⑥Selfとパーツの関係がもたらす「私」の3つの状態
Selfとパーツの関係の在り方によって、本書では、「私」は、⑴調和の状態 ⑵葛藤の状態 ⑶機能不全の状態 の3つの状態に変容していくと考えています。それぞれの状態の特徴について以下解説していきましょう。
⑴調和の状態
Selfの働きによってパーツが十分に癒され、ネガティブのエネルギーの束縛から解放されると同時に、Selfとパーツの信頼関係が育まれて、基本的な安心感、世界と向き合う上での確固たる基盤が出来上がります。
また、世界に対する信頼感、前向きな思いを取り戻し、チャレンジ精神や粘り強さ、明るさや勇気といった本来の美徳、問題解決能力を取り戻して、たくましく力強く人生を切り開いていきます。
この状態こそが、人本来の可能性が表現されている状態であり、もっともその人らしく幸せに輝いて生きている状謡といえます。
⑵葛藤の状態
Selfは、活発なパーツの活動に打ち消されて、背景に隠れてしまい、もはや主導権を失った状態です。
Selfを自覚できなくなると、私は、一部のパーツと同一化し、一部のパーツを私と認識するようになります。しかしそのパーツは、Selfとは違い、癒す力や人徳によるリーダーシップを発揮する能力はありません。時には、取引や計算高さ、あめとムチ、脅しや操作などの質の悪い管理者のするようなふるまいで他のパーツをリードすることはあるでしょうが、決してSelfの発揮する効果は期待できません。リーダーとしての限界があるのです。
また、パーツは、内面に複数存在し、その目的や利害が一致しているわけではなく、かならずしも同一化したパーツに、他のパーツがすなおに従うわけではありません。ですから、一部のパーツが主導権を握った「私」の内面は、反論、抵抗、攻撃、など、パーツ同士が絶えず主導権を巡って戦いあう葛藤状態となります。
パーツ同士の葛藤が深まり、分離が強くなればなるほど、「私」の自己イメージは悪化し、自尊心を損ない、自己嫌悪が激しくなっていきます。
この状態になると、パーツの主導権が、頻繁に移行するようになります。要するに、ニコニコ笑っているかと思うと、いきなり怒り始め、暴言を吐くなど、他者から見ると、まるで人格が変わったような(実際に変わっているのですが…)現象が起こるのです。
こうした症状は、境界型パーソナリティ障害としても知られています。この段階では、急激な人格交代は起こりますが、全ての人格の発言や行動の記憶が途絶えることはありません。自分(のパーツ)がやっていることの全ては、まだしっかりと把握できているのです。
⑶機能不全の状態
自分で自分だと認めたくない部分、自己嫌悪の対象、追放者が多くなればなるほど、自分の領域は狭くなり、自分は不自由で制限のあるふるまいしかできなくなり、無力感は増していきます。また、追放者を扱う管理者や消防士などのプロテクターにもエネルギーを注がなければならないので、自分のエネルギーはどんどん枯渇し、常に疲労している不活性な状態になります。そして、次第に自分の内面をマネジメントすることに対して絶望し、責任を持てない混乱の状況になっていくのです。
この状態になると、パーツ同士は、協調するというよりは、自分勝手にふるまい始め、相互の分離感は強く、壁が厚くなり、主導権を争う葛藤も激しくなります。
また、「自分」は、増々無力で不活性状態になっているので、容易にパーツの影響を受けるようになり、主導権を奪われ、自分の意思というよりはパーツの意思で生きるようになってきます。
こうした症状は、統合失調症や多重人格としても知られています。この段階になると、もはや、パーツが主導している間の記憶が飛んでしまうことが多くなります。「私」は、私の場で起こっているすべてのことを把握することが出来なくなってしまう、まさに無秩序、混乱の状態、「私」の機能不全の状態となってしまうのです。
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