前回の四つの生き方をふりかえって、勇者へと成長するための方法や勇者的生き方を現実的に生きるための具体的な方法を考えていきたいと思います。
前章の通り、人は、不安になると、
・外界から身を守ろうとする
・世界を単純化して理解しようとする
という二つの衝動を持ちます。
前者が「自己防衛欲求」であり、後者が「単純化・構造化欲求」です。
勇者への道とは、
これらを未熟な衝動のまま振り回されるのではなく、
「他者と関わるスキル」
「複雑な世界を扱う知性」
へと変容していくプロセスなのです。
勇者的な生き方は、一番自然で無理のない生き方です。しかし、単に自己防衛や論理性を放棄して、無防備、無知に生きる方法ではありません。それは勇者の道と言うよりは、お人好しなおばかさんの生き方です。
自己防衛は、決して放棄するべきではありません。ただし、それを恐怖に基づく欲求や衝動として感情的に対処するのではなく、関係性に向かうスキルとして高めていくことが必要です。
自己防衛スキルは、磨けば磨くほど強くたくましくなり、逆に危機意識や焦りは弱まり、リラックスと集中の力を得て増々自分らしい本来の力が引き出されるようになります。
単純化・構造化の演繹的な力も決して放棄すべきではありません。ただし、それを恐怖に基づく欲求や衝動として感情的に対処するのではなく、問題解決に向かうスキルとして高めていくことが必要です。
単純化・構造化のスキルは、磨けば磨くほど、思い込みや偏見を乗り越えて、リアリティを反映するようになり、複雑で不確実な世界を歩む上でのより正確で詳細な知見、叡智、地図を手に入れることができます。
つまり、勇者への道は、欲求や衝動をスキルへと変容していく錬金術でもあるのです。
ここでは、自己防衛スキルと単純化・構造化スキルを高めていくための具体的な方法を検討していきたいと思います。
1.自己防衛スキルを高めるための具体的な方法
自己防衛スキルは、世界の精神的、身体的攻撃から、心身を護るための方法です。
現実的に世界は天国ではありません。訪れてくる人たちは、礼儀正しい紳士淑女だけとは限りません。地球上で生きる限りは、自己防衛の技術を磨くことは、ある意味で宿命ともいえます。
しかし、それは、他とどうかかわるのかと言うスキルでもあります。見境なく全てを敵と認識して牙をむけば、鏡のように向けた力がわが身に返ってくることになります。だから、他をどう認識して、どういうマナーで関わるのかと言う視点も自己防衛スキルの一要素となります。
それらの視点から、以下、いくつかの具体的な方法をご紹介したいと思います。
⑴まずは、筋トレと体幹トレーニング
もっとも基本的でとっつきやすい方法は、筋トレと体幹とレーニングと言えます。
毎日少しずつ行えば、1年で体の形が変わってくることに気づくでしょう。
特に体幹トレーニングは、暑さ寒さの感じ方やその人の考え方までかえ得るパワーがあります。
⑵NOと言ってみる
時に、人は、嫌われることを恐れて、いやなことでも引き受けてしまいます。なんでも拒絶してしまうのは、閉じた生き方になってしまい、決して建設的なものではありませんが、なんでも受け入れて無理を重ねることは、決して自分を大切にする行為とは言えません。お勧めは、出来る範囲内で、ちょっとずつNOを言ってみることです。アサーションでは、断ることは時にお互いの幸せにつながるものであり、自分の境界を守るとても大切な技術だと考えています。断るための具体的な方法は以下のように考えられています。
①一文で言う、② 理由は最小限( 長い言い訳をしない)、③ 謝りすぎない( 罪悪感に飲み込まれない)、④ 沈黙に耐える
例)
基本形: 「お声がけありがとうご会います。でも、今回はお引き受けできません。」
理由: 「今回はお引き受けできません。今の状況では難しいです。」
⑶〇〇道
剣道や柔道などの各種武道は、とても強力な護身術です。また、書道や茶道のような芸道も、他者との関係性のなかで、距離感、間合い、共感など、よりよい関わり方を体得する方法です。どちらも、関係性の中で、自分らしく生きるための技術であり、~道のつくものは、たいていの場合、高い境地を体得するためのシステム、学びの仕組みを内面に持ち合わせています。
⑷音楽、芸術
音楽、芸術、詩、など、アートを実践することは、自他ともに単に表面的に見えるものだけではなく、内面の深さに出会える方法でもあります。内面の深層には、真善美、ロゴスと呼ばれる美しい本質があると言われています。
⑸グループワークメソッド
エンカウンターグループ、Tグループ、体験学習などのグループワークメソッドは、人とのかかわり方、関係性を流れるエネルギーの感受性、距離の取り方、共鳴の仕方を学ぶとても優れた方法です。グループやワークショップと言う枠組みをはずせば、カウンセリング、即興ジャズ、なども、同様の学びをする方法と言えましょう。
⑹その他
・心理学、哲学、宗教、などの人間存在の深層を探求するための勉強
・ヨガ、気功、などのボディワークメソッド
…
2.単純化・構造化のスキルを高めるための具体的な方法
世界は、本来、とても複雑です。
未来は読めない。
人の心も完全にはわからない。
社会も、経済も、自然も、常に変化しています。
しかし、人はその混沌の中でも、生き残り、判断し、前に進まなければならない。
だから人類は昔から、・戦略・兵法・経営・投資・科学・占術などを通して、「複雑な世界の中に、パターンや流れを見出そう」としてきました。
これは単なる知識ではありません。
不確実性の中で、観察し、仮説を立て、修正し続ける訓練です。
つまり、「わからない世界と付き合う技術」なのです。
以下、その具体的方法のいくつかをご紹介していきましょう。
⑴社会学(政治、歴史、地理、経済、など)の勉強
社会学を学ぶことで、この世界にある複雑性と、簡単には割り切れないとてつもなく深い多面性を理解することができます。
⑵物理学(天文学、素粒子物理学、など)の勉強
私たちが認識しているこの世界は、物理学や天文学の知見からは、全体の5%程度であり、実は95%が未知なのです。そのような視点を持つと、安易な単純化・理論化が以下に的外れであるかがよくわかってきます。
⑶企業経営や戦略の実践的学習
企業経営は、まさに不確実性や複雑性との戦いです。理不尽にも思える様々なフォースにさらされ、右往左往しながら、それでも自分を貫き、未来を拓いていく。これは、単なる儲けや経済活動を越えた、真実に立ち向かい真実を生きようとする覚悟とスキルが必要になります。また、戦略は、5年後10年後の未来を考える方法です。一応科学的アプローチはありますが、未来は、論理ではわかりようがありません。それでも分かろうとするところに未来は開けてくる。まさに不確実性やネガティブケイパビリティの実践訓練とも言えます。
⑷投資
単純化・構造化スキルを体得するためには、投資は絶好の教材と言えましょう。自分のスキルがそのまま利益につながります。より真剣に集中して学ぶことができるでしょう。これは、囲碁や将棋、麻雀、トランプなどの勝敗がはっきりするゲームでも同様なことが言えます。ただし、負けが込んで感情的になって中毒化しないように、しっかりと自分を律する必要があります。自分なりのルール設定を忘れずに。
⑸その他
・兵法―命がけの不確実性の中で、勝機を見出す方法を学ぶ
・占術―もともとは、天地宇宙、地形、季節の巡りの中で、先を読む方法であり、古代では学問として扱われていた。
…
3.勇者的生き方に向けて
複雑性に耐える力だけでは、人は冷たくなることがあります。
逆に、開くだけでは、人は傷つきすぎてしまう。
だから本当に必要なのは、
・世界の複雑性を扱う知性
・他者と共鳴できる開放性
その両方なのかもしれません。
勇者的生き方とは、
傷つかない人になることではありません。
不安を抱えながら、それでも開こうとすること。
また、世界の全てを知ることでもありません。
わからないまま、それでも観察し続けること。
支配ではなく、対話へ向かおうとすること。
それらの両方が揃って初めて「自然でありながら持続可能な勇者的生き方」が成立するのだと言えましょう。
勇者としての在り方は、一朝一夕には身につくものではありません。犠牲者として、暴君として失敗しながら、それでもあきらめないで成長への糸を切らずに粘り強く挑戦していく人にこそ開かれうる境地なのだろうと思います。
単に流されるまま、無自覚に生きるのではなく、少しだけ丁寧に、少しだけ意識的に、少しだけ粘り強く、自分の中の恐怖や欲求、衝動と向き合い、それをスキルへと変えていく。そうしたプロセスこそが、ネガティブケイパビリティの実践であり、人の進化への道なのかもしれません。
【ネガティブケイパビリティシリーズ】
①ネガティブケイパビリティとは
②不完全である勇気、失敗する勇気
③弱さを語れる人はなぜ強いのか
④問いを閉じないという知性
⑤多層多面的理解
⑥人間関係の中の4つの生き方
⑦勇者への道(最終回)