分離感について⑦ 「分離感は幻想」

 「人は、本質的に戦いの生き物であるので、闘争に基づいて生きなければならない。」

 「人は、本質的に社会的な生き物なので、愛や思いやりを大切に生きるべきだ。」

 現代社会においては、2つのまったく志向の違う考え方がある。いったいどちらが正しく、どちらが幻想なのだろう。まずは、前者から検討してみよう。前者は、資本主義社会を作り上げる根本となる考え方、人間観といえよう。以下、類する哲学を提示していこう。

・「自然の尽力はもっぱら、そのような人(競争に負けた不適者、貧乏人)をつまみ出し、世の中から一掃し、もっと優れた者たちのための余地を作ることに向けられている」ハーバード・スペンサー(「適者生存」という言葉を生みだした政治哲学者(「共感の時代」フランス・ドゥ・ヴァール著より引用)

・強い生き物が劣った生き物を犠牲にして発展するのだとすれば、それは単にそうであるだけではなく、そうあるべきものだ。(「共感の時代」フランス・ドゥ・ヴァール著より引用)

・「人間の自由は、悪から始まる」 カント

・「(大企業の成長は)自然の法則(弱肉強食、適者生存、競争)と神の法則がうまく働いた結果に他ならない」ジョン・D・ロックフェラー(「共感の時代」フランス・ドゥ・ヴァール著より引用)

・社会ダーウィン主義者は、そのような気持ち(思いやり)をあざける。自然がしかるべき過程(競争、弱肉強食)をたどるのを妨げるだけだというのだ。彼らは、貧しさは怠惰の証、社会的公生は弱点として切り捨てる。貧しいものはただ滅ぶに任せればよいではないか、と。(「共感の時代」フランス・ドゥ・ヴァール著より引用)

・エンロンのCEO、ジェフ・スキリングは、リチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』の大ファンで、自分の企業内で冷酷無比な競争をあおり、意図的に(彼らの信じ込んだ弱肉強食の)自然をまねようとした。・・・従業員はエンロンの社内環境で生き延びるために、たがいにせっせと蹴落とし合い、その結果、内部はぞっとするような不正行為、外部では情け容赦ない搾取を特徴とする社風が生まれた。(「共感の時代」フランス・ドゥ・ヴァール著より引用)

・(行動主義心理学の父ジョン・ワトソンは)母性愛の意義に関しては特に懐疑的で、それを危険な道具と考えた。・・・社会はこれほどの温かさは不要で、もっとしっかりした仕組みが必要だというのだ。・・・ワトソンは、自らが「キスされすぎた子供」と呼ぶものの撲滅運動を展開し、1920年代には非常に世評が高かった。」(「共感の時代」フランス・ドゥ・ヴァール著より引用)

 いかがだろうか?上記の引用文献である「共感の時代」の著者フランス・ドゥ・ヴァールは、動物学者であり、彼の幾多の動物研究によれば、自然界は、上記のようなゆがんだ競争社会ではなく、もっと愛と思いやりと自己犠牲と社会性のあるものであり、上記のような考え方は、自然界のほんの一部の暗い側面だけを取り出して、人間社会のひずみを正当化しようとした詭弁であると語っている。私もまったく同感である。弱者や貧者は、滅ぶのが社会のためだなんて、いったいどんな悪趣味の人間が思いつく考え方なんだろうと思ってしまう。しかし、恐ろしいことは、このようなゆがんだ思い込みの信念を持った政治家が、実際にこうした考え方、思い込みに基づいて施策をとっていることだ。その結果どうなったのかは、今の日本や世界を見れば一目瞭然であろう。諸国間のいがみ合いと戦争、飢餓、格差問題、自然破壊・・・、決して自然の美しさを反映した社会となっているとは誰にも言えまい。(続く)

 

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分離感について⑥ 「分離感と施策」その2

 マイケルムーア監督作品の「キャピタリズム ~マネーは踊る~」で紹介された安定的に成長する優良企業がある。ウィスコンシン州のイスムス社(ISTHMUS)である。当社は、民主主義を経営に取り入れているユニークな会社である。従業員は、全員平等な経営者として扱われ、アイデアや意見は尊重され、会社の方針や意思決定は、すべて話合いと多数決で決められる。それだけではない。末端の社員とCEOの給与が同じなのだ。利益を真の意味で分かち合うファミリーなのだ。社員は、平等に扱われることに満足しており、仕事に生きがいとやる気と感謝を持って取り組んでいる。

 埼玉県川口にコミー株式会社という広角ミラーの製造販売を営むユニークな会社がある。当社は、非競争主義を提唱している。社長の小宮山氏は、競争原理で肉食獣のように熱くたたかうことは疲れるからいやだというのだ。肉食獣ではなく、もっと穏やかに、日々の仕事を大切にして、創意工夫を最大限に活かして経営をしていこうと志向されているのだ。だから、コミー社の日々の仕事は、コミーの物語として、丁寧に記録され、関係各社に公開し、共感と協力を呼んでいる。小宮山社長は、競争が成長の原点であるという考え方は、勘違い、幻想ではないかとおっしゃる。そんな疲れることをするよりも、丁寧に日々の仕事の中で起こっていることをよく理解し、しっかりと考え、工夫していくことが、会社の成長につながるという信念で経営されているのだ。結果、防犯ミラー業界において国内シェアーは、80%であり、顧客から絶大な信頼を得ている。

 長野県伊那市に伊那食品工業という素晴らしい会社がある。社長の塚越氏は、自分の仕事は、社員を大切にすることと公言し、リストラなしの年輪経営をモットーに、社員を家族として本当に大切にする施策を展開している。多くの工夫があるが、その最たるものが、情報公開主義であろう。伊那食品では、あらゆる情報が、隠されることなくすべて公開される。信頼は、取り繕って作るものではなく、隠し事やうそのない正直さからくるのだ。また、人事制度は徹底した年功序列である。社員は、社長の方針を意気に感じ、高いモチベーションで仕事に取り組んでいる。結果、48年にわたる連続の増収増益を達成した。

 分離感を弱める方針、一体感を高める経営哲学は、会社の偉大な成長をもたらすのだ。(続く)

 

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分離感について⑤ 「分離感と施策」

 人事諸制度には、さまざまな施策があるが、分離感の視点で見直してみると、本来の意図とは違った効果や副作用が見えてくる。たとえば、能力主義、成果賃金制度について。両施策は、本来、従業員の働きに見合った正当な報酬を提供することによって、従業員のモチベーションを高めようとする試みである。しかし、分離感の視点からみると、成果賃金制度は、従業員の一体感を壊し、分離感を高め、結果的に生産性を低下させる強烈な副作用がある。他者よりも仕事をしていることを証明することを通して自分の評価が決まるので、他者は、協力者というよりはライバルとなる。協力と競争は2者択一であり、一般的に言われているように両方を上手になんて器用なまねはできない。いったん競争が始まれば、関係性は、親愛から警戒へ、分かち合いから取引へ、協力から戦いへ、信頼から裏切りへと大きく変容していく。結果的に、組織の中で、より多くの隠し事、うそ、ごまかし、陰謀、策略がまかり通り、より小賢しく悪辣なやり方が勝利する質の悪い狂気の風土となる。従業員は、不信、怒り、孤独、疎外感、など多くのストレスを抱えるようになり、結果的に生産性に悪影響を及ぼすだけではなく、社会から糾弾されるようなトラブルを起こすなど、組織的な機能不全に陥るのだ。

 一方、幸運にも一体感をはぐくむことができた会社は、奇跡的ともいえる成長を遂げる実績を次々と上げている。(続く)

 

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分離感について④ 「分離感と生産性」

 分離感を生産性の視点から考えてみよう。結論から言えることは、分離感と生産性は反比例の関係にある。分離感が強まれば強まるほど生産性は低下する。

 2つのチームがあるとする。かたやお互いに反目しており、隠し事とうそ、策略と陰謀、”人の不幸は蜜の味”という感じ方を持ったメンバー同士がお互いに悪意を向け合う中、警戒し、攻撃と防衛、競争に終始しながら共通の目的に向けて仕事をするチーム。

 かたや、お互いに気のおけない仲間であり、深い関心と理解があるので、うそや隠し事は察知されて闇のつけいる隙がなく、今ここで起こっているあらゆることについて深い理解と共感があるので、本当に必要な適切な対応がいつでも取れる体制にある。もし問題が起こったとしても、3人寄れば文殊の知恵が機能しており、話合いによってクリエイティブで最も効果的な解決法に導かれていくチーム。

 そのような2つのチームの生産性を考えた場合。前者が不利であることは誰でもわかる。分離感は、強ければ強いほど生産性を低下させるのだ。(続く)

 

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分離感について③ 「分離感の状態」その2

(引き続き 2.分離感の状態)

②日常生活の状態

 社会的に常識とされている人と人との間の距離感の状態。表立って戦い合っているわけでもなく、かといって、肉親のように親しく感じているわけでもなく、お互いに、社会的な関係を維持できる関係性の状態である。自分と他人の境界線は、比較的はっきりとしており、自分と他人の関係性は、協力関係というよりはむしろ取引関係である。自分対他人を比較的平和的に体験できる場であり、自我の成長の場ともなる。しかし、分離感の反映である疎外感や孤独感は絶えることなく、主要な社会性の特徴の一つとなる。

 

③共感の状態

 他者に強い親しみを感じ、気持ちを分かち合うことができる状態である。もはや、”自”は、”他”と異なるものというよりは、本質的には同じものと感じる。”他人”のいたみは”自分”のいたみであり、”他人”の喜びは”自分”の喜びである。人間関係において、相互の感情や意向など、ノンバーバルの領域について、共感的にはっきりとわかるので、そこには、うそやごまかし、隠し事の入る余地はない。関係の中で起こっている様々なあらゆることが、オープンとなり、受け入れられ、誤解なくありのままに理解される。そのような関係性の中では、隠し事、演技、うそ、ごまかしで自分を演出する必要はまったくない。自分は、他人から、ありのままを受け入れられ、すべてをそのまま愛される。愛されるために自分を変える必要が全く無いのだ。他者に対しても同様であり、自分は他者の中で起こっていることを、客観的にではなく、体験的に理解できる。他者の悲しみを自分の悲しみとして体験し、他者の喜びを自分の喜びとして体験する。そのような体験にケチをつけて、”本来ならばこうあるべきだ”などと説教しようなどとは思いもよらない。そのような体験をそのまま受け入れて誤解なく理解し、そのままを心から愛することができるのだ。このような共感の状態において、人は初めて自分らしさを自由に謳歌し表現することができる。そのような関係性に一体化した自分自身を初めて心から幸せと感じることができるのだ。(続き)

 

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分離感について② 「分離感の状態」

 分離感は、境界の性質とその状態の2つの視点から特徴を捉えることが出来る。

1.境界の性質
 自他の境界は、時と場合に応じて変化する。自分と大変親和的で自分が受け入れやすい対象に対しては、境界線は柔軟であいまいになる。例えば、自分の大好きな食べ物は、自分の口の中に受け入れ、ついには自分の体と同化し、自分の一部になる。自分の大好きな人とは”もらい泣き”のような共感が起こり、自他の感情の共鳴と相互理解が起こる。
 逆に、自分と親和しない受け入れづらい対象に対しては、境界線は固くはっきりと浮き上がり、まるで戦争当事国同士の国境線の様に緊張と対立が起こる。

2.分離感の状態

①戦いの状態

 ”他”に対して脅威や反感を感じ、”自”を守ろうとする状態であり、”自分”が、”他”の脅威にさらされて萎縮し弱い犠牲者のように感じる。自他の境界線は厚くなり、固く、高い壁ができた状態となる。個の状態になると、基本的に”他”は、どんな存在であれ、潜在的な敵であり、どんなフレンドリーな装いをしていてもいつかは攻撃に回る信用のならない拒絶すべきよそ者となる。だから、他からの働きかけは、どんなにそれに愛があるように見えようが、それは何かを奪おうとしている操作や攻撃に感じ、あらゆる働きかけにプレッシャーを感じる。結果、人間関係は、競争とサバイバル、戦闘と防衛の関係となる。(続く)

 

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分離感について① 「分離感とは」

 分離感とは、他者と私が分離しているという感覚である。人は、多かれ少なかれ、誰もが分離感を持っている。それがなければ、自分を認識できないからだ。

 「私は、背が高い」と認識するためには、背の低い他人が必要であり、

 「私は、強い」と認識するためには、弱い他人が必要であり、

 「私は、正義である」と認識するためには、悪である他人が必要であり、

 「私は、私である」と認識するためには、私ではない他人が必要である。

 分離感は、寂しさの原点でもあるが、自己認識の原点でもある。さまざまな悲しみの原点でもあるが、個としての成長の原点でもある。ネガティブとポジティブ、裏腹な性格を持つ分離感。やっかいではあるが、絶対に避けるわけにはいかない分離感について、考察を進めていきたい。分離感にはどんな特徴があり、どのようにかかわればいいのか?そんなテーマに挑戦していきたい。

 (続き)

 

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不確定なことを受け入れる

「不確定なことに導かれることは良いことなんです。

貴方は不確定なことを受け入れることができますか?

貴方の人生に何が起こるのかを知っているべきだと決め込まないで、わからないこと、不確定なことを受け止めるのです。」

 エックハルトトール

新卒切りに気をつけて

  「新卒切り」に気をつけて 甘い採用計画、新人が「調整弁」 2010年5月24日 朝日新聞

 4月の入社時期の前後、内定学生や新入社員が理不尽な要求をされ、内定辞退や退職を迫られるケースが目立っている。「新卒切り」とでも言うべき事態だ。専門家は「きちんと採用計画も持たず、新人を調整弁にする企業もある」として、就職活動をする学生に注意を呼びかけている。

■怒鳴られ続け、9日目「自主退職」

 今春、京都市の私大大学院を卒業した男性(25)は、入社9日目で「自主退職」した。

 神戸市に本社を置くITコンサルタント会社に内々定が決まったのは昨年5月。東京に配属されたため都内に引っ越し、4月1日に入社した。

 初日。少し早めの15分前に出社した。いきなり上司から「他の人はもっと早く来ている。意欲が足りない」と叱責(しっせき)された。その後も、電話の応対や退社時間をとがめられ、「落ちこぼれ」「分をわきまえろ」「君が劇的に変わらなければ一切仕事はさせない」と怒鳴られ続けた。

 出社3日目からは、連日反省文を書かされた。

 そして4月9日の夜。上司から会議室に呼び出され「もうしんどいやろ?」と退職を迫られた。「まだまだ頑張れます」と反論したが、上司は「給料だけもらって居座るのか」とたたみかける。2時間近くたって疲れ果てた頃、退職届が目の前に差し出された。ぼうぜんとしたまま「自己都合」としてサインした。

 男性は先月末、この会社に復職するつもりはないものの「無理やり書かされた退職届は無効」として、社員としての地位確認と3年分の給与支払いを求める労働審判を東京地裁に申し立てた。

 「入社までに配属予定先が二転三転したり、同期4人が入社直前に内定辞退したりと、いま思えばおかしい点が多かった」と振り返る。当面、実家か親類宅に身を寄せて職を探す。「今度こそ注意深く選びたいが、新卒でもなく、えり好みできない現実もある」

  この会社は朝日新聞の取材に「コメントすることはない」としている。

 NPO法人「労働相談センター」(東京都葛飾区)には4月以降、「この業界に向いていない」「協調性がない」などの理由で解雇通知や退職勧奨を受けた新入社員からの相談が10件以上あった。

 相談員の須田光照さんによると、景気が回復せず採用計画の見込みが外れたという企業もあれば、とりあえず多めに採用し、後から適当に切っていくつもりだったとしか思えない企業もあるという。「(即戦力にならず)目算が狂ったと簡単に切り捨てる企業が増えている。人材を育てる意識が薄い」と指摘する。

■3月入社強要/「四つ資格取れ」

 内定学生が入社直前に、辞退に追い込まれるケースも。都内の私大女子学生(23)は昨秋、人材派遣会社の内定式で突然「3月に入社して下さい」と言われた。

 卒業旅行の日程を変えて「入社」。特別に休暇がもらえた卒業式の日と土日以外、毎日午前9時から午後6時まで、パソコンの使い方を覚えるというメニューだけで拘束された。大学に相談すると「あまりに異常」。悩んだが内定辞退した。同期120人の5分の1が辞めていくことを後で知った。「人を育てる姿勢がなかった。多く辞めることを見込んで採用しているとしか思えない」

 留年し、元後輩たちに交じって就職活動を続けている。

 都内の私大の元女子学生(24)の場合は、「内定切り」に遭い、昨年度留年して就職活動をした。

 内定していた都内のITコンサルタント会社からメールが来たのは一昨年10月。「入社前に取得して下さい」と四つの民間資格が示されていた。年明けの2月には直接呼び出され、いきなりIT知識を問うテストがあった。結果を見た執行役員から「君の大学では一生上に上がれない」「クズと同じだ」と面罵(めんば)された。涙が出た。

 卒業式前日、「情報を一切漏らしません」と署名し、内定を辞退した。大学のキャリアセンターは「内定取り消しと同様の悪質な事例」と判断し、会社に正式に抗議してくれた。1年間10万円で在籍できる特例措置も認められた。

 再就活中は、キャリアセンターの相談員と常に連絡を取り合い、圧迫面接を受けたことや内々定後にどの程度拘束されたかを逐一報告した。「後輩のためにも、会社の情報は大学に伝え、共有することが大切だと思った」。今春、別のIT系企業に就職。2回目の就活は「納得できた」という。

 元女子学生が内定辞退した会社は朝日新聞の取材に、事実関係を認めた上で「内定切りや新人切りではない。ゆとり世代の学生は甘いところがあり、厳しく接するのは教育」としている。

■内定期間も「労働者」、相談を

 内定期間や試用期間であっても、正当な理由のない解雇や退職勧奨は無効だ。だが、「自主辞退」や「自己都合」の場合、企業側の責任を認めさせるのは容易ではない。

 一昨年に内定取り消しが社会問題化し、厚生労働省は09年3月卒の学生2143人が取り消しに遭ったとして、悪質な企業15社を公表した。しかし、今春の卒業生については厚労省は「ごく少数」として公表しておらず、公表企業も出ていない。

 全国247私大の就職支援部署の責任者で作る「全国私立大学就職指導研究会」の土橋久忠会長は「取り消しという形で表面化した事例は一部。内定切り批判が高まり、むしろ企業の対応は巧妙化した」と指摘する。

 「首都圏青年ユニオン」(東京都豊島区)の河添誠書記長は心得として次の3点を挙げる。

 一つは、納得できない書類にはサインしないこと。退職届を書くよう迫られても「家族と相談したい」などと言ってとにかくその場を逃れる。二つ目は、内定期間や試用期間であっても「労働者」としての権利があると認識する。解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念に照らしても妥当だと認められない場合は無効で、使用者と交渉する権利がある。三つ目は、いざという時の相談窓口を把握しておくことだ。(三島あずさ、石川智也)

    ◇

■主な相談窓口

◇大学生の場合は、まず大学の就職課などへ

◇全国の労働基準監督署

 所在地や連絡先は厚労省のホームページ(http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/location.html)から確認できる(平日8時半~17時15分)

◇首都圏青年ユニオン

 03-5395-5359(平日10~18時)

◇NPO労働相談センター

 03-3604-1294(平日9~17時)

 メール consult@rodosodan.org

◇連合の労働相談ダイヤル

 0120-154-052(平日9時半~17時半)

 

 

 企業は、営利目的で活動しているとはいえ、これはひどいですね。入社させたはいいけれども、その後都合が悪くなったからといって、自己都合の退職を装うために、何日にもわたって終日どなり、罵倒し、脅し、退職強要する。これは、もはや人の道を外れている。正義を全く失ったえげつない会社の振る舞いに怒りを禁じえません。こうした扱いを受けた若者は、記事にある通り、相談に乗ってもらって、少しでも補償を獲得し、次のステップへの糧にしたほうがよいと思います。

 現代社会は、インターネットで、どんな情報でも得られる時代となりましたよね。テレビで報道されなくとも、こうした極悪の所業は、野火のように広まっていく。「ばれなければ何をやってもいい」と思い込んでいる企業は、それがとんでもない思い違いだと思い知らされることと思います。新聞では企業名はさらされていませんが、ネットの世界では、ばればれなのですから。正義に反する強引な所業であっても遂げたいとおもったことよりも、イメージダウンで失ったことのほうがはるかに大きい。悪徳を積むことに躊躇しない企業は、よくよく世界中から非難の矢面になることを覚悟したほうがよいでしょう。

大卒就職率、過去2番目の低さ

   大卒就職率91・8%、過去2番目の低さ    2010年5月21日  読売新聞

 大学を今春卒業した就職希望者の就職率(今年4月1日現在)が、前年同期を3・9ポイント下回る91・8%で、過去最低だった2000年卒(91・1%)に次いで低かったことが厚生労働省の調査でわかった。

 前年同期を下回るのは2年連続で、下げ幅は過去最大。厚労省は、「08年秋のリーマンショックの影響で『就職氷河期』並みの就職難となった」と分析している。

 調査は、全国各地の62大学を抽出して実施。男子の就職率は、前年同期比で3・9ポイント減の92・0%、女子は同3・9ポイント減の91・5%で、男女共に過去最大の下げ幅となった。

 

 就職率が、過去2番目の低さだったとのこと。大学のキャリア教育に携わる担当者として、その厳しさは、肌で感じておりましたが、確かに去年の事情は、最悪の状況と言えたんだろうと思いますね。

 そんな年にめぐり合わせてしまった学生がかわいそうです。苦難が人を育てるとはいえ、一生懸命に頑張った末に、どこからも内定を得られずに、卒業後も、ハンデを背負いながら就職先を探している若者たちの苦難を思うと、胸が痛みます。でも、人生は不思議なもの。苦難の後には幸せがあるということは本当のことだと思いますね。自分の幸せをあきらめずに、志をハートにしっかりと持って、粘り強くことに当たってほしいと思いますね。きっと今は想像もできないようなチャンスが必ずやってくると思います。

 さて、今年の就活事情ですが、確かに厳しいことには変わりはありませんが、なんとなく、昨年とは違った雰囲気を感じますね。学生も焦っていますが、企業も思い通りの成果を出せていないような雰囲気です。少し求人数が回復してきているのかもしれませんね。きっと学生たちにもチャンスが増えてくると思います。希望を持って粘り強くアタックしてほしいですね。頑張る学生たちに心から応援していきたいと思います。