3.ヒーローズジャーニーの教え
ヒーローズジャーニーは、含蓄に富んでおり、多くの学びの種がそこに隠されています。きっと深く探求すればするほど、意義深い気づきをえることができることでしょう。ここでは、その中のほんの一部にしかすぎませんが、本書なりにまとめてみたいと思います。
①全てのステージが必要である
前章で、英雄の成長プロセスが、「自然児→傷ついた子供→放浪者→求道者→戦士→達人→魔法使い→変革者→勇者→覇王→仙人→賢者」の12のステージを経ていくことを解説しましたが、英雄として成長するためには、そのすべてのステップを充分に体験し、そこでの課題や学びを体得する必要があります。通常、私たちが、英雄と感じるのは、戦士以降ではないでしょうか。英雄とは光り輝く完成された存在であるというイメージがあるので、欠点の多い自然児から求道者までのプロセスは、英雄とは感じづらいのではないでしょうか。ですが、ヒーローズジャーニーの考え方では、どのステージも英雄が経験し学ぶ必要があるプロセスであり、ないがしろにできるものはありません。かっこ悪いからと言って、そのステージをいい加減に過ごしてしまうと、後々勇者や達人、魔法使いになった時に、残してしまった宿題に悩まされることになってしまいます。ですから、自分勝手で欠点が多いあり方を生きることは、成長へのプロセスとして、必要なことなのです。それを恥じたり責めたりするべきではないのです。なぜならば、そうした下積みともいえる学びがあるからこそ英雄になれるのですから。
今、自分の立ち位置が放浪者で、困難や真実に向き合えずに逃げてばかりいたとしても、決してそのような自分を恥じたり罪悪感を感じたりすべきではありません。英雄には、うそをついて誤魔化す体験、失敗してみじめな思いをする体験、自分勝手で孤立してしまう体験は、成長へのプロセスとして必要不可欠なものなのです。だから、自分の中にある愚かさ、弱点、醜さを、人類全般が通る道であるとして許し、受け入れることが大切です。自分にもそうであるように、他人にも寛容さを持つことが大切です。人類全般が通る道だとしたら、自分が体験した罪や恥は、自分だけのものではなく、あらゆる人が体験するものだからです。罪を憎んで人を憎まないことが大切なのだと言えましょう。自他の醜さや欠点を拒否すればするほど、それはますます強く存在を主張し、どこまでも追いかけてきます。英雄は、その存在を許し、それと面と向き合い、ありのままを知って反省し、成長に向かうのです。ただし、ずっと愚かなままでいいというわけではありません。英雄にはもっと偉大な存在になる可能性がまどろんでおり、その段階にとどまり続けようとすることは不自然なことです。充分にそのステージを楽しんで、ステージの課題を乗り越えることができたならば、次のより成長した自分へと変容を遂げていくのです。
②勇気こそが成長を促す
ヒーローズジャーニーを読み解くと、英雄が成長するために必要なことは、単なる頭のよさやテクニックではないことが分かります。そうした小賢しさは、英雄が直面する死の恐怖には通用しないのです。成長と正義には危険がつきものです。 英雄が故郷を後にして成長の旅に出ようとすると、裏切者扱いしてくい止めようとするものが現れます。英雄が正義をなそうとしたら、闇の圧倒される権力が攻撃をしてきます。そうした非難や攻撃の恐怖を乗り越えるために必要なものは、小賢しさやテクニックではなく、勇気です。勇者が成長し、正義をなそうとするときに邪魔をするのは、勇者自身の恐怖であり、その恐怖を乗り越えるために必要なものこそが勇気なのです。決して大それた蛮勇が必要なのではありません。欠点も含めて正直に自分を語る勇気、相手を攻撃するのではなく愛していると言いう勇気、そして真実の自分を裏切らない勇気です。
さて、それでは、どうすれば勇気を持てるのでしょうか?実は、勇気は獲得するものではありません。もともと人の美徳として存在し、まどろんでいるものです。太陽が存在しないわけではありません。雲が厚くたちこめているので光が見えないだけなのです。ですから、勇気を取り戻すために必要なことは、厚くたちこめた雲を吹き払うことです。雲とは、自分を信じられない心、自己嫌悪、葛藤、自己憐憫、罪悪感、恥の思い、恐怖、不安、などです。それらの暗く重苦しい思いを受け入れ、許し、手放していけば、自信と愛と勇気は自然に回復してくることでしょう。
③勇者の人生にドラゴンはつきもの
世界中のどのような神話を探しても、ドラゴンが存在しない英雄譚は存在しません。英雄にとって、ドラゴンに象徴される痛みや苦しみ、耐え難い困難はつきものなのです。人も同じであり、この世で生きる限りは、痛みや苦しみ、困難を避けることはできません。うまく逃げ切る方法は存在しないし、たとえ逃げ切れたとしても、成長をすることができないので、勇者にはなれません。ヒーローズジャーニーの視点からすると、困難は避けるものではなく、直面して立ち向かい、乗り越えるものなのだと言えましょう。人は、困難にであい、もがき苦しみ、対処法を考え抜いて、自分を鍛えて成長し、壁を乗り越えることで成長していきます。人の成長には痛みがつきものなのです。
痛みを嫌い、困難を拒絶し続けると、自分の中で、弱いダメ人間としての自分、被害者としての自分の自己イメージが育まれます。弱いダメ人間としての自己イメージは、言い訳し、正当化し、うそをつきます。被害者としての自己イメージは、周囲を敵とみなし、防衛し、反撃します。欠点を持ちながらもそれを変えようとはせずに相手を責めて相手を変えようとします。それは、もはや勇者ではなく暴君です。
勇者は、どのような困難であっても、起こるべくして起こったことであり、自己成長のチャンスでもあると認識して、前向きにとらえ対処します。その過程で「何とかなる、大丈夫だ」という自己イメージ、確信が育まれて、困難を通して、反省し、学び、成長を遂げます。暴君として生きることは得策ではありません。自己防衛で疲労困憊するし、努力の割には一向に事態は好転しないし、友は去って孤独になります。一方で、勇者は、自分の弱さや欠点をおおらかに受け入れて正直に語り、仲間とともに笑い飛ばします。素直に反省して、対処方法を学び、今後は、同様な困難があっても容易に乗り越えられるようになります。あなたは、一度の人生をどちらの生き方で過ごしたいですか?
④新しい挑戦こそが自分の中の未知なる偉大さを引き出す
人は、ややもすると日常に埋没しがちです。そこは文句や不満はあれども、安心できる領域であり、ストレスなく快適に過ごすことができる小部屋です。狭く限定された領域を出て、英雄としての成長に踏み出すために、いろいろな形で誘いを受けますが、快適な小部屋に固執する場合は、全ての働きかけを拒絶し、自分の部屋に引きこもります。しかし、そうした態度を続ける事は、決して自然なことではありません。人には、もっともっと大きく偉大なる可能性がまどろんでいて、その可能性を実現させることこそが、人の究極の使命だからです。
狭く限定された快適ゾーンを抜け出すには勇気が必要です。なぜならば、小部屋の外には、思いもよらない危険があるからです。しかし、日常に埋没していた時には見えなかった自分の新たな可能性が顔をのぞかせるときは、思いもよらない危険に直面した時です。どうすればよいのか分からずにもがき苦しむときこそが、自分の新しい側面を引き出すチャンス、英雄としての成長へのチャンスなのです。
だからと言って、やみくもに大それた危険に立ち向かうべきではありません。準備が整ってない課題に挑戦することは、無謀であって自然ではありません。それは、パニックゾーンと呼ばれる危険な領域であり、決して満足のできる成功には至りません。むしろ、必要の無い傷を受けて、長く苦しむことでしょう。
挑戦は、程よいリスクに挑戦することが大切です。しっかりと目を開いて自分の人生を注意深く見つめたならば、聞こえてくる誘いの声、提示されてくる課題は、みな、こうした程よいリスクへの挑戦であるものです。人生に訪れるさまざまなイベントこそが、こうした今の自分にとってちょうどよい程度の挑戦への誘いでもあります。だからこそ、人生のもろもろの出来事を嫌ったり拒否したりせずに、誠実に向き合い、困難から逃げずに学び、準備を整えて乗り越えていこうとすることが大切なのだと言えましょう。
【新刊“To be a Hero”の内容紹介】
①おわりに
②ヒーローズジャーニー
③ヒーローズジャーニーをもとにした人の成長プロセス
④ステージ1 自然児
⑤ステージ2 傷ついた子供
⑥ステージ3 放浪者
⑦ステージ4 求道者
⑧ステージ5 戦士
⑨ステージ6 達人
⑩ステージ7 魔法使い
⑪ステージ8 変革者
⑫ステージ9 勇者
⑫ステージ10 覇王
⑬ステージ11 仙人
⑭ステージ12 賢者
⑮ヒーローズジャーニーの教え