(GMを巡ってー1からの続き)
「現場で働く従業員は、単なる労働者ではなく、自ら考え、改善をする力と可能性を持った存在であり、その力を引き出すことこそ経営の重要課題」とのドラッカーの提言によって企画されたGMの職場改善プログラムでしたが、全米自動車労組(UAW)の反対によって頓挫してしまいます。UAWの反対理由は、「経営者が管理し、労働者が働く。労働者に対して管理者としての責任まで負わせると言うことは、労働者に大きな負担をもたらす」と言う理由だったそうです。
GMのコンサルタントとして一生懸命に働き、結果的に、「現場には大きな力と可能性があること」「意思決定は現場に近いほうが速く的確であること」「権限を下の階層にどんどん委譲して権力を分権化することが経営効率を高めること」「現場の労働者は、決してお金のためだけに働いているわけではなく、自ら責任を持っていい仕事をしたいと望んでいること」「だからこそ、現場の労働者の可能性や力を引き出す施策が必要であること」などの提言をしたドラッカーでしたが、GMの経営陣にその提案は拒絶され、敵視されただけでなく、当時の労働組合からも否定されてしまいました。
しかし、そのようなドラッカーの提言は、当のGMには拒絶されましたが、世界の心ある企業に強烈なインパクトを与えたのでした。当時、経営的に窮地に追い込まれていたフォードは、経営再建の教科書として、ドラッカーの『会社と言う概念』を指定し、見事に回復を遂げました。また、同様に経営不振に陥っていたGE(ゼネラルエレクトリック)も『会社と言う概念』を教科書として、ドラッカーとコンサルタント契約をして見事に経営を立て直します。さらに、GEは、ドラッカーの指導の下、ジャックウエルチがCEOとなり、奇跡的な成長を遂げて世界最強の企業となったのです。
また、労働組合から否定された職場の意識調査をもとにした「職場改善プログラム」のアイデアは、実は、トヨタ自動車に持ち込まれることになったのです。当時のトヨタ自動車は、激しい労働争議に巻き込まれて、創業者の豊田喜一郎が社長辞任に追い込まれるといった苦境にあり、その突破口として、このアイデアを持ち帰ったのです。
トヨタ自動車は、この資料や考え方をもとにして、同社の終身雇用や労務管理、労使協調政策といった施策となって生きたのでした。
こうしてみると、現在、ドラッカーの人間性に基づく提言を拒絶したGMが経営上の苦境に立たされて、それを受け入れたGEやトヨタ自動車が見事な成長を遂げたことは、運命の不思議、歴史の妙といえましょう。
日産ルノーグループとの提携が検討されているGMですが、ここで、勇気を持って、次世代を見越した、大いなる将来のヴィジョンに基づいた意思決定をしてほしいものだと思います。その決定のいかんによっては、今はまったく創造もできないような成功が将来待ち受けているかもしれません。
世界を代表する企業、組織がどう変わっていくのか?その動向は、きっと様々なところに影響を与えるのではないかと思いますが、願わくば、人に対して、より信頼のできる暖かい、前向きな方向に向かって代わっていってほしいと願った次第です。
<参考文献> 「ドラッカー20世紀を生きて」P.ドラッカー著 日本経済新聞社
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