ステージ8 変革者
魔法使いは、潜在意識の世界を探求し、常識や偏見、間違えた信念から解放されて、真実を理解する力を身につけていきます。そして、そのもっとも深いところで、理想の未来像であるビジョンを直覚します。そのビジョンは、過去から今までの延長上にあるものではなく、全く新しい理想であり、全く独創的で一見突飛なアイデアとなります。魔法使いは、潜在意識の深みで出会えた理想をこの世界で実現したいという強い情熱、使命感を持つようになり、ビジョンの実現に向けて一歩を踏み出すことになります。
かくして、魔法使いは、変革者へと変容を遂げることになります。
変革者が掲げるビジョンは、今までの延長上では考えつかないような全く新しい未来像です。それが実現した暁には、けた外れの富と名声、成長をもたらすイノベーションとなる可能性があります。変革者が求めるものは、改善ではなく、まさに革命なのです。
ただし、変革者が歩もうとする道のりは平坦ではありません。ビジョンの価値を理解できる人は少なく、その実現を信じる人はもっと少なく、すなわち真剣に協力してくれる仲間を得ることは容易ではありません。技術的に乗り越えなければならない壁も多く、時間とお金をかけたからと言って成功する保証はどこにもありません。また、変革者のビジョンを実現するためには、旧来の方法を捨て去る必要があります。それは、創造的破壊であって、新しい創造を実現するためには、古い構造を破壊し、スペースを開ける必要があるのです。旧来の方法に慣れ親しんだ体制側にとっては、変革者の為そうとすることは、自分たちへの攻撃です。旧体制側にとっては、変革者の掲げる夢はたわごとで実現性のないばくちであり、価値のないお遊びなのであって、そんなもののために、今まで築き上げてきた大切なノウハウや技術を捨て去ることは背信行為なのです。結果、旧体制側は、多くの場合、変革者に反対し、邪魔をして、成功を阻止することに血道を上げます。ですので、変革者がプロジェクトを推し進めようとするときには、旧体制という巨大な権力を敵に回さなければならなくなり、すさまじい抵抗と妨害、攻撃を受ける危険性があるのです。
しかし、変革者は、どのような障害があってもめげることはありません。どのような高い壁であってもあきらめることはありません。強い使命感と情熱を持っており、その強い意志は何物でも変えることはできません。なぜならば、自分が見たビジョンは、まさに天からの授かりものであり、その実現を天が味方してくれると信じているからです。実際に、変革者は運を味方に、極めて困難な革命をやり遂げることできます。変革者は、少ないながらも自分を信じてついてきてくれた協力者と固い絆を結び、そのチーム力をもってどのような難しい課題であっても奇跡的に乗り越えることができます。旧体制側の妨害行為に対してもひるむことはありません。大義名分を掲げ、旧体制側の矛盾と欠点を突き、切り崩して破壊し、空いたスペースに新しい創造を構築していくのです。
こうして、変革者は、今まで通りの未来ではなく、全く新しい未来を創造することになります。それは、全く新しい商品、全く新しい生産方法、全く新しい技術、全く新しい手法から始まりますが、その影響の波紋は末広がりに広がり、経済のみならず社会や文化、世界のあり方にまで、不可逆的な変化をもたらすことになります。変革者は、改善者ではなくイノベーターであり、まさに世界に進化をもたらすのです。
しかし、一方で、その変化は急激であり、大規模となります。新しい創造ももたらされますが、その代わりに、古い構造やあり方が破壊され、消え去っていきます。破壊され、消え去るものの中には、その変化に対応できずに、その変化を受け入れられずに、踏み台にされたことをうらみ、新しい成功に嫉妬し、怒りをもって変革者を呪い、復讐のチャンスを狙うかもしれません。もし変革者に、強引さや暴力、大義名分を失う失敗があれば、それをついて増々憎しみの勢力は増すことでしょう。ですので、変革者は、消え去る者たちの痛みをよく理解、共感し、配慮する必要があります。うらみは避けがたいとは言え、できる限り調和的に事を進めるように努力する必要があります。変革者の課題は、第一にそうした踏み台になる者たちへの配慮をすることと言えます。
また、変革者の得たビジョンは、はじめから完璧で非の打ちどころのない青写真として生み出されたとは限りません。方向性は正しいかもしれませんが、その細部に至っては、多くの修正と調整、新しいアイデアや工夫が必要である場合が大半です。変革者が、自分のビジョンにこだわりすぎると、新しい創意工夫や修正の機能が働かずに、間違えた変化を起こしてしまう恐れもあります。イノベーションの力は強烈であり、間違えたイノベーションは、多くの人たちに不幸、最悪の場合は死をもたらします。ですので、不注意による過ちを犯さないような注意深さと努力が必要なのです。自分のバイアスや間違いを正すための最善の方法は、対話です。3人寄れば文殊の知恵という魔法は、真実です。変革者は、自分のビジョンを、信頼のおける仲間とともに検討していく必要があります。チームの対話力を通して、ビジョンをより完成度の高い正解へと磨き上げていくのです。その際、指摘を攻撃と感じて怒る狭量さや、人の意見に耳を傾けられない頑固さは、慎まなければなりません。大義は、世界に幸福をもたらすことであって、自己満足ではないのです。変革者にとっての2つ目の課題は、自分の中の狭量なエゴを乗り越え、仲間を信頼し、対話の魔法の力を信じて、チームとして事に当たっていくことだと言えましょう。
【新刊“To be a Hero”の内容紹介】
①おわりに
②ヒーローズジャーニー
③ヒーローズジャーニーをもとにした人の成長プロセス
④ステージ1 自然児
⑤ステージ2 傷ついた子供
⑥ステージ3 放浪者
⑦ステージ4 求道者
⑧ステージ5 戦士
⑨ステージ6 達人
⑩ステージ7 魔法使い
⑪ステージ8 変革者
⑫ステージ9 勇者
⑫ステージ10 覇王
⑬ステージ11 仙人
⑭ステージ12 賢者
⑮ヒーローズジャーニーの教え