ステージ9 勇者
変革者は、最強最大の敵である旧体制を倒し、新し創造をもたらします。変革者は、勝利を得ることによって、貴重な宝を得ることになります。その宝とは、金銀財宝と言った豊かさだけではなく、学びや成長、仲間との友情、深層心理の深みから得た気づきや教え、悟り、チームを導くリーダーシップ、権力、などの形のないものであったりもします。変革者は、奇跡的な成功を達成することによって、もはや以前の自分ではなくなります。勇者の称号を得て新しい自分へと生まれ変わるのです。
かくして、変革者は、勇者へと変容を遂げることになります。
勇者は、勝利者です。困難に勇敢に立ち向かい、勝利することによって、勇者としての称号と地位、権力と力を得ることができます。勇者は、今まで自分をしばりつけていた多くの思い込みや呪い=自己嫌悪、恥、自己憐憫、自責、悲嘆、絶望、悲観を吹き払い、新しい称号を受け入れて勇者として生まれ変わります。それは、名前が変わっただけではなく、意識や考え方、態度や行動まで変わります。負け犬としてかがめていた背筋が伸びます。絶望して伏し目がちだった目が前を向きます。恐怖でくすんでしまった顔色が輝きを取り戻します。勇者のふるまいは自然であり、過度な緊張や警戒はありません。不安な未来や陰鬱な過去に気を取られるのではなく今ここに集中し、今ここの大きな至福とつながって豪快に笑うのです。それは、ヒマワリがバラに変わったわけではありません。勇者はもともとの自分の中の勇者を取り戻したのです。太陽が存在しなかったわけではありません。あまりに恐怖と不安のくもが厚く立ち込めていて光が見えなかっただけなのです。勇者は、自分の中の呪いである恐怖と不安を吹き払って、自分の中の光を取り戻し、表現し始めたのです。勇者のみなぎる明るさや喜びは強烈であり、その輝かしさやエネルギーに影響されて、周囲の人たちも元気で明るく前向きになります。勇者の言葉には、うそや皮肉がありません。沸き起こる情熱は希望の言葉となり、あふれんばかりの喜びは幸せをもたらす物語となります。勇者はその力ある言葉で人を勇気づけ、元気と愛をもたらします。勇者はまさに周囲の人たちにとっての太陽でもあるのです。
勇者は、言い訳したり人のせいにすることを止めます。そう感じるのは、エゴという狭い了見で裁いているから感じることであり、決して真実ではないことに気づいているからです。勇者は、起こる出来事や出会いは、全て偶然ではなく、起こるべくして起こったことであり、雪のひとひらひとひらが落ちるべきところに落ちるように、出来事も1mmのずれもなく起こっていると考えます。その出来事が、例え悲惨で不条理で、起こるべきではなかったと怒りを感じることであっても、そこには必ず前向きな意義が隠されており、そこから何かを学ぶことが大切だと知っているのです。ゆえに、勇者は、すべての責任を自分で引き受ける覚悟を決めます。トラブルが起こった縁をもたらしたのは自分であり、自分が反省し、自分が学ぶこと、成長することによって、どのようなトラブルでも乗り越えることができるという確固たる自信を得るのです。だから、勇者は、もろもろのことを無視したり、言い訳したり、人任せにしたりしません。全てを引き受けて、主体的にかかわり、改善すべく努力するのです。
しかし、一方で、成功や勝利には、うぬぼれや傲慢さという罠が潜んでいます。人生の中で最も危険な時は、ピンチの時ではなく、成功に酔いしれてつけあがっているときです。ピンチの時は、周囲はそれを知って同情し、さまざまな形で応援をしてくれるものですが、うぬぼれてつけあがり人を見下す態度を取りはじめると、周囲の目は厳しく、あっという間に信頼を失い、人望を失います。傲慢さで失敗した人は、その後どんなに困難な状況になっても、もう誰も応援してくれなくなってしまいます。傲慢さの失敗は、挽回が難しいのです。勇者が為しえた大成功は、この危険な罠がつきものであって、注意深くある必要があります。勇者の成功が大きければ大きいほど、それは、自分だけの力でできたものではありません。友人たちとのチームワークや運、天の采配の為せる技であって、それらに対する感謝の気持ちを忘れてはいけません。このうぬぼれや傲慢さを克服することこそが、勇者にとっての第一の課題と言えましょう。
また、逆に、低く否定的な自己イメージの呪いを解ききることができずに、いまだに卑屈な意識を持ち続けて、勇者としての自分に尻込みしたり、自分に注目が集まることをおびえたり、リーダーとしての責任を担うことに怖気づいたりすることもあります。謙虚さと自虐は違います。謙虚さは、自分も相手も大切だと思える心情であり、人間関係が長続きします。しかし、自虐は、自分を嫌います。自虐の人は、縁の薄い遠い関係性の人には礼儀正しくふるまうので、謙虚な人だと勘違いされますが、相手が近づけば近づくほど自分に対するマナーを人間関係に投影します。自分に対しで虐待するように、相手に対しても暴言を吐いたり暴力をふるったりようになるのです。人は、自分にするように人にするのです。
謙虚ではあるべきですが、自虐は慎まなければなりません。もし勇者が、いまだに自虐の罠にはまっており、自分の内面で分離と葛藤を持ち続けていたとしたら、自分の中の不穏さ、暴力は、外側に投影されて、人間関係やチームワークの中で、強引さ、ハラスメント、暴力が散見されるようになります。自制がきいている分にはまだその出現も少なく済みますが、大きなプレッシャーやストレスにさらされて、恐怖や絶望にこうべを垂れてしまったならば、もはや良心の自制は効かずに不正をなしたり、暴力をふるうことに躊躇がなくなります。かくして、勇者は暴君へと変容してしまいます。
実は、勇者と暴君は同じコインの裏表です。どちらに転ぶかは、健全な自己認識を得られるかどうかにかかります。勇者としての自分を受け入れ、信じることができる健全な自尊心を持てている場合は、長所も欠点も含めたありのままの自分を受け入れ、痛みや失敗も含めた自分の人生を祝福し、かっこよいも悪くもある自分のすべての側面を愛することができます。自分を愛するように、他者の存在も尊いと認識し、他の欠点や失敗、愚かな側面も自分同様にその存在を受け入れる度量、清濁併せ呑む度量があるのです。自分の中の欠点を認めるということは、自分に甘いということではありません。それは、誤魔化そうとする自分を厳しく制御し、しっかりと反省できるということであり、今後に向けて成長できるということでもあります。
一方で、自分の中の一部を嫌悪し、受け入れられずに否定している場合は、自分の中のその欠点が他人に暴露されることを恐れるあまりに、欠点の存在を全否定します。自分の中の醜さこそが自分の本質ではないかと恐れており、醜さを克服する事ができないのではなかと心配し、自分が成長する可能性を信じることができないので、自分が反省して変わるべきだというアイデアや指摘を拒絶します。自分に欠点が確かに存在するのに、詭弁をもって「自分は悪くない」と主張します。「自分は完璧であり、変わる必要がない。悪いのはあなたであって、あなたが変われば問題は解決する」と主張するのです。完全無欠で非の打ちどころのないファンタジーの自分を自分だと信じ込んでおり、そのような自画像を他者にも信じ込ませようとします。それは、うぬぼれであり傲慢だということなのですが、本人は他人にそう映っているとはつゆ知らず、裸の王様になってしまいます。
自分の中の欠点を嫌悪するので、他者が持っている同様の欠点にも敏感です。他者の長所ではなく欠点ばかりを見るようになり、それを指摘し、攻撃して、矯正するように勧告します。しかし、実は、嫌悪し、直せと言っている他者の欠点は、自分の欠点なのです。自分の中の問題を相手に見てそれを責めることを投影と言います。投影の罠に絡み取られると、反省すべきは自分ではなく他人だと思い込んでしまいます。変わるべきものは自分ではなく他人であると感じるのです。ですから、本来自分の欠点であるので自分が反省し変わらなければ本質的に問題が解決しないにもかかわらず、それを相手の人や環境のせいにするので、いつまでも成長することもできないし、本質的問題を解決することもできません。投影の状態では、歩けどもあるけどもたどり着かず堂々巡り、がんばってもがんばっても空回りをしてますます事態は悪化する、知らないうちに友が去り、孤独になっていく、そんな罠にはまり込んでしまうのです。
変わらなければならないのは他人ではなく自分だったのです。勇者とは言え、成長のプロセスにあり、ゴールにいるわけではありません。まだまだ克服すべき欠点があるし、成長の偉大なる可能性もあります。欠点があるからと言って、それは決して自分の本質ではなく、痛みを持った小さな自分、生傷を守ろうとするかさぶたたのです。光は、そうした傷や痛みから差し込んでくる。痛みは成長のチャンスでもあるので、拒否したり恐れたりすべきものではありません。痛みを受け止める度量、反省につなげる謙虚さ、そして成長を信じる勇気こそが自分の本質なのです。勇者の2つ目の課題は、自分の本質は決して醜い愚かさではなく、輝かしい勇者なのだと気づくこと、自己卑下や自虐を止めて、健全なる自尊心を取り戻すことです。偉大なる自分の側面に怖気づかずに受け入れること、そして、人から注目を集めることを恐れずに楽しむこと、リーダーとしての責務を受け止めることが大切なのだ言えましょう。
【新刊“To be a Hero”の内容紹介】
①おわりに
②ヒーローズジャーニー
③ヒーローズジャーニーをもとにした人の成長プロセス
④ステージ1 自然児
⑤ステージ2 傷ついた子供
⑥ステージ3 放浪者
⑦ステージ4 求道者
⑧ステージ5 戦士
⑨ステージ6 達人
⑩ステージ7 魔法使い
⑪ステージ8 変革者
⑫ステージ9 勇者
⑫ステージ10 覇王
⑬ステージ11 仙人
⑭ステージ12 賢者
⑮ヒーローズジャーニーの教え