人と組織を進化させるチェインジエージェントとなる②

産労総合研究所「企業と人材」誌に2007年12月号に執筆した記事「人と組織を進化させるチェインジエージェントになる」の原稿を数回にわたってご紹介します。今回は、2回目です。

2.変容する人事部門と教育担当の役割
 リストラの一巡、行き過ぎた成果主義の悪影響の反省、前述のメンタルヘルスの悪化やモチベーションの低下を踏まえて、人事の役割は、変化を迫られている。
 従来の人事の役割は、「管理」という言葉に象徴されるように、要因の適正化、人事コストの低減、自社のコア能力の設定と指導、従業員管理、風紀・規律・勤怠管理、昇進昇格管理等どちらかといえば組織を”守る”役割が期待されていたが、近年では、「能力とパフォーマンスの最大化」といった”攻め”の視点への変化、単なる「保守管理者」から組織活性化に向けての「リーダー」、個人の能力の最大発揮を促すキャリア形成支援の「プロフェッショナル」、21世紀の最重要企業戦略の一つであるコミュニケーションの活性化を通して組織の潜在能力を開発する「コンサルタント」としての役割を発揮する必要性が叫ばれるようになってきた。

 それに伴って、教育担当者の期待される役割も大きく変わっていくと考えられる。筆者は、時代の大きな傾向として、「モデル学習スタイルの教育」から、「キャリア育成支援スタイルの教育」へと重要性や注力する比重が変わっていくだろうと考えている。
 「モデル学習スタイルの教育」とは、すでにモデル化されている正解や見本を反復練習を通して記憶体得していこうとする教育スタイルである。もっともシンプルなモデル学習は、技能教育や資格取得のための教育であり、高度になると、コンピテンシー教育などが上げられよう。
一方「キャリア育成支援スタイルの教育」とは、個人の能力が最大限発揮できるようになるための支援を目的とする教育であり、個々人の個性に対応する必要があったり能力開発に長期の時間を要することからキャリアサポート型の教育スタイルとなる。
 具体的には、メンタルヘルス教育、キャリアカウンセリング、ヒューマンスキルトレーニング、根本的なモチベーションを高めるための教育(自己信頼の回復、キャリアヴィジョン、自己理解、など)、創造性開発訓練、個人の能力を発揮しやすくするためのチームビルディング、メンター制度、組織開発、などが挙げられよう。

 従来の教育は、モデル学習スタイルに偏りがちになっていたが、今まで見本としていた過去のモデルを忠実に実行していた結果として、現状(の悲劇)があることを忘れてはならない。また、今までの権威、見本、モデルは、現状を維持する力にはなっても、必ずしも新しい未来を開く鍵となるわけではない。「能力とパフォーマンスの最大化」を志す”攻め”の風土を作ることを期待されている教育スタッフにとっては、モデル学習スタイルだけでは、十分とは言えないのだ。

 キャリア育成支援スタイルの教育を実践するためには、発想の転換を必要とする。従来の「わが社の従業員は、仕事を効果的に遂行する上でどこかしら能力に欠けており、自ら学ぶ力も足りない。こちらから危機感をあおって行動を促し、正解を示して、教え込まなければならない。仕事上のパフォーマンスを高めるためには、こちらから間違いを指摘し、正し、管理する必要がある」といった発想ではなく、「わが社の従業員には、よい仕事をやり遂げる十分な能力と可能性がある。現状では完璧とはいえないが、自ら学び成長する力がある。仕事上のパフォーマンスをより高めるためには、本人の主体性を尊重し、本来のすばらしい能力を引き出す支援をすることがもっとも効果的である。」といった考え方に転換する必要がある。なぜならば、人間の本来のすばらしい力や可能性を信じることができなければ、それを引き出そうとする試みを真剣に誠実に貫くことができないからだ。

 さらに、「人は断じて無力ではない、その力と可能性は想像を超えて大きい」と言った信念を強く持つ必要がある。なぜならば、キャリア支援スタイルの教育は、えてして従来の発想の立場から、「必要性はわかっているが、現実離れしている」「うちの社員には無理」「経営陣がそんな教育を受け入れるはずがない」などといった反撃を受けることが多いからである。そのような反論、抵抗に怯まずに、人の可能性を引き出す教育を展開することは、並大抵ではない。揺るがない信念が必要なのだ。

 しかし、時代の流れは、確実に、キャリア支援スタイルの教育を必要としている。またそのような教育を実践している企業こそが、現実に飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を遂げているのである。新しい時代の教育担当者は、このような時代背景の中、怯むことなく信念を持って、粘り強く新しい時代の教育に挑戦していく必要があるといえよう。

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