月別アーカイブ: 2009年6月

就活の真っただ中で戦っている皆さんへ

今年の就職活動は、本当に厳しい。

たぶん現在でも、半数近くの学生が内定を取れていないのではないか。

 

でも、怯んではいけない。

落とされているのは、あなた自身ではない。あなたの準備したものなのだ。

あなたの表現する自己PR像と本当のあなたは違う。

人はたいてい自分で考える以上の存在なのだ。

今の自己PR像は、あなたの素晴らしさのほんの一部も伝えられていない。

裁かれているのは、、そのちっぽけな自己像であって、あなたではない。

仕切りなおして、もう一度戦略を練り直そう。

 

就職活動は戦争だ。

戦場に丸腰で出かければ、ぼろぼろに負けてしまうのは目に見えている。

戦いには強力な武器と防具が必要だ。

就活における武器と防具とは、まさに、自己PRと志望動機だ。

 

武器と防具を改造し、磨きなおして再装備しよう。

あなたは見違えるほど強くなる。

さあ、リベンジのときは始まる。

バージョンアップしたあなたで戦いに一歩踏み出そう。

新入社員研修「アトランティックプロジェクト」のうれしいお知らせ

昨日、とても嬉しいお問い合わせをいただきました。アトランティックプロジェクトに関するお問い合わせだったのですが、近年の大不況の中で、荒波の中で苦戦されている状況にある企業の人事ご担当者の方からのメールです。今年は、不本意ながら、新入社員に数か月自宅待機を命じなければいけないそうです。そんな状況にもかかわらず、内定者は、入社を決意してくれているとのことで、だからこそ、良い教育をして、大切に育てていきたいとお考えなのですが、そのプログラムの一つにアトランティックプロジェクトを検討したいとのことでした。
 この企業さんは、以前アトランティックプロジェクトを2年にわたって実施していただいた経歴があるのですが、その時に受講されたかつての新入社員が、お問い合わせをいただいた人事ご担当者の方なのです。とても印象に残るプログラムであり、実施年度は、2年間ともに離職者が0だったとのこと、アトランティックプロジェクトで共有した時間と経験が、その一助となったと考えていらっしゃるとのことです。
 残念ながら、当時のアトランティックプロジェクトを運営された方は、すでに退職されており、もし実施するとしたら、また初めからの準備となり、ご担当にとって初めての運営となるので、いろいろと大変なこともおありかと思いますが、弊社としては、とても光栄な話でもあり、全面的にバックアップしたいと思っております。
 アトランティックプロジェクトが、こうしたかたちで愛されて、お役にたてる場があることがとっても嬉しくて感激しています。自画自賛ですが、良いプログラムだと思いますので、より多くの人たちにこの素敵な勉強の場を体験していただけるように営業を頑張らねば!と思う次第です。

家具の宝島

 弊社の応接室を整えようと、応接セットを買いたく、埼玉の家具の宝島に行ってきました。家具の宝島は、少し傷の付いた家具を破格の値段で販売している家具屋さんです。関西に本社を持つ会社で、その安さぶりが有名になって、テレビでもよく取材されています。実際に行ってみると、本当に安かった!市価の半分から3分の1くらいの価格じゃないでしょうか。少し傷が付いているといっても、神経質になって探さなければよく分からない傷で、本当に気になるようならば、換えてくれるとのこと、おかげさまで、ずいぶんよいものを、とても安く買うことができました。
 こちらの会社の方針なのでしょうか、店員さんは、全員バイキングのコスチュームに身を固めて、顔には太い眉毛と真っ赤な丸い頬紅で化粧を施し、何とも面白い迫力があります。しかし、買い物をしながら気づいたのですが、単に奇をてらっているのではなく、店舗全体に気配りがされ、筋が通っているものを感じました。キズものではあるけれども、大切に扱われているのでしょう。また店員さんの商品知識の豊かなこと、決してひけらかしませんが、押さえるところはしっかりと押さえるキレがありましたね。きっとよく勉強されているんでしょう。ホームページを見たら、週に一日は、朝7時半から9時まで商人(あきんど)塾と題して、いろんな勉強をされているとのこと。社長が、熱いものをもっているのでしょう。それが社員にしっかりと伝わっていると感じました。
 こうした時代でも伸びる会社は、良い美徳を持っているなぁと感じました。

キャリアアドバイザーとして

毎週火曜日は、東京のJ大学のキャリアアドバイザーを担当しています。1対1のカウンセリングを通して、学生たちの自分らしく幸せで力強いキャリアを育むお手伝いをしようとする試みですが、今年で早くも3年目になります。何とか学生たちに本当の意味でのお役にたちたいと様々な試行錯誤と挑戦と勉強を積み重ねてきており、私にとっては、やりがいのある大切な仕事の一つになっています。

 しかし、今年は、学生たちにとって、本当に厳しい逆風が吹いてますね。なかなか思うように内定に結びつかない学生たちと話をすると、人生におけるもっとも強烈な試練の真っただ中にいるんだなぁということが本当によくわかります。

 就職活動は、本当に試練ですよ。どんなに一生懸命に頑張っても、相手がいますので、なかなか思うようにはいかない。何が悪いのか分からないけれども自分を受け入れてもらえない。自分の価値を否定されているようで、どんどん自分の自尊心と勇気と誇りが砕かれていく。逃げ出したいけれども、学卒で就職できないときの過酷な運命が怖い。周りは内定を取っている友人が出てきて焦る。親の期待や学校の期待がプレッシャーとなる。心は絶望的な状況だけれども立ち向かっていかなければ後がない。・・・。

 こんな時代に就職活動に直面した学生は、相当の苦労をしていると思います。実際のところ、今の就活生たちは、強烈な修行の真っただ中にいるようなものです。毎日が針のむしろに座りながら、滝行をしているようなものですよ。しかし、明けない夜はないし、春の来ない冬もないとよく言われています。一生滝にうたれなければならないわけではなく、今だけなのです。また、人生は、きちんと帳尻が合うようにできていて、苦しければ苦しいほど、そのあとにやってくる喜びも大きいものですよ。人生において意味のない苦労などなく、すべてが大切な意義を持っている。人は悲しいけれども、成長には痛みが付き物であり、痛みが大きいほど、大きな飛躍の可能性があるのですから。

 就職活動は、戦いの場であり、戦略が必要です。無防備にやみくもに立ち向かっていっても決して勝つことはできません。思うどおりにいかないのは、あなたの能力が足りないからなのでは決してありません。採用の現場では、その人の本質的な可能性は潜在力など見極めきれないのですから。就活でなかなか内定を取れないのは、シンプルに武器と防具(戦略と準備)が足りないからなのです。あせらず、あきらめず、おもねらずに、地に足をつけて、もう一度、自分の戦略と武器防具を磨きなおしてみましょう。私も協力します。

キャリアスキル演習の授業

神奈川県のT大学において、前期は、キャリアスキル演習の授業を担当しています。この授業では、就職活動にかかわる自己表現や対話のスキルを学ぶことをテーマとした授業であり、いわゆる就職活動の面接対策をターゲットにおいた授業となります。ですから、通常の大学の授業とは、趣を異にしており、授業は、完全な演習型となります。ただ黙って座っていれば単位が取れるというものではなく、好むと好まざるとにかかわらず、グループを組み、メンバーと直接にかかわり、しかも、そんな関係の中で自分自身を磨いていく必要があるのです。ワークの中では、自分について、他者にどう映ったのかを直接に聞きながら、自分の就職活動のスキルを磨いていくことになるので、時には耳が痛いこと、傷つきハートが痛むことも言われることもあります。ですから、授業に参加する学生は、それ相応の覚悟が必要なのです。

 よく今時の学生は、「人間力がない」「ちゃらんぽらん」「コミュニケーションの力がない」「情熱が薄い」などと言われておりますが、この授業を通して本当に実感したことは、それとは正反対のこと。他の若者のことはわかりませんが、ことT大学の学生は、決してそんなことはありませんね。授業開始当初は、こんなにワークの多い厳しい内容でついてこれるのだろうかと心底心配しておりましたが、実際にふたを開けてみたら、学生たちのほうが真剣で情熱的に、しかも授業を楽しみながら、自分について一生懸命に探求しているのです。欠席率も少なく、厳しいワークから決して逃げることなく立ち向かい、どんどん成長してくれている実感がありますね。「本気を出せばどんな人も輝く」が弊社の信条ですが、全くその通りで、学生たちは、だれもが魅力的であり、たくましさをどんどん育んでいます。私が採用担当者だったら、絶対に内定を出しますよ。学生が就活で成功していないとしたら、それは学生が悪いのではなく、採用担当者の見る目がないのです。

 4月に始まった授業も、今日で早くも10回目で、残すところ4回となりました。学生たちの自分らしく幸せな力強いキャリアの後押しができるようにしっかりと頑張りたいと思います。学生たちも、今は、大変な時代ですが、めげずに焦らずにうろたえずに頑張って立ち向かっていきましょう。

ホームページを改築中

現在、ホームページを改築中です。
 弊社WEBは、業者に依頼せずに、すべて私どもで作っています。1999年に立ち上げたのですが、立ち上げた当初は、本当にシンプルで、ページ数も10ページ程度のものだったと思います。2003年に、大改造をして、ほぼ現在の形に変えました。自画自賛ですが、デザインが気に入っており、変更当初は、完成がとても嬉しくて、何度も何度も見返したことを覚えています。しかし、ここに来て、画面サイズが小さいこと、W3C(技術標準を提示する団体)の推奨する方法に則っていないこと、などが気になり、思い切って大改築に取り組むことにした次第です。
 今回の変更のポイントは、以下の3つがあります。
①メモ帳で作ること
 従来はホームページビルダーを使って作成していたのですが、HEML文書よりも、ブラウザー(IEやファイアーフォックスなど)上の見かけを重んじるので、根本のHTML文書が汚くなってしまいました。この問題を受けて、今回は、最もシンプルなメモ帳で作ることに挑戦しました。

②SEO対策
 SEOとは、検索エンジン対策のことで、検索で上位表示されるための様々な工夫と対策を言います。根本的には、サーバー上の情報の整理整頓、ホームページの構造の美しさ、HTML文書の美しさ、利用する方々への配慮と思いやり、W3C推奨の順守などがあげられるのですが、実は前回作成時には、まったくこの対策は眼中になく、ブラウザー上の見かけだけを作ることに一生懸命だったので、今回は、こうした根本的な対策を丁寧にしていこうと挑戦しています。

③技術革新
 ホームページ作成ソフトを使わずに、SEO対策を考えて作ろうとすると、さまざまな技術革新が必要です。実際に挑戦してみてよくわかったのですが、CSS、スクリプト、PHP、apacheなど、今までは見たことも聞いたこともないようなテクノロジーを使わなくてはいけなく、避けては通れません。今、そんな技術を使う勉強をしている真っ最中なのです。しかも、独学でやり遂げようとしているのですから大変です。かれこれ数週間、悪戦苦闘しているところですが、あきらめずになんとかものにしようと頑張っています。

 こんな方針で、WEBの改造に取り組んでいます。現在、ようやく基盤固めができたところでしょうか。これから先は長いのですが、何とか頑張って、楽しんでいただけるWEBを作成します。完成予定(目標)は、7月末です。こうご期待!

人と組織を進化させるチェインジエージェントとなる④(最終回)

産労総合研究所「企業と人材」誌に2007年12月号に執筆した記事「人と組織を進化させるチェインジエージェントになる」の原稿を数回にわたってご紹介します。今回は、4回目の最終回です。

<教育担当者として大切にしたい指針>
キャリア支援スタイルの教育を通して、「守り」から「攻め」へ、「保守管理者」から「パフォーマンスコンサルタント」へと自ら変容を遂げ、会社の真の持続的成長に貢献していくためには、数々の困難を乗り越えていく必要がある。
 最後に、私自身が大切にしている、変革を実践していくための指針、ポリシーをご紹介したい。参考にしていただければ幸いである。

1.力まない
人や組織を力づくで変えることはできない。価値ある変革は、常に、変化する主体、内面のコアから起こるのであって、外部からの圧力で起こるわけではない。教育担当者は、あせらず、急がず、可能性を信じて、自ら変わっていこうとする支援をすることが大切である。

2.怯まない
新しい考え方、哲学を提案していくことは、勇気がいる。なぜなら、そのような提案は、いつも快く受け入れてもらえるとは限らないからだ。しかし、だからと言って、言うべきことを言わないでいることは本意ではない。怯まずに、肩の力を抜いて、真に貢献できる提案を提示していくことが大切である。

3.あきらめない
変容を促すことは、容易ではない。成長への道のりは、苦難の道でもある。その過程では、数々の失敗や痛みはつきものと言えよう。しかし、本当に大切なことは、そう簡単にはあきらめるべきではない。勝利の女神は、数多くの敗北の後にやってくる。粘り強く取り組んでいくことが大切である。

キャリア教育の講演会を担当しました

J女子大で、1年生を対象にキャリア教育の講演会を担当しました。テーマは、「世界の動向と私の生き方」で、大学の4年間を充実して生活するため、また、卒業後の人生を自分らしく幸せに力強く生きていくための指針として、参考になる情報や考え方をお話ししました。1時限目と2時限目の2回にわたって実施したのですが、1時限目は394名、2時限目は414名と、講堂一杯になる大人数だったので、私も、正直どうなる事かと心配をしていたのですが、学生諸君も集中して聞いてくれたので、短い時間でしたが、有意義な良き学びの時間をともに作ることができなのではないかと実感しております。
 話の内容は、今地球で起こっている様々な事柄を、大きな視点から見つめなおしてみて、そんな時代の中で、自分はどう生きるべきかを考えることのできる内容です。

 ・地球の現状は、決して完璧ではなく、多くの深刻な問題が未解決で、解決は先送りされていること。
 ・皆さんが地球に貢献しようと思えば、やれることはたくさんあること。
 ・たとえ小さくとも、一人ひとりのちょっとした行動が、未来を変える一歩につながる大きな影響を及ぼすこと。
 ・皆さんの可能性は、思っているほどちっぽけではなく、とてつもなく大きいということ。
 ・夢は大きく持つべきであること。
 ・夢に向けて、学生時代は、本気で学び、本気で挑戦し、本気で人とかかわることが大切であること。
 ・本気で生きれば、未来は必ず開かれるということ。

こんなメッセージを講演の中で伝えることができました。
J大の学生は、まじめで一生懸命な学生が多く、本当に良い生徒が多い学校です。その良さを大きく伸ばして、彼女たちに本当に充実した青春を学生時代を、本当に幸せな人生を歩んでもらえたらと心から願った次第です。

人と組織を進化させるチェインジエージェントとなる③

 産労総合研究所「企業と人材」誌に2007年12月号に執筆した記事「人と組織を進化させるチェインジエージェントになる」の原稿を数回にわたってご紹介します。今回は、3回目です。

3・教育担当者の留意点-学習性無力感の教え
 新しい時代の教育を考える上で参考になる理論として「学習性無力感」の理論があるので紹介しよう。
学習性無力感とは、米国心理学者であるM.セリグマン(1943~)によって発表された心理理論であり、教育に携わる者にとっては、多くの教訓を示してくれている。

1.心理学を志す
セリグマンは、13歳の時に、父が病気により体が麻痺すると同時に、うつ状態となり、不幸な晩年を送ったことを契機に、父親のような人たちの助けとなりたいと思い、心理学を志すようになり、1964年、ペンシルバニア大学の大学院に進学した。
その頃の、心理学は、”行動主義”と呼ばれる考え方が主流となっていた。
行動主義とは、「おおよそ、生物は、”刺激→反応”のパターンを観察、計測し分析することで、その行動を説明し、コントロールすることが出来る。」と言う考え方に基づいた心理学である。
現代では、生命は、そのような単純なものではなく、”刺激→有機的存在→反応”と言う複雑なプロセスを経て主体的かつ個性的な行動をする存在であると言う考え方が主流であり、行動主義心理学は、心や意識を無視し、主体性をないがしろにしているとの理由で批判されることが多いのだが、当時は、一種の暗黙の規範のように、「”行動主義的”な考え方でなければ心理学ではない。」と言えるほどの強い権威を持った考え方だったのである。

2.きっかけとなった心理実験
セリグマンが、進学時に大学院で行われていた実験も、まさにこのような”行動主義心理学”に基づいた実験だった。
実験は、「パブロフの犬」に代表される条件付けの実験であり、犬に”刺激→反応”のパターンを学習させることを目的とした実験だったのである。
実験は、3段階で構成されており、まず、第一段階として、”高い音”をならした直後に電気ショックを与えることを繰り返し、犬が、高い音と不快なショックを結びつけるようにして、後で、犬が音を聞いただけでショックを受けたときと同じように恐れて反応することを学習させると言った条件付けを行なう。
第二段階として、犬は、シャトルボックスに入れられる。シャトルボックスは、2区画に仕切られ、間に低い仕切り板があり、犬が望めば、飛び越えることが出来る高さとなっている。
実験は、シャトルボックスの片側にいる犬に、電気ショックを与えるが、仕切り板を飛び越えて、隣室に入るとショックが止まることを繰り返し、「電気ショックが起これば、仕切り板を飛び越え、隣室に入ると、ショックを止めることが出来る」ことを学ばせることだ。
そして第三段階は、電気ショックを与えずに、高い音がなれば、音だけで仕切りを飛び越えることができるかどうかを試みることが実験企画の全体の内容だった。
セリグマンが、大学院に進学したそのときに、ちょうどこの実験が行われていたのだが、実は、実験はもくろみの通りに進んでおらず、諸先輩が、困惑しているところだった。
第二段階において、犬は、電気ショックを与えても、ただ鼻を鳴らしているだけで、ショックから逃げるために、シャトルを仕切る板を飛び越えようとせずに、ただ座り込んでいたのだった。
その時、セリグマンは、犬の様子を見て、「父のうつ状態」と似ていると直観した。
セリグマンは、この実験の犬は、どんなに逃げても、この電気ショックからは逃れられないことを理解し、無力感にさいなまれ、うつ状態になったのではないかと考えたのだ。

3.学習性無力感
セリグマンのこの直観は、行動主義心理学に教化されていた諸先輩からは、「勘違いだ」「動物が、そんなに高度な精神活動はしていない」と否定されたが、セリグマンは、めげずに、実験を繰り返し、ついに「動物であっても、自分でコントロールできない避けがたい出来事を多く体験すると、無力感を学習し、無抵抗なうつ状態になる」ことを論文で発表することになった。
この論文は、支配的だった行動主義の考え方に強烈な一撃を加えることになり、当時の心理学会に大反響を与えることになったのである。
犬が体験したうつ状態は、後に「学習性無力感」と呼ばれ、このセリグマンの考えは、広く一般に認知される心理学の理論となった。

4.学習性無力感の教え
学習性無力感は、ある意味、「”あめとムチ”で他者をコントロールしようとする試みは、決して教育にはつながらず、結局他者をうつ状態にしてしまうことにつながってしまう」ことを証明する理論でもあると言えよう。
学習によってうつ状態になるとは、なんと皮肉なことだろう。
人は、自分らしく輝いているときには、想像もつかないような大きな仕事をやり遂げる力があるけれども、うつ状態に陥れば、考えられないような失敗や問題行動を起こしてしまう可能性があるのだ。
厳罰によって従業員の行動を教育しようとしたJR西日本の尼崎における大事故は、そのことを象徴しているようにも思える。
我々も、そのつもりはなくとも、生産性やパフォーマンスの向上の名のもとに、知らず知らずのうちに、学習性無力感を引き起こしてはいないだろうか。教育の仕事に携わる我々は、この実験結果と理論を厳粛に受け止めなければならない。真剣に自分自身のあり方、教育スタイルを見直す必要があると私は考えている。

本当のところ、人は、パンのみにて生きているわけではない。人は、やはり、やりがい、愛、情熱、喜び、価値ある人間性や美徳のためにこそ本気になれるのである。そして、人は本気になったら、どんな人でも、想像をはるかに超えたすばらしい仕事をやり遂げることができる。人は、すばらしい力と可能性をその内面にまどろませており、開花できるチャンスを今か今かと待ち構えているのである。

厳罰や脅しによって管理しようとする時代はもはや終わった。ディスクローズの時代、大容量の情報がやり取りされる高度情報化社会においては、操作や隠し事、鞭は通用しない。むしろ、そのような試みは、自らの首を絞めると同時に、すばらしい未来への可能性の芽をつんでしまうのだ。
我々は、なんとしても人や組織の無限の可能性や潜在性に光を当てていく必要がある。そのためにも、本当に人を大切にする教育、人を思いやる教育、人が自分らしく輝いて活躍し、力強いキャリアをはぐくんでいく後押し、支援ができる教育を実現する必要があるのだ。

人と組織を進化させるチェインジエージェントとなる②

産労総合研究所「企業と人材」誌に2007年12月号に執筆した記事「人と組織を進化させるチェインジエージェントになる」の原稿を数回にわたってご紹介します。今回は、2回目です。

2.変容する人事部門と教育担当の役割
 リストラの一巡、行き過ぎた成果主義の悪影響の反省、前述のメンタルヘルスの悪化やモチベーションの低下を踏まえて、人事の役割は、変化を迫られている。
 従来の人事の役割は、「管理」という言葉に象徴されるように、要因の適正化、人事コストの低減、自社のコア能力の設定と指導、従業員管理、風紀・規律・勤怠管理、昇進昇格管理等どちらかといえば組織を”守る”役割が期待されていたが、近年では、「能力とパフォーマンスの最大化」といった”攻め”の視点への変化、単なる「保守管理者」から組織活性化に向けての「リーダー」、個人の能力の最大発揮を促すキャリア形成支援の「プロフェッショナル」、21世紀の最重要企業戦略の一つであるコミュニケーションの活性化を通して組織の潜在能力を開発する「コンサルタント」としての役割を発揮する必要性が叫ばれるようになってきた。

 それに伴って、教育担当者の期待される役割も大きく変わっていくと考えられる。筆者は、時代の大きな傾向として、「モデル学習スタイルの教育」から、「キャリア育成支援スタイルの教育」へと重要性や注力する比重が変わっていくだろうと考えている。
 「モデル学習スタイルの教育」とは、すでにモデル化されている正解や見本を反復練習を通して記憶体得していこうとする教育スタイルである。もっともシンプルなモデル学習は、技能教育や資格取得のための教育であり、高度になると、コンピテンシー教育などが上げられよう。
一方「キャリア育成支援スタイルの教育」とは、個人の能力が最大限発揮できるようになるための支援を目的とする教育であり、個々人の個性に対応する必要があったり能力開発に長期の時間を要することからキャリアサポート型の教育スタイルとなる。
 具体的には、メンタルヘルス教育、キャリアカウンセリング、ヒューマンスキルトレーニング、根本的なモチベーションを高めるための教育(自己信頼の回復、キャリアヴィジョン、自己理解、など)、創造性開発訓練、個人の能力を発揮しやすくするためのチームビルディング、メンター制度、組織開発、などが挙げられよう。

 従来の教育は、モデル学習スタイルに偏りがちになっていたが、今まで見本としていた過去のモデルを忠実に実行していた結果として、現状(の悲劇)があることを忘れてはならない。また、今までの権威、見本、モデルは、現状を維持する力にはなっても、必ずしも新しい未来を開く鍵となるわけではない。「能力とパフォーマンスの最大化」を志す”攻め”の風土を作ることを期待されている教育スタッフにとっては、モデル学習スタイルだけでは、十分とは言えないのだ。

 キャリア育成支援スタイルの教育を実践するためには、発想の転換を必要とする。従来の「わが社の従業員は、仕事を効果的に遂行する上でどこかしら能力に欠けており、自ら学ぶ力も足りない。こちらから危機感をあおって行動を促し、正解を示して、教え込まなければならない。仕事上のパフォーマンスを高めるためには、こちらから間違いを指摘し、正し、管理する必要がある」といった発想ではなく、「わが社の従業員には、よい仕事をやり遂げる十分な能力と可能性がある。現状では完璧とはいえないが、自ら学び成長する力がある。仕事上のパフォーマンスをより高めるためには、本人の主体性を尊重し、本来のすばらしい能力を引き出す支援をすることがもっとも効果的である。」といった考え方に転換する必要がある。なぜならば、人間の本来のすばらしい力や可能性を信じることができなければ、それを引き出そうとする試みを真剣に誠実に貫くことができないからだ。

 さらに、「人は断じて無力ではない、その力と可能性は想像を超えて大きい」と言った信念を強く持つ必要がある。なぜならば、キャリア支援スタイルの教育は、えてして従来の発想の立場から、「必要性はわかっているが、現実離れしている」「うちの社員には無理」「経営陣がそんな教育を受け入れるはずがない」などといった反撃を受けることが多いからである。そのような反論、抵抗に怯まずに、人の可能性を引き出す教育を展開することは、並大抵ではない。揺るがない信念が必要なのだ。

 しかし、時代の流れは、確実に、キャリア支援スタイルの教育を必要としている。またそのような教育を実践している企業こそが、現実に飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を遂げているのである。新しい時代の教育担当者は、このような時代背景の中、怯むことなく信念を持って、粘り強く新しい時代の教育に挑戦していく必要があるといえよう。