ステージ7 魔法使い
達人は、心技体を鍛え、道を究めて、普通の人にはまねできない奇跡を実現できる力を身につけます。しかし、それだけ高いスキルをもってしても、人生に起こるもろもろの問題のすべてを解決することはできない現実に直面します。今のやり方では頭打ちであり、これ以上の問題には対処できないことを痛感するのです。また、達人は、道を究める上で、目で見て手で触れるものだけが全てではないことに気づき始めます。運などの非科学的で論理的に把握できない要素が結果に大きな影響を与えていることや物質的なものの背景にあるエネルギー的なもの、より精妙で分かりづらく、つかみどころのないものにこそ、大切な秘密が隠されれいることに気づき、直面している停滞感を打開するための突破口がそこにあるような気がして、見えない世界を探求し始めます。
かくして、達人は、魔法使いへと変容を遂げることになります。
魔法使いが探求しようとする世界は、とてつもなく深くて広い領域です。
物理学の世界では、私たちが目で見て認識できる素粒子は、宇宙全体の4.9%に過ぎず、26.8%が暗黒物質(ダークマター)と呼ばれる未知の物質によって、68.3%がダークエネルギーと呼ばれる未知のエネルギーによって占められていると考えられています。物理学的な見地からは、私たちが世界だと認識している世界は、全宇宙の5%程度ですが、真実は、その大半が、現在私たちでは認識できない謎にみちているということになります。
このような視点から考えると、私たち人間は、科学技術も進化していろんなことを知っているように思いこんでいるけれども、宇宙的な視点からすると、幼稚園児にもなっていない状況なのかもしれません。なにしろ、宇宙の95%以上の存在が、分からないのですから。
物理学の視点に立つと、私たちが生きる基盤としている考え方や生き方、常識や政治も盤石なものだとは言い切れません。なぜならば、全宇宙の5%弱に過ぎない知識を基盤に構築されているからです。そこには、もしかしたら、大きな勘違いや思い込み、間違いがあるのかもしれません。全てを知っているつもりでいても、それは井の中の蛙であって、狭い了見の間違えた思想をもとに、裁いたり、批判したり、攻撃しあっているのかもしれません。
魔法使いは、そうした常識の詭弁や間違いに気づくことで、常識を疑い、その支配から抜け出すとともに、常識では推し量れない領域の存在を知り、探求を始めます。魔法使いの周囲の人たちは、魔法使いが、妙なことを口走ったり、変なことに興味を持ち、やり始めたりすることを危うんで、常識を取り戻すように忠告しますが、魔法使いは、そのような指摘をものともしません。常識や権威の主張よりも自分の気づきの方が正しいという確信を持っているからです。
魔法使いが求めることは、なぜこの世には苦しみがあるのか?なぜ病が起こるのか?死の意味とは?幸せとは?感情とは?人間関係とは?病を治す方法とは?よりよく生きる方法とは?など、常識や従来の科学では答えることができない問いに対する答えを求め、技術を得ることです。魔法使いは、邪を祓い、痛みを癒し、幸せをもたらしたいのです。
魔法使いは、顕在意識ではたどり着けない答えを潜在意識の世界に求めて、心理学、カウンセリング技法、人間関係、チームと組織の活性化手法、などの科学的な専門書のみならず、さまざまな宗教書、宗教芸術、宗教の行法なども熟読し、自分の気づきと照らし合わせながら、理解を深めていきます。探求を通して出会うさまざまなご縁に導かれて、多くの師匠、先輩と出会い、多くの気づきや理解を深めます。呼吸法、瞑想法、ヨガ、太極拳などさまざまな手法を試み、相性の合う方法を修行し体得していきます。
魔法使いが探求しようとしている世界には、日常の常識では認識することができない秘密がたくさん存在しています。そして、その秘密は、聴く耳がある人にしかささやかれません。準備が整った人にしか真実は開示されないのです。魔法の世界の探求を潜水に例えると、ダイバーは自分が潜れる部分しか見えません。浅くしか潜れないダイバーは、浅い部分しか見えません。自分が見ている領域を世界のすべてだと思い込みますが、実は、もっともっと深い部分にもっともっと大きな謎が隠されています。そして、その底の深さは、無限大。尽きることのない可能性がまどろんでいるのです。
魔法使いは、徐々に今まで身につけてきた思い込みや誤解、間違えた信念を解きほぐし、真実に触れて理解を進めていきます。そして、その理解の度合い、修行の進み具合に応じて、世界の真実や秘密が開示されて、魔法の力を身に着けていきます。魔法の力と言っても、呪文を使うなどの特殊なものだけとは限りません。
人の話を真剣に聴くことによって、人の痛みを癒し元気をとりもどす。
やさしさや思いやりをもって人と接することでチームの雰囲気を変える。
自分が変わることで、相手を変える。
草花の美しさにしばし足を止めて、花を舞う蝶に機嫌よく挨拶する。
世話をし、面倒を見ることで、人を病や死の危機から救い出す。
唄い、ともに踊ることで、分離を乗り越え、共感の喜びをもたらす。
コミュニケーションを改善し、愛を取り戻すことで、組織をよみがえらせる。
3人寄れば文殊の知恵が起こり、話し合うことで正解に近づく。
名づけ、物語ることで、人を勇気づける。
いずれも、特殊な呪文や行法はありませんが、目に見えない力を使って人を癒し、元気づけたり勇気づけたりすることであって、まさに魔法の力と言えます。魔法使いは、目に見えない力の背景にある仕組みやダイナミズムの理解を深め、それらを上手に改善し、幸福をもたらす技法を習得していくのです。
しかし、一方で、魔法使いは、自分の力不足で成果を出せない事や調子が悪い時にはうまく力を発揮できないこと、好不調の差が大きいことを苦にして、焦ってしまうこともあります。本来であれば、自分の成長の度合いに応じて開示される能力でもあるので、自分の未熟さを受け入れ、自分の可能性を信じてゆっくりと克服していくべき課題なのですが、時に、今結果を出せないことが原因で名声や評判を傷つけることを恐れてしまい、薬物などの他の力を使って手っ取り早く乗り越えようとしたり、トリックを仕掛けてだまそうとしたり、自己正当化の理論を信じ込ませようと洗脳しようとしたりする誘惑に負けることがあります。それは、甘い誘惑なのですが、安易な道であり、自分の真の成長を阻害すると同時に悪徳に身を染めてしまう罠でもあります。ですので、他への依存の誘惑を断ち切り、自分を信じて独立自尊を貫くことこそが魔法使いの一番目の課題と言えます。
また、魔法使いの願いは、自他の幸福をもたらすことですが、その幸福が、敵を倒して勝利することであったり、誰かを陥れると言った、利己的で誰かを苦しませたり危害を加えようとする願望である場合もあります。魔法使いが、その願望を聞き入れて、その願いに自分の魔法の力で加担する場合は、それは黒魔術となり、邪悪な方法に身を染めることになってしまいます。魔法の世界には、天使もいれば悪魔もいます。どちらを選ぶかは、2者択一であり、魔法使いは、自分の意志の力を使って、どちらを選ぶのかを決めなければなりません。天使は決して勧誘しませんが、悪魔の誘惑は強力です。それは、くもの巣を張り巡らせてわなを仕掛け、巧妙に近づき、アメとムチでしばり、恫喝し、操作や陰謀で陥れます。自信を打ち砕き自尊心を損なわせた後に、甘い救いの手を差し伸べて支配し、搾取します。悪魔の誘惑は、死の恐怖に匹敵するくらいの強力な力を持っており、それを拒否して乗り越えるためには、大志と勇気と誠実さが必要なのです。この分水嶺で道を踏み外し、悪に転落する魔法使いも決して少なくありません。彼ら彼女らは、能力がなかったわけではありません。ただ、自尊心と勇気が欠如していただけなのです。魔法の世界を探求しようとこころざす者の2つ目の課題は、そうした罠があることを十分に理解して、大義や志に向けて、健全なる自尊心を胸に、注意深く罠を避け、どんな時でも自分が信じる良心に従って善を選ぶ勇気を持つことなのだと言えましょう。
魔法使いにとっての3つ目の課題は、宇宙(神、サムシンググレイト)との連携を強化していくことです。魔法の力は、自分のエゴが生み出しているわけではありません。自分という狭い枠組みの中から生み出される力は、けっして宇宙をつかさどる偉大なる力にはかないません。魔法使いは、宇宙を信じ、自分を超えるものに対して尊敬の念を持ち、頭を下げ、手を合わせて感謝する謙虚さが必要です。そこには、人間関係と同様に、礼儀とマナーが存在します。それもただの形だけのものではなく、真剣さや誠実さと言った心の在り方も必要になるのです。
ただ、宇宙や神、サムシンググレイトと自分との関係性は、直接的なものでなければなりません。その間をとりもつ介在者を入れてはいけないということです。宇宙を実感することは容易ではありません。その秘密は、深い深い海の底に存在しているのであって、水辺をうろついている現状では、なかなか手が届きません。神は偉大であり、自分のような者が直接かかわるなんておこがましいという思い込みや畏怖もあります。ですので、その間を取り持つことができる誰かに介在してもらい、神の代理人になってもらおうとするのです。介在者は、司祭のような人だけとは限りません。権威のある本、仏像、言葉、絵、などなど、代理人としての役割を担うと感じれるものであれば、どんなものでも介在者となりえます。しかし、それらは、決して神そのものではないことを忘れてはいけません。それは偶像崇拝の罠であって、それに救いを求めるということは、自分自身を信じる気概や直接に神とかかわることができる可能性を放棄してしまうということ、すなわち、人が生きる上で最も大切な使命を放棄してしまうという重大な間違いを犯してしまう事につながります。決して司祭や本、仏像を大切にしてはいけないということを言っているわけではありません。行を進める方法の一つとして活用することは、むしろ役に立つことだと言えますが、それらを神として信仰することは間違いにつながるということを忘れるべきではありません。
宇宙を構成する物質と、人の肉体を構成する物質は同じものです。ですので、人と宇宙は本質的には同じものです。ただ、一滴の海水と海は本質的に同じものとはいえ、その偉大さには絶大な違いがあるのと同じように、人と宇宙は同じものとはいえその偉大さには絶大な違いがあります。だからと言って、全く縁がないものではありません。むしろ、本質的には人は宇宙であり、人は、直接的に宇宙を自分だと感じ取ることができる能力をまどろませているのです。だから、その可能性を放棄してはいけません。自分の中にまどろむ力を信じて、他に依存することなく、独立自尊の精神を忘れずに魔法の世界と向き合うことが大切なのだと言えましょう。
【新刊“To be a Hero”の内容紹介】
①おわりに
②ヒーローズジャーニー
③ヒーローズジャーニーをもとにした人の成長プロセス
④ステージ1 自然児
⑤ステージ2 傷ついた子供
⑥ステージ3 放浪者
⑦ステージ4 求道者
⑧ステージ5 戦士
⑨ステージ6 達人
⑩ステージ7 魔法使い
⑪ステージ8 変革者
⑫ステージ9 勇者
⑫ステージ10 覇王
⑬ステージ11 仙人
⑭ステージ12 賢者
⑮ヒーローズジャーニーの教え