体験学習とは? Tグループの誕生

<Tグループの誕生>
 Tグループは、1946年夏、コネティカット州ニューブリテン市の州立教育大学で、コネティカット州教育局人種問題委員会とマサチューセッツ工科大学集団力学研究所共催で開催されたワークショップ「公正雇用実施法の正しい理解とその順守を促進する地域社会のリーダー養成」での偶然の出来事に端を発しています。

 当ワークショップの参加者は、ソーシャルワーカー、教育関係者、産業界の人や一般市民で、「人種差別をなくすためにはどのようなことが必要なのか?」についてのテーマのもとで、グループ討議やロールプレイングなどでプログラムが展開してくことになります。
 レヴィンは、そのワークショップがより効果的に運営されるように、他の研究員と共に、スタッフとして参加したのです。

 さて、一日目のプログラムが終わった後、Tグループ誕生の発端となる出来事が起こります。
 初日のプログラム終了後、K.レヴィンの発案で、グループの状況をより正しく認識するためのスタッフミーティングが行なわれました。話し合うメンバーは、もちろんスタッフですが、そのミーティングに興味を持っている数人のワークショップに参加している受講メンバーが、スタッフミーティングに参加することを希望し、傍聴者として参加することを許可されたのです。

 ミーティングでは、当初、ワークショップ中にグループ討議をしているときのメンバーの言動や様子、感情の動き、リーダーシップやコミュニケーション上の出来事に関するさまざまなプロセスの観察報告がなされていました。しかし、観察データの報告の最中に、そのミーティングを傍聴していたワークショップ参加メンバーから、報告されていた観察事実の解釈に対して異議が唱えられたのです。それをきっかけに、観察報告だけではなく、グループ討議の中で起こっていたワークショップ参加者の生の体験や本当に感じたこと、気持ちが開示されるようになり、人間関係のありのままのプロセスについて、さまざまな人から意見が出てきて、結局は、リーダー、調査研究者、メンバー全員が、一堂に会して、3時問にも及ぶ討議となったのです。

 報告された観察事実の解釈の一例を挙げると以下のようになります。

 「午前10時、X夫人はグループリーダーに攻撃を加えた。Y氏はリーダーの弁護につとめた。そのため、X夫人はY氏と激論を戦わすことになった。また他のメンバーの中には、この論争に巻き込まれてどちらかの味方をするはめになった者もいた。他のメンバーは恐怖を感じ、2人の激論を平穏におさめようと努力しているように思われた。しかし、それも激論中の2人からは無視された。10時10分、リーダーは、激論のために忘れられていた話題に注意をひきもどした。X夫人とY氏は、その後の討論でも互いに反駁しあった」。 『人間関係トレーニング』(津村俊充・山口真人編 ナカニシヤ出版)P11より引用

 このような観察報告に対して、グルーブメンバーが体験した感情や心の動き、他者や出来事に対する自分の認識や反応などのデータを率直に出し合って、その場で起こっていた本当のことをオープンにして、全員がありのままに認識することができるようになってきたと同時に、以前のグループ討議のことではなく、今ここのスタッフミーティングで起こっているプロセスにも焦点が当たるようになり、今ここで感じているお互いの正直な気持ちが開示されると同時に率直なフィードバックが行われ、コミュニケーションが深まることを通して、メンバー同士の深い相互理解が起こったのです。

 この出来事は、メンバーにとって、人種差別をなくすこと、人間尊重、相互理解や相互信頼ということについて、体験を通した深い理解と学習を促進し、メンバーやスタッフにとって非常に大きなインパクトを与えると同時に、貴重な学習の機会となったのです。

 レヴィンや参加メンバーは、この出来事を通して、人間関係やグループの学習は、既に一般化された知識や概念の学習よりも、”いまここ”の場で起こっているリアルな体験を学習素材に用いる体験学習の方が、はるかに効果的であることに気づいたのです。

 この出来事がヒントになって、レヴィン没後、翌1947年夏、メイン州、ベセルにおいて、前記ワークショップと同じトレーニングスタッフで、3週間のセッションが開催されました。
 このプログラムは、BST(Basic Skil Training)とよばれ、翌年の1948年以降は、NTL(National Training Laboratories)が主催し、”Tグループ”と呼ばれるプログラムとして、開催されるようになりました。

 以後、Tグループは、様々な技法を取り入れて、ラボラトリーメソッドと呼ばれる教育技法として、全世界に広がっていったのです。

<参考文献>
 「TグループQ&A(1990年3月)」 星野欣生 『人間関係』南山短期大学人間関係研究センター刊
 「人間関係トレーニング」 津村俊充・山口真人編 ナカニシヤ出版

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