カテゴリー別アーカイブ: ②経営管理論

GMを巡って―1

GMが、今週中にも日産ルノーグループとの提携に何らかの決定を下す見通しです。
ことの起こりは、GMの最近の業績の低迷にしびれを切らした大株主である米著名投資家カーク・カーコリアン氏らが、カルロス・ゴーン日産社長と面会し、GMと日産ルノーの提携を話し合ったことに端を発しております。
GMの会長リチャード・ワゴナー氏はじめ、経営陣は、この提携案に全面的に賛成をしているわけではありませんが、株主の意見に対して、むげに断るわけにもいかず、かと言って、代替案を経営陣として出さない限り、株価の更なる下落を招きかねないこともあり、態度を保留している状況で、最終的な意思決定は、今週になる見通しなのです。

GM(ゼネラルモータース)は、1908年に創業の世界最大の自動車メーカーであり、シボレーからキャデラックまで名だたる名車、ブランドを生み出してきた米国の名門企業です。
GMは、私が尊敬するピータードラッカーが始めてコンサルタントとして関わったところでもあります。
1943年、当時一世を風靡していたGMは、若きドラッカーに会社を内部から調査して、その現状と課題、将来の可能性と方向性についてまとめるようコンサルティングを依頼したのでした。当時のGMは、GM中興の祖と言われ、後に経営の名著と言われる”GMとともに”を書いたアルフレッド・スローンの引退を間近に控え、世代交代に向けて今までの経営や組織の見直しを図ろうとしていたのです。
ドラッカーは、ほぼ3年間に渡り調査と診断を進め、最終的に1946年『会社と言う概念』という本にまとめて刊行しました。
『会社と言う概念』は、現代でも通用する経営の名著であり、実質マネジメントと言う言葉を世界に広めた初めての本といえます。ところが、当時のGMは、この本の中で主張されている”分権化と権限委譲の方針”や”マネジメントを変えていく必要性”などの提言を受け入れることができずに、GMの中では、この『会社と言う概念』は「左翼からの敵対的な攻撃」と認識され、敵視されてしまうことになります。
また、ドラッカーは、そのような非難や敵視にもめげずに、更なる大規模なアメリカ産業史上初めての従業員意識調査を実施します。
ドラッカーは、会社と言う概念の中で、「責任ある労働者」という考え方を提唱しました。従来は、単なる生産手段、機械の一部とみなされていた労働者に対して、ドラッカーは、単に管理者に指示されるだけの存在ではなく、自ら問題を発見し、解決を図る力を持った責任ある存在であると認識し、そのような労働者を育成していくことが重要な経営課題のひとつであることを主張していましたが、GMの中でもスローンの後任であるチャールズ・ウイルソンが、この考えに共鳴し、「責任ある労働者」が運営する自治的な「工場共同体」を作るための施策としてこの意識調査を実施したのです。
調査の方法は、「私の仕事と私がそれを気に入っている理由」と題した作文コンテストであり、従業員が会社や上司、仕事に何を求めているかについて理解することが目的でした。
その調査によって、膨大な情報を得ることができたのですが、集計した結果、分ったことは、「従業員が欲しているのは金だけ」という通説は単なる思い込み、的外れであり、従業員が求めているものは、「会社や製品との一体感、仕事の責任」であることが分ったのでした。
この調査を受けて、ウイルソンは、現在の「QC(品質管理)サークル」である「職場改善プログラム」を実施しようとしたのでした。
しかし、この素晴らしいドラッカーの提言、アイデアも、今度は、全国自動車労組(UWA)の反対によって頓挫することになってしまうのです。

<参考文献> 「ドラッカー20世紀を生きて」P.ドラッカー著 日本経済新聞社

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GMを巡って―2

 

 

日本企業の従業員満足度

 2005年5月13日の朝日新聞の朝刊に、米国調査会社ギャラップによる「職場への帰属意識や仕事への熱意」に関する意識調査の結果が掲載されていました。

 調査は、2005年の3月に電話番号から無作為に選んだ千人を対象に実施され、03~04年にすでに実施されていた他国の同様の調査データと合わせると、14カ国の仕事や帰属意識に関する意識を比較、分析することができるとのことです。
 
 調査結果によると、日本人の仕事に対する忠誠心や熱意が、
 「非常にある」  9%
 「あまりない」 67%
 「まったくない」24%
となっており、「非常にある」の9%は、調査した14カ国のうち、シンガポールに並んで最低であり、最も高い米国(29%)の3分の1以下だったことが分かりました。

 このデータによると、日本人の多くが、職場に反感や不満を感じており、会社に対する満足度は、世界の中でも最低クラスであると言えましょう。
 
 弊社では、ES(従業員満足)が、企業の成長と存続にとってきわめて重要な要素であると考えております。よく、企業戦略の柱として、多くの企業でCS(顧客満足)を訴えていますが、私どもは、顧客満足主義を主張する大前提として、働く従業員が仕事や職場に満足し、自信と誇りをもって仕事に従事できている必要があると考えているのです。
 だいたい、自分自身の今の仕事に満足していない人が、その仕事を通して他人に満足を提供しようとしても無理があると思いませんか?もしそのような努力をしたとしても、敏感な最近のお客様にとっては、無理がばればれであり、うそっぽいので、決して購買にはつながらないでしょう。

 そのような視点から考えると、今回のこのようなデータは、最近の日本の経営に何か大きな間違いがあることを証明しているのではないでしょうか?
 もちろん、従業員の問題もあるだろうとは思いますが、このような風土を作り上げてしまった経営スタッフの責任は否めません。ある意味、謙虚に、自分たちのマネジメントの方向性、施策、哲学をもう一度見直してみる必要があるのではないでしょうか。

 弊社では、従来のような「あめとムチ」による管理志向は、管理されるほうのうつを生み、生産性や創造性を生み出すことはないと考えております。それが通用したのは、情報がリーダーに集約していた過去の権威主義の時代であり、さまざまなことがオープンとなり、公開される現代では、もはや機能しません。未だに「あめとムチ」で頑張っている組織もあるのでしょうが、それが通用するという信念があるからこそと思いますが、よく現実をご覧になると良いと思います。
 そのような方法で、従業員は、輝いていますか?新しく魅力的なアイデアや商品は、生み出されていますか?ファンになってくれるお客さんは増えていますか?

 現実に、伸びている組織や企業は、決して従業員を虐待しません。尊重し、お互いに理解する努力をいとわずに、ともに協力し合える体制を作る努力を惜しまない会社こそが、飛ぶ鳥を落とす勢いで伸びているのは、間違いのない事実です。

 もはや、人は、脅されたからといって仕事をするものではないし、にんじんをぶら下げられたからといって、それだけで本気を出すものではありません。人は、パンのみにて生きているわけではないのです。
 「あめとムチ」による管理は、「それが通用するはず」と思っているのは、単なる思い込みであって、現実ではありません。先日のJR西日本の事故にも象徴されるように、その方針を強めれば強めるほど自らの首を絞めることになるでしょう。

 米国では、そのことにとっくに気づいており、最先端の経営学やコンサルタントは、組織における人間性や愛の重要性を説いており、その成果を上げております。
 弱肉強食で、適者生存が謳われる市場至上主義の米国においても、単なる取引や契約ではなく、人の情熱や信頼、愛が組織の存続や成長に絶対不可欠であることを理解し、その対策をとり、パフォーマンスにつなげているのです。

 日本の企業も、いつまでも、旧時代の遺物にしがみついてはいけません。
 今こそ、もともとあった日本のよきスピリットを生かし、信頼と情熱に基づいた、明るさと楽しさと冒険に満ちた経営に切り替えていく必要があります。
 人は、本気を出せば、本当にすごいことができるものです。
 その可能性と潜在性を信じて、人を大切にする、お互いに理解を深め合い、協力し合える体制を作っていこうではありませんか。