。詭弁をもって光を悪者にでっち上げ、万民から分離し、万民から攻め殺させようとするのです。賢者は、そうした人の欠点、権力者たちのふるまいを理解して、真実を語る時には注意深くある必要があります。
 闇は、戦うことで滅ぼすことはできません。この世に責められ殺されるべきものは存在しません。存在するからには、狭い了見では計り知れない訳と役割があります。闇があるからこそ光の美しさを学べるのです。だから、暴力で排除しようとする試みは、決して最善の策ではありません。闇は、光の欠如=影であって実体はありません。闇を祓うことができるのは、光だけです。痛みは欠乏の結果であり、実体はありません。痛みをとることができるのは、欠乏を満たすことができる愛と思いやりだけです。ただ、光や愛をもってしても闇や痛みを急激に消すことはできません。闇が構造と力を手にするためには、気の遠くなるほどの時間と努力を費やしており、一朝一夕には解体することはできません。痛みには強いネガティブなエネルギーが取り巻いており、パンドラの箱を不用意に一気に開けてしまうことはとても危険です。それを癒やすためには、一滴ずつ、一滴ずつ、ゆっくりとデリケートに進めていく必要があります。賢者は、そのダイナミズムをよく理解して、不注意によって闇を刺激し、必要のない対立を起こす愚を避ける必要があります。ゆっくりと急がずに、思いやりをもって光を放ち、結果的に闇を静めていくのです。
 賢者は、天地とつながり、大自然の英気を集めることによって、子供のようなみずみずしく楽しく元気な心を取り戻します。言葉によって解釈する代わりに、初めてそれを見たような新鮮さをもってあらゆるものを興味深く味わいます。普通の人にとっては日常の飽き飽きとした風景であっても、賢者は、そこに新鮮な美しさを感じるのです。今ここには、深い深い秘密が隠されています。それは、とても精妙で力強く美しいものですが、準備が整った人にしか開示されることはありません。賢者は、長い修行を経て、今ここの力にアクセスすることができます。その力は、言葉では表現できません。言葉は、対象と自分を分離して、対象を上から目線で名付けることによって対象を操りますが、今ここの力は分かつことのできない自分自身の力なのです。ですから、他人行儀に名前を付けて操ることはできません。できることは、それを直接的に体験することだけです。賢者は、日常のありふれた世界に流れる今ここの美しさを自分として体験し、その至福を感じるのです。賢者は、生き生きとした自然の息吹を楽しみ、自然の生命力を自分に吸収することを通して、次第に不自由な言葉にこだわることをやめて、自然児のような自然で素朴でみずみずしく、魅力的なありかたを取り戻します。
 かくして、賢者は、新しい次元の自然児となり、また新たな次元の英雄の旅へと旅立ちます。成長には限りがありません。ゴールにたどり着いて暇になることはありません。成長の可能性は永遠であると同時に冒険すべき領域も無限なのです。賢者は、一つのゴールを迎えると同時に、新たな冒険へと準備を整えていくことになるのです。

新刊“To be a Hero”の内容紹介】
①おわりに
②ヒーローズジャーニー
③ヒーローズジャーニーをもとにした人の成長プロセス
④ステージ1 自然児
⑤ステージ2 傷ついた子供
⑥ステージ3 放浪者
⑦ステージ4 求道者
⑧ステージ5 戦士
⑨ステージ6 達人
⑩ステージ7 魔法使い
⑪ステージ8 変革者
⑫ステージ9 勇者
⑫ステージ10 覇王
⑬ステージ11 仙人
⑭ステージ12 賢者
⑮ヒーローズジャーニーの教え

 

 

新刊“To be a Hero”の内容紹介 ⑭ステージ11 仙人

ステージ11 仙人

 覇王は、大きな力を持つ宝を守り続けるために覇王となり、組織を束ねる権力者となります。しかし、その責務は重く、次々と起こる問題に対処しなければなりません。また、自分の在り方、特に自分の中の欠点によって引き起こされるさまざまなトラブルを解決していく必要に迫られます。覇王は、こうした多くの苦労を通して、自分を見つめなおし、自分の中に残っている痛みや恐怖、怒りや復讐心、劣等感や罪悪感を癒し、徐々に自分の中にたちこめていた厚い雲を吹き払っていきます。心の中に存在する恐怖こそが自分の中の小さなエゴが渇望する欲求のエネルギー源となります。死への恐怖、食事を得られない飢餓の苦しみ、住まいを奪われることの不安、仲間外れにされることの恐怖、などなど、多くの懸念や恐怖こそが、戦って奪うこと、土地を獲得し城を作ること、抜きんでる存在になること、勢力を大きくすることのエンジンとなります。覇王は、多くの苦労に直面し、人格が陶冶され、成長することによって、恐怖の正体を見極めて、痛みや恐れにとらわれなくなっていきます。それに伴って、今までとめどなく沸き起こってきた欲望や渇望が弱くなり、おおよそ恐怖をエンジンとする欠乏動機から自由になっていきます。動物的な飢餓や性欲、支配欲、物欲、権力欲に至るまで、以前のような求めてやまない渇望が弱まるにしたがって、権力を部下に委譲し、財宝を分け与え、多くの職務を部下たちに任せ、任を辞して、自由になっていきます。
 かくして、覇王は、仙人へと変容を遂げることになります。
 仙人に唯一残っている望みは、悟りであり、仙境に参入することです。しかし、冒険の世界と仙境(故郷)の世界の間には関門があり、境界の門番が控えています。仙境の世界には、穢れを持ち込むことはできません。仙人は、境界を通るために、冒険を通して身につけてしまった多くの穢れ、戦いで流された血、怒り、悲しみや絶望、恐怖やうらみ、自責の念などの重くくすんだエネルギーをみそぎ祓い清めます。こうして、仙人は、恐怖に由来する執着を手放し、死や喪失を受け入れ、身軽になって自由になるのです。
 境界における検査は厳しく、徹底しています。仙人は、テストをパスするために、徹底した修行を続けます。食べ物を選び、清い水を飲み、体を整えます。呼吸を工夫して体内の邪を祓い、大自然の清いエネルギーを取り込みます。瞑想し、祈り、天地と感応します。仙人は、いたずら好きで、笑うことが大好きです。笑いと言っても皮肉な笑いや冷笑ではありません、それは豪快で恰幅のいい笑いです。時に寂しくなって、下界におりて様子を探ったり、ちょっといたいたずらやちょっかいを出して人助けをしたりしますが、多くは、再び山にこもって修行を続けます。下界では修行が進まないからです。
 仙人の修業は、必ずしも短時間で済むわけではありませんし、努力したからと言って必ず合格できる保証もありません。仙人は、根気強く行を継続し、気づきを深め、境地を高めていきます。行を通して、仙人の中にあったあらゆるエゴの痛みのエネルギーが癒され、力を失います。時に、頑固で強力な執着は、ハンマーで破壊され、分解されて、雲散霧消します。そのプロセスは、自我の死のプロセスであり、まさに仙人は今まで自分を構成していた自分の死を迎えることになります。しかしだからと言って仙人の存在が消滅するわけではありません。仙人の本質は、自我ではなくて、その背景にあるより精妙な輝きです。自我が人生を主導しているときには、その背景にある精妙な輝きは影を潜めていますが、自我が力を失い、自我の厚い雲が取り除かれると、背景にあった偉大なる輝きが顔をのぞかせるようになるのです。
 こうして、仙人は、古い自分を構成していた自我の恐怖やそれに基づく執着をすべて手放すことで、事実上の死を体験すると同時に、より精妙な体で天地と共鳴し、そこに輝かしい新たな自分を発見します。自由な光豊かな存在として生まれ変わるのです。
 しかし、一方で、仙人は、一つだけちょっとした気がかりを残しています。それは、懐かしい故郷に、自分が学んだ真実を伝えたいという願いです。故郷の懐かしい人たちと再会し、酒を酌み交わして、楽しくお土産話を語り会いたいのです。気づきや学びというお土産を持ち帰って、故郷の人たちを喜ばせてあげたいのです。
 ただ、仙人は、故郷に戻ることを躊躇します。故郷に戻ったとしても自分が受け入れられるのかどうかを懸念しているのです。故郷の人たちに自分の学んだことを教えようとしても、理解されないかもしれないし、拒絶されるかもしれない、もっと悪いことに悪用されるかもしれないと心配しています。しかし、残念ながら、その心配は、多くの場合ほんとうに起こる可能性の高い予言であって、実際に懸念したようになる可能性が高いのです。仙人は、故郷の人たちの理解力や学習の可能性を全面的には信じてはいません。全ての人が、学びを正しく聞き入れ理解し、学びにつなげられるとは楽観していません。自分が帰ることによって、たくさんのトラブルや問題が発生し、自分が学びを伝えることで、幸せどころか不幸をもたらしてしまう未来の危険性を見通しているのです。ですので、仙人は、故郷に帰ることに迷いを生じます。山籠もりも決して不幸せではないし、住めば都です。なにも、この平和で楽しい生活を手放し、危険をおかしてまで、または、いらぬ苦労を背負ってまで故郷に帰る必要はないと感じるのです。結果、多くの仙人は、故郷に帰ることをあきらめます。
 仙人は自由であり、故郷の世界に戻らない選択をすることを決して責めることはできませんが、仙人が学んだ貴重な悟りを、多くの人たちに分かち合えないことは、この上ない残念でもあります。一度でも光明を得た人には、責任があります。光を信じることができずに絶望の中で苦しんでいる人や、迷っている人、より深い罪を犯そうとしている人に、「何を弱気なことを言ってるのだ!」と喝を入れなければなりません。「君は捨てたものではない、君ならできる!」と勇気づけなければなりません。そして自らの光を取り戻すための教育、お手伝いをして、悟りの後継者を育成する必要があるのです。
 本来であれば、故郷の人たちの意識が、仙人の学びを謙虚に受け入れて学ぶことができるまでに成長していることが大切であり、それがかなわない現状で、仙人に必要以上の自己犠牲を強いることはできません。あくまでも、故郷の人たちが、自力で学び、成長を遂げて、学びを受け取る準備を整えることが前提として必要なのです。その努力をせずに、教えてくれないことを責めるわけにはいきません。準備ができていない人には開示できない秘密があるのですから。ただ、故郷のすべての人たちが準備を整えることができていないわけではありません。成長の可能性はそこかしこにまどろんでいるはずです。仙人は、そのような可能性を粘り強く探求し、故郷を見捨てることなく、面倒くさがらずに、万難を排してあらゆる伝授の方法を探していくことが課題となります。

新刊“To be a Hero”の内容紹介】
①おわりに
②ヒーローズジャーニー
③ヒーローズジャーニーをもとにした人の成長プロセス
④ステージ1 自然児
⑤ステージ2 傷ついた子供
⑥ステージ3 放浪者
⑦ステージ4 求道者
⑧ステージ5 戦士
⑨ステージ6 達人
⑩ステージ7 魔法使い
⑪ステージ8 変革者
⑫ステージ9 勇者
⑫ステージ10 覇王
⑬ステージ11 仙人
⑭ステージ12 賢者
⑮ヒーローズジャーニーの教え

新刊“To be a Hero”の内容紹介 ⑬ステージ10 覇王

ステージ10 覇王

 勇者は、戦いに勝利することによって、貴重な宝を得ることができます。しかし、その宝は、大きな力を持つものであり、良くも悪くも世界を変える可能性のあるものでもあります。その力を求めて、奪いに来る者もいるでしょうし、奪われてしまったら、悪用されて、国や世界、地球に害悪を及ぼすかもしれません。また、勇者の死後、上手に宝を継承できないかもしれませんし、後継者たちが宝の扱いを間違えてしまう危険性もあります。宝のパワーが強力であるがゆえに、勇者は、それらの懸念に対処する必要に迫られます。宝を守り、継承していく方法を探るのです。
 かくして、勇者は、覇王へと変容を遂げることになります。
 覇王は、宝を奪おうとする者たちから宝を守るために、体制や構造を作ります。国をおこし、城を建て、城壁を固めます。敵に負けないように、兵力を増強し、国土を広げて収穫を増やし、国力を高めます。宝の力は、その勢力増強の源泉でもあります。宝の魅力によって、多くの人の注目を集め、優秀な人材や富を集めて、急速に勢力は拡大していきます。また、覇王は、後継者の手配も怠りません。組織を作り、ルールや法律を定め、協力体制を整えます。宝を守るための方法を確立し、教育を通して人材を育成し、揺るがない盤石の伝統を構築します。かくして、覇王は、諸国列強に覇を唱える王者となるのです。
 覇王の恐れるものは、無秩序と制御不能です。覇王がリーダーシップを発揮しなければならない対象は、もはや自分やチームの範囲をはるかに超えて、大人数の組織、国、勢力圏となります。自己イメージが、小さな自分を超えて、組織や国家、国家連合へと広がるのです。覇王は、巨大化した自己を上手に統制しなければなりません。やり方によっては、平和で幸せを実感できる世界となりますが、方向性を間違えると、対立、勢力争い、陰謀、不正義がまかり通る無秩序状態となってしまいます。それは、ほんの少しのずれであっても、末端に至る時には大きな波紋となって影響を及ぼしますので、毛ほどのずれも起こさない注意深さが必要です。また、悪貨は良貨を駆逐するの例えの通り、組織の中の邪悪さを見逃すと、その広がりはあっという間です。気づいたらもう戻ることのできない隘路にはまってしまうことになるので、いち早く邪を見つけて祓うこと、組織の風土を善良で健康なものにする努力を怠ることはできません。
 覇王は、こうした、多くの管理や仕事を、自分一人でなすことはできないので、組織を通して実現することになります。ある意味で、組織とは、覇王の体であり、覇王と組織は一体です。覇王の人格が高く、洗練されている場合には、組織も同様に高い意識と思いやりによって、風通し良く、お互いに信頼し、助け合って、効率よく動くことになりますが、覇王の人格が低く、洗練されていない場合には、その悪影響が露骨に組織を通して現れることになります。部下たちは、覇王の悪いところばかりまねて、覇王の持つ自分勝手でわがままで残酷な最も悪い欠点を受け継いで、その小さな覇王の権化として悪徳なふるまいをします。組織の中に悪意や陰謀、嫉妬や憎悪などがたちこめると、たちまち風通しは悪くなり、各種ハラスメントが横行し、構成員のモチベーションは下がります。結果的に、効率は悪化し、業績は頭打ち、もしくは下降傾向になり、それだけではなく、大きな不祥事が発生する危険性も高くなります。
 覇王は、こうした組織風土の悪さを幹部や部下のせいにするべきではありません。広い目で見た場合は、悪徳の発生源はトップにあります。類は友を呼ぶように、トップの性質に共鳴する人たちが縁を持って集まってきますし、トップが語りふるまうように部下たちもふるまいます。その際、トップの美徳や高い意識からくるものは、基本的に模倣が困難なので、部下たちにとって身近に感じる低い意識、欠点をよく見て、まねるのです。ですから、組織は、トップの美徳の部分の反映というよりは、悪徳の部分の反映となりがちです。だからこそ、覇王の人格の完成が必要となるのです。
 ゆえに、覇王にとっての課題は、自分の人格を高めていくこと、自我という狭い枠組みを乗り越えて、組織や国家、人類への貢献という高い志を持つことになります。覇王は、自分の中の欠点の多くを克服する必要があります。もはや感情の赴くまま、好きなようにふるまうことはできません。自制心をもって万人の見本となる必要があるのです。覇王は、自分の中のいまだ癒やされていない痛み、焦げ付くような渇望、欠乏の恐怖に注意深くある必要があります。そうした側面を癒し、騒ぎ立てるエネルギーを開放し、悪徳に支配されるのではなく克服していく努力をする必要があります。そうした欠点は魔がたちいる隙間となり、覇王の考え方や意思決定、行動に魔が差す機会を与えることになります。トップのちょっとした間違いは、組織全体に深刻な悪影響をもたらし、数倍になって重大なトラブルを引き起こしかねません。トップのあり方は、想像以上に重要なのです。覇王は、そうした自分のエゴという狭い了見の望みをいち早く癒し、とらわれることを止めて、もっと大きな自分である、家族、国、人類という大きなスケールの幸せを追及することが大切です。覇王は、大志をもって大志に忠実に、揺るがない強い心で多くの人たちの人生に貢献するのです。

新刊“To be a Hero”の内容紹介】
①おわりに
②ヒーローズジャーニー
③ヒーローズジャーニーをもとにした人の成長プロセス
④ステージ1 自然児
⑤ステージ2 傷ついた子供
⑥ステージ3 放浪者
⑦ステージ4 求道者
⑧ステージ5 戦士
⑨ステージ6 達人
⑩ステージ7 魔法使い
⑪ステージ8 変革者
⑫ステージ9 勇者
⑫ステージ10 覇王
⑬ステージ11 仙人
⑭ステージ12 賢者
⑮ヒーローズジャーニーの教え