新刊“To be a Hero”の内容紹介 ⑤ステージ2 傷ついた子供

ステージ2 傷ついた子供

 天真爛漫な自然児ですが、いつまでもそのままのあり方ではいられません。内面に自己中心的で周囲への配慮が欠けたわがままなあり方がある限り、周囲からの指摘や注意、叱責を受けることになります。人との一体感を喜び、無条件で愛し愛されることを期待する自然児は、相手と自分が分離して心理的な距離が生まれたことや叱責されてありのままの自分が否定されたことに驚き、孤独感を感じショックを受けますが、そのような事態を拒否や無視をし続けることもできずに、楽園の在り方から好むと好まざるとにかかわらず放り出されて、自分の欠点を補い、自立への道を歩むことになります。
 こうして、自然児は、この世の暴力、裁き、コントロール、恐怖、恫喝、怒り、悲嘆の洗礼を受けて、傷ついた子供へと変容を遂げることになります。
 傷ついた子供は、やさしくない、思いやりのない、愛のない態度、暴力、嘲笑、差別、酷い扱いを受けることによって、この世の現実を学ぶことになります。自然児が、困難に直面した時に、泣いたり微笑んだりして人を操ろうとするのに対して、傷ついた子供は、その方法にも限界があることや本質的問題解決にならないことを悟り、自立する必要があることを感じて、自立心を養うことができます。また、傷ついた子供は、痛みの体験を通して、自分の内面を反省し、成長につなげていく力を養います。さらに、傷ついた子供は、痛みを知ることを通して、他者の痛みもわかるようになります。痛みをもたらすものに対抗しようとする正義感とともに痛みを持った者への共感を学び、やさしく強くなるのです。
 傷ついた子供が求めるものは、再び心からの安心と安定を感じること、再び楽園に戻ることです。しかし、残念ながら、現実が楽園ではない以上、その望みはかなえられることはありません。どこを探しても楽園はこの世には見つけられないのだという確信、絶対の正義はないのだという気づき、依存ではなく自分で作らなければならないのだという覚悟を得るまでは、希望のない探求が続きます。
 傷ついた子供は、自分で自分の面倒を見ることを通して、人の世話をする力を養い、人の面倒を見ることができるようになります。自分同様に傷ついた弱いものをみると、湧き上がる正義感に基づいて、弱い者たちを守り、よく面倒を見ることがあります。傷ついた子供は、自分よりもっと弱い者たちに対する救済者、やさしい兄、姉なのです。時に、悪や権力に立ち向かい、反撃する反逆者となることもあります。傷ついた子供は、弱い者たちのために立ち上がる勇者でもあるのです。
 しかし、一方で、傷ついた子供は、自分に起こる障害やトラブル、痛みが、起こるべきではなかったことであり、それが起こってしまったことによって自分は被害を受けた被害者であると認識しています。悪いのは自分ではなく相手や出来事の方で、変えるべきは自分ではなく相手であると考えるのです。それは、多くの場合傷つきなくないという思いから、または、自分が正しいと言う先入観からやってくる誤解であって、真実ではありません。しかし、一旦出来上がった被害者意識の考え方、自己憐憫、ゆがんだ自己イメージの枠組みは、その後の人生にも長期にわたって影響を与えることになります。
 こうした考えは、ヒーローズジャーニーの視点から見ると、必ずしも妥当とは言えません。どのような英雄譚であっても、苦労や痛みのないものはありません。この世で生きる限りは、どのような人であっても困難や痛み、苦悩はつきものなのだということを意味するのだろうと思います。ですから、体験する困難は、起こるべきではなかった不運な事故なのではなく、成長のための必然だったとも考えられることができます。たとえ耐えられない苦痛であっても、起こった出来事には必ず前向きな意義が隠されている。だから、そこからの教訓や気づき、学びを得て、成長につなげることが大切なのだと言えるのです。
 また、傷ついた子供は、不快な出来事、嫌味で嫌いな人たち、苦悩や困難に出会うと、不平や不満がたくさん沸き起こってきて、時には人に愚痴をこぼしたり、反撃に出たり、落ち込んだりします。まれに、度が外れた危険な暴力に打って出たり、自傷行為など極めて危険な行為に及ぶ場合もあります。そうした態度は行動は、被害者意識や正義感から起こるものではありますが、そのような正義感は、多くの場合、自分勝手な狭い了見で解釈された誤解や思い込みであり、自分は正しく妥当だと思っても、他者の共感や賛同を得られることはなく、トラブルを引き起こす原因となります。
 また、ヒーローズジャーニーの視点からも、いつまでもそのような態度でいることは慎んだ方がよいということになります。なぜならば、不平不満、愚痴ばかりを言うだけで一生を費やす英雄の人生など存在しないからです。何につけ、人のせいにして文句ばかり言っているのでは、成長することはできません。人は、無意識でいると、自分で気は気づかないうちに自己防衛機構が働き、自分を顧みずに自分は正しくて相手が間違えている悪であると決めつけて文句を言いがちになりますが、それは自己防衛プログラムの自動反応のなせる業であって、決して真実ではないし自分らしい本来の在り方ではありません。自分らしく楽しく幸せな生き方を志すならば、起こる出来事を良くも悪くも受け止めること、どんなことが人生の中で起こっても、それは起こるべくして起こったことと歓迎し、受け止めることが大切なのだと言えます。
 傷ついた子供が、最も恐れることは、虐待されることと搾取されることです。そして、そうした自分では解決が難しい事態や困難に出会った時に対処する方法は、他者に助けを求めること、もしくは、相手に追従することです。誰かにこの窮地を救ってくれるように助けを求めるか、虐待者に対してその要求に追従することによって難を逃れようとします。しかし、助けを求めるにしても自分の窮地や弱みを正直に語る勇気が無ければ難しいし、虐待者の要望に答えたからと言って難を逃れられるとは限りません。もっと酷い要求を突き付けてくる可能性だってあるのです。そこで必要なことは、追従するのではなく勇気をもって断ることなのだと言えましょう。
 傷ついた子供にとっての課題は、困難を受け入れること、自分の弱さを受け入れること、謙虚であること、心を開いて自分の弱みを正直に告白する勇気を持つこと、そして、虐待に対してNoと言える力を養うことです。

新刊“To be a Hero”の内容紹介】
①おわりに
②ヒーローズジャーニー
③ヒーローズジャーニーをもとにした人の成長プロセス
④ステージ1 自然児
⑤ステージ2 傷ついた子供
⑥ステージ3 放浪者
⑦ステージ4 求道者
⑧ステージ5 戦士
⑨ステージ6 達人
⑩ステージ7 魔法使い
⑪ステージ8 変革者
⑫ステージ9 勇者
⑫ステージ10 覇王
⑬ステージ11 仙人
⑭ステージ12 賢者
⑮ヒーローズジャーニーの教え

 

 

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