新刊“To be a Hero”の内容紹介 ⑬ステージ10 覇王

ステージ10 覇王

 勇者は、戦いに勝利することによって、貴重な宝を得ることができます。しかし、その宝は、大きな力を持つものであり、良くも悪くも世界を変える可能性のあるものでもあります。その力を求めて、奪いに来る者もいるでしょうし、奪われてしまったら、悪用されて、国や世界、地球に害悪を及ぼすかもしれません。また、勇者の死後、上手に宝を継承できないかもしれませんし、後継者たちが宝の扱いを間違えてしまう危険性もあります。宝のパワーが強力であるがゆえに、勇者は、それらの懸念に対処する必要に迫られます。宝を守り、継承していく方法を探るのです。
 かくして、勇者は、覇王へと変容を遂げることになります。
 覇王は、宝を奪おうとする者たちから宝を守るために、体制や構造を作ります。国をおこし、城を建て、城壁を固めます。敵に負けないように、兵力を増強し、国土を広げて収穫を増やし、国力を高めます。宝の力は、その勢力増強の源泉でもあります。宝の魅力によって、多くの人の注目を集め、優秀な人材や富を集めて、急速に勢力は拡大していきます。また、覇王は、後継者の手配も怠りません。組織を作り、ルールや法律を定め、協力体制を整えます。宝を守るための方法を確立し、教育を通して人材を育成し、揺るがない盤石の伝統を構築します。かくして、覇王は、諸国列強に覇を唱える王者となるのです。
 覇王の恐れるものは、無秩序と制御不能です。覇王がリーダーシップを発揮しなければならない対象は、もはや自分やチームの範囲をはるかに超えて、大人数の組織、国、勢力圏となります。自己イメージが、小さな自分を超えて、組織や国家、国家連合へと広がるのです。覇王は、巨大化した自己を上手に統制しなければなりません。やり方によっては、平和で幸せを実感できる世界となりますが、方向性を間違えると、対立、勢力争い、陰謀、不正義がまかり通る無秩序状態となってしまいます。それは、ほんの少しのずれであっても、末端に至る時には大きな波紋となって影響を及ぼしますので、毛ほどのずれも起こさない注意深さが必要です。また、悪貨は良貨を駆逐するの例えの通り、組織の中の邪悪さを見逃すと、その広がりはあっという間です。気づいたらもう戻ることのできない隘路にはまってしまうことになるので、いち早く邪を見つけて祓うこと、組織の風土を善良で健康なものにする努力を怠ることはできません。
 覇王は、こうした、多くの管理や仕事を、自分一人でなすことはできないので、組織を通して実現することになります。ある意味で、組織とは、覇王の体であり、覇王と組織は一体です。覇王の人格が高く、洗練されている場合には、組織も同様に高い意識と思いやりによって、風通し良く、お互いに信頼し、助け合って、効率よく動くことになりますが、覇王の人格が低く、洗練されていない場合には、その悪影響が露骨に組織を通して現れることになります。部下たちは、覇王の悪いところばかりまねて、覇王の持つ自分勝手でわがままで残酷な最も悪い欠点を受け継いで、その小さな覇王の権化として悪徳なふるまいをします。組織の中に悪意や陰謀、嫉妬や憎悪などがたちこめると、たちまち風通しは悪くなり、各種ハラスメントが横行し、構成員のモチベーションは下がります。結果的に、効率は悪化し、業績は頭打ち、もしくは下降傾向になり、それだけではなく、大きな不祥事が発生する危険性も高くなります。
 覇王は、こうした組織風土の悪さを幹部や部下のせいにするべきではありません。広い目で見た場合は、悪徳の発生源はトップにあります。類は友を呼ぶように、トップの性質に共鳴する人たちが縁を持って集まってきますし、トップが語りふるまうように部下たちもふるまいます。その際、トップの美徳や高い意識からくるものは、基本的に模倣が困難なので、部下たちにとって身近に感じる低い意識、欠点をよく見て、まねるのです。ですから、組織は、トップの美徳の部分の反映というよりは、悪徳の部分の反映となりがちです。だからこそ、覇王の人格の完成が必要となるのです。
 ゆえに、覇王にとっての課題は、自分の人格を高めていくこと、自我という狭い枠組みを乗り越えて、組織や国家、人類への貢献という高い志を持つことになります。覇王は、自分の中の欠点の多くを克服する必要があります。もはや感情の赴くまま、好きなようにふるまうことはできません。自制心をもって万人の見本となる必要があるのです。覇王は、自分の中のいまだ癒やされていない痛み、焦げ付くような渇望、欠乏の恐怖に注意深くある必要があります。そうした側面を癒し、騒ぎ立てるエネルギーを開放し、悪徳に支配されるのではなく克服していく努力をする必要があります。そうした欠点は魔がたちいる隙間となり、覇王の考え方や意思決定、行動に魔が差す機会を与えることになります。トップのちょっとした間違いは、組織全体に深刻な悪影響をもたらし、数倍になって重大なトラブルを引き起こしかねません。トップのあり方は、想像以上に重要なのです。覇王は、そうした自分のエゴという狭い了見の望みをいち早く癒し、とらわれることを止めて、もっと大きな自分である、家族、国、人類という大きなスケールの幸せを追及することが大切です。覇王は、大志をもって大志に忠実に、揺るがない強い心で多くの人たちの人生に貢献するのです。

新刊“To be a Hero”の内容紹介】
①おわりに
②ヒーローズジャーニー
③ヒーローズジャーニーをもとにした人の成長プロセス
④ステージ1 自然児
⑤ステージ2 傷ついた子供
⑥ステージ3 放浪者
⑦ステージ4 求道者
⑧ステージ5 戦士
⑨ステージ6 達人
⑩ステージ7 魔法使い
⑪ステージ8 変革者
⑫ステージ9 勇者
⑫ステージ10 覇王
⑬ステージ11 仙人
⑭ステージ12 賢者
⑮ヒーローズジャーニーの教え

 

 

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