チームやチームビルディングは、最近の経営学のとても大きなテーマの一つとなっています。その在り方によって業績へのインパクトが良くも悪くもとても大きいからです。
チームには、不思議な力がありますよね。1+1=2とは限らない、時にはそれ以上の力が発揮されて驚くような結果につながるという魔法の力、奇跡の力ともいえるものがあると思います。
そもそも、チームの力がチームメンバーの力の総和だとしたら、なでしこジャパンが世界一になれるわけがありません。そこには、チーム力という不思議な力が働いていたからこそ起こった奇跡なのではないでしょうか。
このシリーズでは、この奇跡の力をどう引き出すかについて、私どもの考え方をご紹介したいと思います。
チームビルディングのステップ
ばらばらの個人の集まりに過ぎないチームを、目的に向けて協力し合い、潜在化していた大きな力を引き出して最善の結果に導いていく一連のプロセスをチームビルディングと言います。心理的安全性に基づく良いチームを作るためには、以下の4つのステップが必要です。
第1ステップ 受容
メンバー同士が、お互いを仲間として受け入れるプロセスです。このプロセスが成功すると、メンバーのチームへの参加度合い(コミットメント)を高めると同時にメンバ同士がお互いに深く関心を持ち、相互理解を深めオープンマインドとなり、ハイパフォーマンスの原点となる信頼関係につなげていくことができます。
逆に、本プロセスがないがしろにされたり未解決である場合には、メンバー間の緊張と懸念、不信感が強まり、メンバー同士を仲間というよりは警戒すべき他人、または敵と認識し、今後のあらゆる工程で防衛的、警戒的な態度を引き起こし、さらに深刻かつ感情的で容赦のない葛藤を生み出す可能性があります。
第2ステップ 開示
メンバー個人に内在しているデータや情報、感情や考えを表出し、聴きあうことによって、情報とエネルギーがチーム内で交流しあうステップです。
情報や感情が個々人の中に潜在化しているときには何も変化が起こりませんが、一旦交流が始まると、チームの潜在能力と可能性が顕在化し、さまざまな創造性や問題解決に向けての効果的なプロセスが動き始めることになります。
逆に、このステップが未解決の場合には、メンバーの見せかけだけのふるまい、慎重で自己防衛的な態度、巧妙なサボタージュ、お役所体質などと言った問題を引き起こす可能性があります。
第3ステップ 目標設定
協力し合う目的、理想とするビジョン、達成したい目標を明確にするステップです。このステップを通して、個々人のチームに参加する動機が表明され、単にチームのタスク目標だけではなく、実現したい価値や理念、理想やポリシーも含めたチームのビジョンとして統合されていくことになります。
目標設定が成功した場合は、チームメンバーのモチベーションが高まり、主体的かつ積極的なチーム活動への参画を促し、結果的に高いチーム成果を引き出すことになります。
逆に、未解消の場合は、相互不信を招き、相互に距離を置き無関心を装うか、分離感を強めると同時に競争心が強まり、不要な葛藤を生み出す可能性が出てきます。
第4ステップ 組織化
お互いの個性、能力、可能性についての相互理解が深まり、特徴に応じて役割分担がなされると同時に、仕事の進め方や問題解決の方法が有機的に統合され、ブラッシュアップされていくステップです。
このステップの課題を乗り越えると、リーダーシップ機能は特定のリーダーのみに依存するというよりは、個性に応じて分かち担われるようになります。メンバー間の信頼関係や絆は強まり、お互いに頼もしい仲間と感じる相互依存の関係性へとチームは成長を遂げていきます。本音ベースの質の高いコミュニケーションが実現しており、問題解決に至るひらめきやアイデアの質も高まり、結果的にチームの力は形成初期とは比較にならないほど強くなります。
逆に、このステップが未解消の場合は、強い依存心や主体性、責任感のなさを引き起こすか、反対に強い権力志向や権力闘争を巻き起こす可能性があります。
チームビルディングのポイント ~受容と開示の重要性~
チームを作る際に、私たちは、いきなり「目標設定と役割分担」を設定しがちですが、前提となる「受容、開示」のステップがクリアーされていない限りは、目標や計画がどのように洗練されたものであっても機能しません。
チームが目標に向けて一丸となって協力体制をとるためには、「受容、開示」のステップが不可欠なのです。
ちなみに受容と開示のステップは、容易ではありません。受容と開示ができない背景には、懸念(不安や恐怖、誤解)がありますが、懸念は、持ってしかるべきものであり、そう簡単に解除することはできません。私たちは天使に囲まれて生きているわけではありませんので、攻撃を受けたり傷つけられたりするリスクがあります。ですので、身を守る防衛力を持つ必要があります。また逆に、不用意に相手を傷つけたり相手に不快にさせないような注意深さも必要なのです。懸念は、そうした防衛力や注意深さの源泉ともなるので、決して不必要なものではありません。
ただ、リスクがあるからと言って固く身を守り心を閉じてしまうのは決して良策とは言えません、可能であれば心を開いて豊かな関係性を育んでいきたいという願いはだれしもが持っていると思います。
私たちは、自己防衛と自己開示と言う全くベクトルの異なる矛盾した力を同時に使いながら人間関係を育まなければなりません。だからこそ、人間関係は難しいのだと思います。ただし、不可能ではありません。人には高い次元で両方の力を統合することができる能力があります。
不安や恐怖は、必要ですが、決してそれに支配されてはいけません。それらは乗り越えるものであり、踏み台にして成長していくためのステップなのです。
自己防衛と自己開示を高い次元で統合した状態こそが、心理的安全性と呼ばれる状態なのだと思います。そして、心理的安全性が確保されることによって、チームの偉大なる可能性を引き出すための準備が整い、本来の力を発揮することができるようになるのです。
古来、有能なリーダーは、この受容と開示のステップ、つまり懸念(恐怖や不安、誤解)を解消するステップを意識するとせざるとに関わらず、上手に対処し、十分にクリアーすることによって強力なチームを作ってきました。優れたチームを作るためには、受容と開示のステップ、すなわち人間関係に必ず存在している恐怖や不安を意識的に乗り越えていく必要があります。
<関連記事>
・チームビルディング ①チームビルディングのステップ
・チームビルディング ②受容ステップを乗り越えるために
・チームビルディング ③開示ステップを乗り越えるために