本シリーズでは、新刊“To be a Hero”の一部の内容をご紹介しています。今回の投稿は、第4章「勇者への冒険」の第1節「ヒーローズジャーニーの理論」です。
<以下、電子(Kindle)書籍“To be a Hero”一第4章「勇者への冒険」第1節「ヒーローズジャーニーの理論」より抜粋>
アメリカの哲学者ジョセフ・キャンベル(1904 – 1987)は、ネイティブ・インデアンの神話を皮切りとして、幼少期から世界中の神話に興味を持ち、読破していきました。世界中の多くの神話を研究した結果、どの神話にも共通する一連のパターンがあることに気づきました。場所も時代も異なる無数のバリエーションがある神話の中で、いくつかの共通する同じストーリーの英雄伝説が繰り返し語られていることに気づいたのです。キャンベルは、その共通する一連のテーマや流れを『ヒーローズジャーニー(英雄の旅)』と名づけました。
このヒーローズジャーニーの考え方は、その後、多くの文化面に影響を与えることになります。ジョージルーカス監督が、「スターウォーズ」を製作する際に、このヒーローズジャーニーを活用したことは有名な事実です。現代ではスターウォーズだけではなく、多くの物語、映画が、この理論に影響を受けていると言われています。
また、ヒーローズジャーニーの考え方は、文化面のみならず、心理学やキャリア教育にも活用されるようになりました。神々が勇気をもって未知の世界に挑戦し、多くの試練を経て成長していく姿は、人が苦悩を乗り越えてたくましく生きる人生ととてもよく似ており、人のキャリアや人生のひな形にもなると考えられています。この困難が多い世界の中で生きる生き方の指針と考えると、とても参考になることが多いと考えられているのです。現在では、心理学やキャリア教育においても、このヒーローズジャーニーは、人の人生を肯定的に前向きにに考えていくための有効なツールとして、多くの場で活用されるようになってきています。
本章では、このヒーローズジャーニーの理論を紹介していきたいと思います。ヒーローズジャーニーの考え方を参考にしながら、自分らしくたくましく幸せに生きる生き方を探求していきましょう。
1.ヒーローズジャーニーの理論
ヒーローズジャーニーの創作者であるキャンベル博士は、「千の顔を持つ英雄(上下)」(人文書院)において、その理論を展開しています。千の顔を持つ英雄の中では、神々が日常から旅立ち、試練を経てに故郷に戻ってくるプロセスを17のステップで整理しています。その後、ハリウッドの脚本家、ストーリー開発の一人者と言われるクリストファー・ボグラーが「神話の法則」(ストーリアーツ&サイエンス研究所)を出版し、より簡素で分かりやすい12のステップの流れを発表しました。ここでは、ボグラーのヒーローズジャーニーの理論をご紹介していきましょう。
①ヒーローズジャーニーの全体像
ボグラーの「神話の法則」で紹介されているヒーローズジャーニーの全体像、一覧は、以下の通りです。
ヒーローズジャーニーの全体像
幕 |
ステージ |
第一幕
出立、離別
(英雄の決断) |
ステージ1 日常の世界 |
ステージ2 冒険への誘い |
ステージ3 冒険への拒絶 |
ステージ4 賢者との出会い |
ステージ5 第一関門突破 |
第二幕
試練、通過儀礼
(英雄の行動) |
ステージ6 試練、仲間、敵対者 |
ステージ7 最も危険な場所への接近 |
ステージ8 最大の試練 |
ステージ9 報酬 |
第三幕
帰還
(行動の結果) |
ステージ10 帰路 |
ステージ11 復活 |
ステージ12 宝をもって帰還 |
ヒーローズジャーニーでは、数々の神話には、以上のような共通するテーマや流れがあると考えられています。
日常で普通に暮らしていた英雄は、旅に出る意志を固め、二度と戻れない旅に出ます(第一幕 出立、離別)。
故郷を後にした英雄は、仲間と出会い、敵と戦うなど、数々の試練を通して成長し、最大の試練で勝利を得ます(第二幕 試練、通過儀礼)。
そして、故郷に帰還し、故郷に宝を持ち帰る(第三幕 帰還)のです。
以上の大きな流れの中で展開される12のステージに関して、以下、その詳細を解説していきましょう。
②ヒーローズジャーニーの12のステージ
ステージ1 日常の世界
旅立つ前のヒーローの日常です。しばしば、日常のヒーローは、問題の多い環境の中で、欠乏や困難の中で苦労している欠点の多いキャラクターとして描かれます。
ステージ2 冒険への誘い
助けを求められる、ひらめく、天命を受ける、事故にあう、投獄される、などなど、良くも悪くも、外的もしくは内的な出来事によって、日常の習慣のままではいられない立場に追いやられてしまいます。それらの出来事は、今までのやり方や知識、現在のリソースでは解決することができません。ヒーローは、何らかの形で、全く新しい挑戦を試みなければならなくなるのです。
ステージ3 冒険への拒絶
全く新しい冒険に出る必要性に迫られたヒーローですが、ヒーローの周囲の人たちは、そうした必要は全く感じていません。むしろ、ヒーローの気づきや危機意識は、突飛であり、笑いものの対象となります。周囲の人の価値観とヒーローの価値観に解離が起こるのです。ヒーローは、自分の気づきの方が間違えているかもしれないと感じ、周りの人から嘲笑されたり非難されることを恐れ、または、それなりに安定している日常の生活を失うことを恐れ、または、未知なる冒険に不安を感じ、一歩踏み出すことを躊躇します。このままではいけないという必要性は理解しながらも、だからと言ってそこまでのリスクを背負うことが正しいのかどうかを迷うのです。
ステージ4 賢者
新しい旅に出ることをためらうヒーローに、助言をし、さまざまな準備を整えさせて、旅に出る勇気を与えてくれる賢者が現れます。賢者は、神、師匠、親、などの人として現れる場合もあれば、強力な武器、剣、魔法の道具、本、知識、等の形で現れる場合もあります。ヒーローは、そうした助けを得て、自分の気づきへの信頼を回復し、人の言うことではなく自分が受け止めた使命、危機意識、希望と夢、価値を選ぶ決断をし、腹を決めます。
賢者は、いつもヒーローにとってやさしく慈悲深い存在として現れるとは限りません。時には、自分が気づいた脅威によって身内が傷つけられたり、大きな事故が起こったりなど、ネガティブな事件がその役割を果たすこともあります。時に、ヒーローは、そうしたショックを通して、自分の気づきや危機感が、周囲の人たちの言うような勘違いではなく、間違いない真実であることを確信し、迷いを断ち、冒険に出る覚悟を決めるのです。
ステージ5 第一関門突破
旅に出る覚悟を決めたヒーローが、現在のなじみのある日常を捨てて、新しい未知な世界に入ろうとする時に、第一関門となる障害が出現します。異なる世界をつなぐゲートには、必ず難攻不落の門と門番がいるのです。ヒーローは、戦ったり、取引をしたり、出し抜いたりして、なんとか関門を突破し、全く未知なる新しい世界に一歩足を踏み出すことになります。関門の守護者は、ヒーローの障害にはなりますが、悪人ではなく、必ずしも乱暴に戦い、倒さなければならない存在というわけではありません。むしろ、やり方によっては、協力者、味方になってくれて、後々助けてくれる可能性もあるのです。ヒーローは、上手にこれを乗り越えるための器量が問われることになります。
ステージ6 試練、仲間、敵対者
旅に出たヒーローが入り込んだ世界は、多くの場合、故郷の日常の在り方とはかけ離れた世界であり、常識の通用しない全く新しい可能性、または思いもよらない危険に満ちた世界となります。ヒーローは、そのような世界を手探りで探求し、非日常の特別な世界のルールを学び、謎を解き、なじんでいくことになります。旅の途中で、さまざまな試練に出くわしながら、新たな協力者を得たり、敵対者と戦うことを通して旅に必要な友情や信頼を育むスキル、体力や格闘の能力、問題解決のスキルを磨いていきます。
ステージ7 最も危険な場所への接近
ヒーローは、旅のプロセスで、問題の本質を次第に見抜き、その問題を作り上げている最も強く恐ろしい怪物の正体をつきとめたり、根本的に問題を解決するための道具や方法=宝のありかを見出します。敵の親玉の怪物の住む場所や、 宝の隠されている場所は、特別な世界の中でも最も危険な場所です。そこは、ドラゴンの住む恐ろしい洞窟であり、魔王が支配する地獄であり、出口の見えない迷宮です。いわゆる死の土地であり、一歩踏み込めば、命の保証がない、とても危険な場所なのです。
ヒーローは、それを恐れ、時にそこから来る使者に傷つけられ、逃げまどいながらも、仲間を見つけ、ともに戦い、戦いながらそれの正体と弱点を学び、獲得した知識や力、スキルとともに、その難関に挑戦することになります。作戦を立て、計画を練り、武器と防具をそろえて準備を整え、その最も危険な死地に赴きます。
ステージ8 最大の試練
ヒーローは、最も危険な場所で奈落の底に落とされ、最大の恐怖と向き合い、死の淵を垣間見ることになります。最大の恐怖は、ドラゴンのような外的な存在の場合もあれば、自分の内面に封じ込めて直面することを避けていた傷のような内面の存在の場合もあります。
この「最大の試練」のステップは、死と再生の通過儀礼でもあります。ヒーローは、最大の敵に攻撃されて、傷つき、倒れ、一度死ぬか、死んだようになります。ヒーローにとって最悪な瞬間、陰鬱とした絶望、最も危ない緊迫した時間となります。しかし、ヒーローは、その絶望の果て、奈落の底で、ドラゴンとは自分の恐怖であることを直覚し、それは幻想であることを見極め、勇気を取り戻して立ち上がり復活します。そして、生まれ変わり、成長した自分になって、敵に打ち勝つのです。
こうした最悪の試練に出会うことは、ヒーローの宿命でもあります。ドラゴンがいないヒーロー伝説は存在しません。ヒーローは、七難八苦、癒しようがない悲しみ、痛み、憎悪、救いようのない絶望、乗り越えられない壁に出会うことは運命なのです。
ヒーローは、そうした試練の中で、刃折れ矢尽き、友と離ればなれとなり、力を失います。彼は孤独であり、望みはなく、暗く惨めであり、もはや誰にもこんな自分を見られたく無いと絶望の中で膝を抱えます。
しかし、夜明け前こそが一番暗いことを決して忘れません。一番苦痛に満ちている瞬間が、一番の幸福への始まりの瞬間であること知っているのです。神は乗り越えられない試練は与えないという真実を信じており、絶望の極みで勇気を奮い立たせて立ち上がります。自分の中にまどろんでいる力、今まではその存在を知らず、気づかず、期待もしていなかった驚くべき可能性に気づき、新しい自分に目覚めるのは、そのような時です。
そうしてヒーローは、奈落の底で目覚め、再生し、新しい力をまとった新しい自分として反撃に出るのです。
ステージ9 報酬
生死をかけた危機を乗り越え、最大の敵に勝利したヒーローは、探し求め続けていた宝物を手に入れます。宝物は、魔法の剣や霊薬のような物質的なものである場合もあるし、助け出すことができた人との愛と友情などの関係性である場合もあるし、名誉や平和、悟りなど精神的、象徴的なものである場合もあります。
ヒーローは、愛する者たちのために危険を承知で死地に赴き、最大の障害をのりこえ、勝利を手にすることによって、英雄の称号を得ます。本来の自分の可能性や潜在性が解放されて新しいステージの自分となり、より魅力に富んだ輝かしい存在へと変容を遂げることになるのです。
ステージ10 帰路
最大の試練に勝利を得たヒーローは、宝物を故郷に持ち帰るために、日常の世界に戻ることを決意します。しかし、その帰路は、多くの場合、スムーズではありません。敵の残党が宝物の奪還を目指して追って来るかもしれませんし、最後の死力を振り絞って復讐の戦いを挑んでくるかもしれません。特別な世界の秘密を日常の世界に持ち出すことを快く思わない存在から帰還を邪魔されるかもしれません。日常の世界に行くことができないヒーローの仲間、契約者が、反乱を起こすかもしれませんし、得た宝物を奪おうとする新たな敵が追ってくるかもしれません。
多くの場合は、帰還の際に、そうした追う者たちから逃れようとする追走劇が展開されていくことになります。追いつ追われつのレースの中で、ヒーローは、学んだ魔法や武器で追跡者を撃退します。時に窮地に追い込まれると、特別な世界で手に入れたものを、追って来る者たちに目くらましとして投げつけでることで、少しずつ身軽になっていきます。特別な世界と日常の世界を分ける境界を潜り抜けるための準備をしていくのです。
ステージ11 復活
追跡者をかわすことができたヒーローは、特異な世界と日常の世界を分ける関門をくぐり、日常の世界へと帰還します。その際、ヒーローは、特異な世界でつけてしまった垢、汚れ、穢れを落とし、浄化されて新しい存在に生まれ変わることになります。
多くの場合、このみそぎと復活のプロセスは、最大の試練に次ぐ第二の試練ともなります。ヒーローとしての徳性、学びを得られていない場合は、境界を守る門番が、その関門を通ることを許してはくれません。宝物を日常の世界に持ち込む事と引き換えにヒーローの大切なもの、時には命を求められるかもしれません。また、ヒーローが特異の世界になじみすぎてしまい、日常の世界に戻ることを嫌がる可能性もあります。また、ヒーローが手にすることができた宝物の価値を日常の世界の人たちが理解できずに無視するか、もっと悪いことに悪用するかもしれなく、その危険性の方が高いと絶望してしまうかもしれません。さらに、日常の世界の権威が、ヒーローが持ち帰る宝物をほしがって奪いに来るかもしれませんし、逆にその力を警戒して、宝物を破壊、もしくは日常世界で活用ことをあらゆる手を尽くして阻止するかもしれません。それらの試練は、ヒーローが本当に教訓を学び取って成長し、英雄としての資格を得ることができたのかどうかのテストであり、失敗すれば、すなわち日常の世界にとっての死を迎えることになります。
ヒーローは、こうした試練に対して、冒険で学び獲得した能力と武器によって乗り越えることができます。その勝利は劇的であり、冒険に旅立つ前は勝てなかった相手、圧倒的な力の差から屈服せざるを得なかった敵であっても、成長した勇者として立ち向かい、見事に勝利をおさめます。こうして、ヒーローは、全ての困難を克服して、真の勇者となって、日常世界に生まれ変わることになるのです。
ステージ12 宝をもって帰還
冒険を終えてヒーローは、故郷に戻ってきます。その際、ヒーローは、冒険を通して得ることができた宝物や教訓を持ち帰ります。ヒーローが持ち帰った宝物は、癒しの力を持った魔法の薬、荒廃した土地をよみがえらせる聖杯、王国の復活、友情、支配からの解放、世界に役立つ知識、世界を変える叡智、などさまざまな可能性があります。ヒーローを迎える故郷は、ヒーローが持ち帰る宝物によって、より良いコミュニティとなり、喜びと健康と平和を手にすることができるのです。こうして、ヒーローの一つの冒険が幕を閉じることになります。
【新刊“To be a Hero”の内容紹介】
①おわりに
②ヒーローズジャーニー
③ヒーローズジャーニーをもとにした人の成長プロセス
④ステージ1 自然児
⑤ステージ2 傷ついた子供
⑥ステージ3 放浪者
⑦ステージ4 求道者
⑧ステージ5 戦士
⑨ステージ6 達人
⑩ステージ7 魔法使い
⑪ステージ8 変革者
⑫ステージ9 勇者
⑫ステージ10 覇王
⑬ステージ11 仙人
⑭ステージ12 賢者
⑮ヒーローズジャーニーの教え