年別アーカイブ: 2009年

キャリアアドバイザーとして

毎週火曜日は、東京のJ大学のキャリアアドバイザーを担当しています。1対1のカウンセリングを通して、学生たちの自分らしく幸せで力強いキャリアを育むお手伝いをしようとする試みですが、今年で早くも3年目になります。何とか学生たちに本当の意味でのお役にたちたいと様々な試行錯誤と挑戦と勉強を積み重ねてきており、私にとっては、やりがいのある大切な仕事の一つになっています。

 しかし、今年は、学生たちにとって、本当に厳しい逆風が吹いてますね。なかなか思うように内定に結びつかない学生たちと話をすると、人生におけるもっとも強烈な試練の真っただ中にいるんだなぁということが本当によくわかります。

 就職活動は、本当に試練ですよ。どんなに一生懸命に頑張っても、相手がいますので、なかなか思うようにはいかない。何が悪いのか分からないけれども自分を受け入れてもらえない。自分の価値を否定されているようで、どんどん自分の自尊心と勇気と誇りが砕かれていく。逃げ出したいけれども、学卒で就職できないときの過酷な運命が怖い。周りは内定を取っている友人が出てきて焦る。親の期待や学校の期待がプレッシャーとなる。心は絶望的な状況だけれども立ち向かっていかなければ後がない。・・・。

 こんな時代に就職活動に直面した学生は、相当の苦労をしていると思います。実際のところ、今の就活生たちは、強烈な修行の真っただ中にいるようなものです。毎日が針のむしろに座りながら、滝行をしているようなものですよ。しかし、明けない夜はないし、春の来ない冬もないとよく言われています。一生滝にうたれなければならないわけではなく、今だけなのです。また、人生は、きちんと帳尻が合うようにできていて、苦しければ苦しいほど、そのあとにやってくる喜びも大きいものですよ。人生において意味のない苦労などなく、すべてが大切な意義を持っている。人は悲しいけれども、成長には痛みが付き物であり、痛みが大きいほど、大きな飛躍の可能性があるのですから。

 就職活動は、戦いの場であり、戦略が必要です。無防備にやみくもに立ち向かっていっても決して勝つことはできません。思うどおりにいかないのは、あなたの能力が足りないからなのでは決してありません。採用の現場では、その人の本質的な可能性は潜在力など見極めきれないのですから。就活でなかなか内定を取れないのは、シンプルに武器と防具(戦略と準備)が足りないからなのです。あせらず、あきらめず、おもねらずに、地に足をつけて、もう一度、自分の戦略と武器防具を磨きなおしてみましょう。私も協力します。

キャリアスキル演習の授業

神奈川県のT大学において、前期は、キャリアスキル演習の授業を担当しています。この授業では、就職活動にかかわる自己表現や対話のスキルを学ぶことをテーマとした授業であり、いわゆる就職活動の面接対策をターゲットにおいた授業となります。ですから、通常の大学の授業とは、趣を異にしており、授業は、完全な演習型となります。ただ黙って座っていれば単位が取れるというものではなく、好むと好まざるとにかかわらず、グループを組み、メンバーと直接にかかわり、しかも、そんな関係の中で自分自身を磨いていく必要があるのです。ワークの中では、自分について、他者にどう映ったのかを直接に聞きながら、自分の就職活動のスキルを磨いていくことになるので、時には耳が痛いこと、傷つきハートが痛むことも言われることもあります。ですから、授業に参加する学生は、それ相応の覚悟が必要なのです。

 よく今時の学生は、「人間力がない」「ちゃらんぽらん」「コミュニケーションの力がない」「情熱が薄い」などと言われておりますが、この授業を通して本当に実感したことは、それとは正反対のこと。他の若者のことはわかりませんが、ことT大学の学生は、決してそんなことはありませんね。授業開始当初は、こんなにワークの多い厳しい内容でついてこれるのだろうかと心底心配しておりましたが、実際にふたを開けてみたら、学生たちのほうが真剣で情熱的に、しかも授業を楽しみながら、自分について一生懸命に探求しているのです。欠席率も少なく、厳しいワークから決して逃げることなく立ち向かい、どんどん成長してくれている実感がありますね。「本気を出せばどんな人も輝く」が弊社の信条ですが、全くその通りで、学生たちは、だれもが魅力的であり、たくましさをどんどん育んでいます。私が採用担当者だったら、絶対に内定を出しますよ。学生が就活で成功していないとしたら、それは学生が悪いのではなく、採用担当者の見る目がないのです。

 4月に始まった授業も、今日で早くも10回目で、残すところ4回となりました。学生たちの自分らしく幸せな力強いキャリアの後押しができるようにしっかりと頑張りたいと思います。学生たちも、今は、大変な時代ですが、めげずに焦らずにうろたえずに頑張って立ち向かっていきましょう。

ホームページを改築中

現在、ホームページを改築中です。
 弊社WEBは、業者に依頼せずに、すべて私どもで作っています。1999年に立ち上げたのですが、立ち上げた当初は、本当にシンプルで、ページ数も10ページ程度のものだったと思います。2003年に、大改造をして、ほぼ現在の形に変えました。自画自賛ですが、デザインが気に入っており、変更当初は、完成がとても嬉しくて、何度も何度も見返したことを覚えています。しかし、ここに来て、画面サイズが小さいこと、W3C(技術標準を提示する団体)の推奨する方法に則っていないこと、などが気になり、思い切って大改築に取り組むことにした次第です。
 今回の変更のポイントは、以下の3つがあります。
①メモ帳で作ること
 従来はホームページビルダーを使って作成していたのですが、HEML文書よりも、ブラウザー(IEやファイアーフォックスなど)上の見かけを重んじるので、根本のHTML文書が汚くなってしまいました。この問題を受けて、今回は、最もシンプルなメモ帳で作ることに挑戦しました。

②SEO対策
 SEOとは、検索エンジン対策のことで、検索で上位表示されるための様々な工夫と対策を言います。根本的には、サーバー上の情報の整理整頓、ホームページの構造の美しさ、HTML文書の美しさ、利用する方々への配慮と思いやり、W3C推奨の順守などがあげられるのですが、実は前回作成時には、まったくこの対策は眼中になく、ブラウザー上の見かけだけを作ることに一生懸命だったので、今回は、こうした根本的な対策を丁寧にしていこうと挑戦しています。

③技術革新
 ホームページ作成ソフトを使わずに、SEO対策を考えて作ろうとすると、さまざまな技術革新が必要です。実際に挑戦してみてよくわかったのですが、CSS、スクリプト、PHP、apacheなど、今までは見たことも聞いたこともないようなテクノロジーを使わなくてはいけなく、避けては通れません。今、そんな技術を使う勉強をしている真っ最中なのです。しかも、独学でやり遂げようとしているのですから大変です。かれこれ数週間、悪戦苦闘しているところですが、あきらめずになんとかものにしようと頑張っています。

 こんな方針で、WEBの改造に取り組んでいます。現在、ようやく基盤固めができたところでしょうか。これから先は長いのですが、何とか頑張って、楽しんでいただけるWEBを作成します。完成予定(目標)は、7月末です。こうご期待!

人と組織を進化させるチェインジエージェントとなる④(最終回)

産労総合研究所「企業と人材」誌に2007年12月号に執筆した記事「人と組織を進化させるチェインジエージェントになる」の原稿を数回にわたってご紹介します。今回は、4回目の最終回です。

<教育担当者として大切にしたい指針>
キャリア支援スタイルの教育を通して、「守り」から「攻め」へ、「保守管理者」から「パフォーマンスコンサルタント」へと自ら変容を遂げ、会社の真の持続的成長に貢献していくためには、数々の困難を乗り越えていく必要がある。
 最後に、私自身が大切にしている、変革を実践していくための指針、ポリシーをご紹介したい。参考にしていただければ幸いである。

1.力まない
人や組織を力づくで変えることはできない。価値ある変革は、常に、変化する主体、内面のコアから起こるのであって、外部からの圧力で起こるわけではない。教育担当者は、あせらず、急がず、可能性を信じて、自ら変わっていこうとする支援をすることが大切である。

2.怯まない
新しい考え方、哲学を提案していくことは、勇気がいる。なぜなら、そのような提案は、いつも快く受け入れてもらえるとは限らないからだ。しかし、だからと言って、言うべきことを言わないでいることは本意ではない。怯まずに、肩の力を抜いて、真に貢献できる提案を提示していくことが大切である。

3.あきらめない
変容を促すことは、容易ではない。成長への道のりは、苦難の道でもある。その過程では、数々の失敗や痛みはつきものと言えよう。しかし、本当に大切なことは、そう簡単にはあきらめるべきではない。勝利の女神は、数多くの敗北の後にやってくる。粘り強く取り組んでいくことが大切である。

キャリア教育の講演会を担当しました

J女子大で、1年生を対象にキャリア教育の講演会を担当しました。テーマは、「世界の動向と私の生き方」で、大学の4年間を充実して生活するため、また、卒業後の人生を自分らしく幸せに力強く生きていくための指針として、参考になる情報や考え方をお話ししました。1時限目と2時限目の2回にわたって実施したのですが、1時限目は394名、2時限目は414名と、講堂一杯になる大人数だったので、私も、正直どうなる事かと心配をしていたのですが、学生諸君も集中して聞いてくれたので、短い時間でしたが、有意義な良き学びの時間をともに作ることができなのではないかと実感しております。
 話の内容は、今地球で起こっている様々な事柄を、大きな視点から見つめなおしてみて、そんな時代の中で、自分はどう生きるべきかを考えることのできる内容です。

 ・地球の現状は、決して完璧ではなく、多くの深刻な問題が未解決で、解決は先送りされていること。
 ・皆さんが地球に貢献しようと思えば、やれることはたくさんあること。
 ・たとえ小さくとも、一人ひとりのちょっとした行動が、未来を変える一歩につながる大きな影響を及ぼすこと。
 ・皆さんの可能性は、思っているほどちっぽけではなく、とてつもなく大きいということ。
 ・夢は大きく持つべきであること。
 ・夢に向けて、学生時代は、本気で学び、本気で挑戦し、本気で人とかかわることが大切であること。
 ・本気で生きれば、未来は必ず開かれるということ。

こんなメッセージを講演の中で伝えることができました。
J大の学生は、まじめで一生懸命な学生が多く、本当に良い生徒が多い学校です。その良さを大きく伸ばして、彼女たちに本当に充実した青春を学生時代を、本当に幸せな人生を歩んでもらえたらと心から願った次第です。

人と組織を進化させるチェインジエージェントとなる③

 産労総合研究所「企業と人材」誌に2007年12月号に執筆した記事「人と組織を進化させるチェインジエージェントになる」の原稿を数回にわたってご紹介します。今回は、3回目です。

3・教育担当者の留意点-学習性無力感の教え
 新しい時代の教育を考える上で参考になる理論として「学習性無力感」の理論があるので紹介しよう。
学習性無力感とは、米国心理学者であるM.セリグマン(1943~)によって発表された心理理論であり、教育に携わる者にとっては、多くの教訓を示してくれている。

1.心理学を志す
セリグマンは、13歳の時に、父が病気により体が麻痺すると同時に、うつ状態となり、不幸な晩年を送ったことを契機に、父親のような人たちの助けとなりたいと思い、心理学を志すようになり、1964年、ペンシルバニア大学の大学院に進学した。
その頃の、心理学は、”行動主義”と呼ばれる考え方が主流となっていた。
行動主義とは、「おおよそ、生物は、”刺激→反応”のパターンを観察、計測し分析することで、その行動を説明し、コントロールすることが出来る。」と言う考え方に基づいた心理学である。
現代では、生命は、そのような単純なものではなく、”刺激→有機的存在→反応”と言う複雑なプロセスを経て主体的かつ個性的な行動をする存在であると言う考え方が主流であり、行動主義心理学は、心や意識を無視し、主体性をないがしろにしているとの理由で批判されることが多いのだが、当時は、一種の暗黙の規範のように、「”行動主義的”な考え方でなければ心理学ではない。」と言えるほどの強い権威を持った考え方だったのである。

2.きっかけとなった心理実験
セリグマンが、進学時に大学院で行われていた実験も、まさにこのような”行動主義心理学”に基づいた実験だった。
実験は、「パブロフの犬」に代表される条件付けの実験であり、犬に”刺激→反応”のパターンを学習させることを目的とした実験だったのである。
実験は、3段階で構成されており、まず、第一段階として、”高い音”をならした直後に電気ショックを与えることを繰り返し、犬が、高い音と不快なショックを結びつけるようにして、後で、犬が音を聞いただけでショックを受けたときと同じように恐れて反応することを学習させると言った条件付けを行なう。
第二段階として、犬は、シャトルボックスに入れられる。シャトルボックスは、2区画に仕切られ、間に低い仕切り板があり、犬が望めば、飛び越えることが出来る高さとなっている。
実験は、シャトルボックスの片側にいる犬に、電気ショックを与えるが、仕切り板を飛び越えて、隣室に入るとショックが止まることを繰り返し、「電気ショックが起これば、仕切り板を飛び越え、隣室に入ると、ショックを止めることが出来る」ことを学ばせることだ。
そして第三段階は、電気ショックを与えずに、高い音がなれば、音だけで仕切りを飛び越えることができるかどうかを試みることが実験企画の全体の内容だった。
セリグマンが、大学院に進学したそのときに、ちょうどこの実験が行われていたのだが、実は、実験はもくろみの通りに進んでおらず、諸先輩が、困惑しているところだった。
第二段階において、犬は、電気ショックを与えても、ただ鼻を鳴らしているだけで、ショックから逃げるために、シャトルを仕切る板を飛び越えようとせずに、ただ座り込んでいたのだった。
その時、セリグマンは、犬の様子を見て、「父のうつ状態」と似ていると直観した。
セリグマンは、この実験の犬は、どんなに逃げても、この電気ショックからは逃れられないことを理解し、無力感にさいなまれ、うつ状態になったのではないかと考えたのだ。

3.学習性無力感
セリグマンのこの直観は、行動主義心理学に教化されていた諸先輩からは、「勘違いだ」「動物が、そんなに高度な精神活動はしていない」と否定されたが、セリグマンは、めげずに、実験を繰り返し、ついに「動物であっても、自分でコントロールできない避けがたい出来事を多く体験すると、無力感を学習し、無抵抗なうつ状態になる」ことを論文で発表することになった。
この論文は、支配的だった行動主義の考え方に強烈な一撃を加えることになり、当時の心理学会に大反響を与えることになったのである。
犬が体験したうつ状態は、後に「学習性無力感」と呼ばれ、このセリグマンの考えは、広く一般に認知される心理学の理論となった。

4.学習性無力感の教え
学習性無力感は、ある意味、「”あめとムチ”で他者をコントロールしようとする試みは、決して教育にはつながらず、結局他者をうつ状態にしてしまうことにつながってしまう」ことを証明する理論でもあると言えよう。
学習によってうつ状態になるとは、なんと皮肉なことだろう。
人は、自分らしく輝いているときには、想像もつかないような大きな仕事をやり遂げる力があるけれども、うつ状態に陥れば、考えられないような失敗や問題行動を起こしてしまう可能性があるのだ。
厳罰によって従業員の行動を教育しようとしたJR西日本の尼崎における大事故は、そのことを象徴しているようにも思える。
我々も、そのつもりはなくとも、生産性やパフォーマンスの向上の名のもとに、知らず知らずのうちに、学習性無力感を引き起こしてはいないだろうか。教育の仕事に携わる我々は、この実験結果と理論を厳粛に受け止めなければならない。真剣に自分自身のあり方、教育スタイルを見直す必要があると私は考えている。

本当のところ、人は、パンのみにて生きているわけではない。人は、やはり、やりがい、愛、情熱、喜び、価値ある人間性や美徳のためにこそ本気になれるのである。そして、人は本気になったら、どんな人でも、想像をはるかに超えたすばらしい仕事をやり遂げることができる。人は、すばらしい力と可能性をその内面にまどろませており、開花できるチャンスを今か今かと待ち構えているのである。

厳罰や脅しによって管理しようとする時代はもはや終わった。ディスクローズの時代、大容量の情報がやり取りされる高度情報化社会においては、操作や隠し事、鞭は通用しない。むしろ、そのような試みは、自らの首を絞めると同時に、すばらしい未来への可能性の芽をつんでしまうのだ。
我々は、なんとしても人や組織の無限の可能性や潜在性に光を当てていく必要がある。そのためにも、本当に人を大切にする教育、人を思いやる教育、人が自分らしく輝いて活躍し、力強いキャリアをはぐくんでいく後押し、支援ができる教育を実現する必要があるのだ。

人と組織を進化させるチェインジエージェントとなる②

産労総合研究所「企業と人材」誌に2007年12月号に執筆した記事「人と組織を進化させるチェインジエージェントになる」の原稿を数回にわたってご紹介します。今回は、2回目です。

2.変容する人事部門と教育担当の役割
 リストラの一巡、行き過ぎた成果主義の悪影響の反省、前述のメンタルヘルスの悪化やモチベーションの低下を踏まえて、人事の役割は、変化を迫られている。
 従来の人事の役割は、「管理」という言葉に象徴されるように、要因の適正化、人事コストの低減、自社のコア能力の設定と指導、従業員管理、風紀・規律・勤怠管理、昇進昇格管理等どちらかといえば組織を”守る”役割が期待されていたが、近年では、「能力とパフォーマンスの最大化」といった”攻め”の視点への変化、単なる「保守管理者」から組織活性化に向けての「リーダー」、個人の能力の最大発揮を促すキャリア形成支援の「プロフェッショナル」、21世紀の最重要企業戦略の一つであるコミュニケーションの活性化を通して組織の潜在能力を開発する「コンサルタント」としての役割を発揮する必要性が叫ばれるようになってきた。

 それに伴って、教育担当者の期待される役割も大きく変わっていくと考えられる。筆者は、時代の大きな傾向として、「モデル学習スタイルの教育」から、「キャリア育成支援スタイルの教育」へと重要性や注力する比重が変わっていくだろうと考えている。
 「モデル学習スタイルの教育」とは、すでにモデル化されている正解や見本を反復練習を通して記憶体得していこうとする教育スタイルである。もっともシンプルなモデル学習は、技能教育や資格取得のための教育であり、高度になると、コンピテンシー教育などが上げられよう。
一方「キャリア育成支援スタイルの教育」とは、個人の能力が最大限発揮できるようになるための支援を目的とする教育であり、個々人の個性に対応する必要があったり能力開発に長期の時間を要することからキャリアサポート型の教育スタイルとなる。
 具体的には、メンタルヘルス教育、キャリアカウンセリング、ヒューマンスキルトレーニング、根本的なモチベーションを高めるための教育(自己信頼の回復、キャリアヴィジョン、自己理解、など)、創造性開発訓練、個人の能力を発揮しやすくするためのチームビルディング、メンター制度、組織開発、などが挙げられよう。

 従来の教育は、モデル学習スタイルに偏りがちになっていたが、今まで見本としていた過去のモデルを忠実に実行していた結果として、現状(の悲劇)があることを忘れてはならない。また、今までの権威、見本、モデルは、現状を維持する力にはなっても、必ずしも新しい未来を開く鍵となるわけではない。「能力とパフォーマンスの最大化」を志す”攻め”の風土を作ることを期待されている教育スタッフにとっては、モデル学習スタイルだけでは、十分とは言えないのだ。

 キャリア育成支援スタイルの教育を実践するためには、発想の転換を必要とする。従来の「わが社の従業員は、仕事を効果的に遂行する上でどこかしら能力に欠けており、自ら学ぶ力も足りない。こちらから危機感をあおって行動を促し、正解を示して、教え込まなければならない。仕事上のパフォーマンスを高めるためには、こちらから間違いを指摘し、正し、管理する必要がある」といった発想ではなく、「わが社の従業員には、よい仕事をやり遂げる十分な能力と可能性がある。現状では完璧とはいえないが、自ら学び成長する力がある。仕事上のパフォーマンスをより高めるためには、本人の主体性を尊重し、本来のすばらしい能力を引き出す支援をすることがもっとも効果的である。」といった考え方に転換する必要がある。なぜならば、人間の本来のすばらしい力や可能性を信じることができなければ、それを引き出そうとする試みを真剣に誠実に貫くことができないからだ。

 さらに、「人は断じて無力ではない、その力と可能性は想像を超えて大きい」と言った信念を強く持つ必要がある。なぜならば、キャリア支援スタイルの教育は、えてして従来の発想の立場から、「必要性はわかっているが、現実離れしている」「うちの社員には無理」「経営陣がそんな教育を受け入れるはずがない」などといった反撃を受けることが多いからである。そのような反論、抵抗に怯まずに、人の可能性を引き出す教育を展開することは、並大抵ではない。揺るがない信念が必要なのだ。

 しかし、時代の流れは、確実に、キャリア支援スタイルの教育を必要としている。またそのような教育を実践している企業こそが、現実に飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を遂げているのである。新しい時代の教育担当者は、このような時代背景の中、怯むことなく信念を持って、粘り強く新しい時代の教育に挑戦していく必要があるといえよう。

人と組織を進化させるチェインジエージェントとなる①

産労総合研究所「企業と人材」誌に2007年12月号に執筆した記事「人と組織を進化させるチェインジエージェントになる」の原稿を数回にわたってご紹介します。文字数を削除する前のオリジナル文章です。

<人と組織を進化させるチェインジエージェントになる①>
筆者は、ヒューマンスキルトレーニングに特化した教育コンサルタント会社を経営している。筆者の展開するプログラムのテーマは、「元気と勇気と信頼の回復」である。人や組織を活性化し、パフォーマンスを高めるための方法は、技能トレーニング、工夫された問題解決の方法、人事考課等の制度的アプローチなど、さまざまな方法やツールがあるけれども、根底にある”自己信頼”や”メンバーとの信頼関係”が欠如した状態では、どんなにすばらしいテクノロジーも本来の機能を発揮しないだろうし、逆に、信頼関係は、確かに難しいが、もし本当に育成することができるのであれば、すべてが変わっていく可能性があると考えている。
 筆者は、「人は確かに完璧ではないかもしれないが、決して無力ではない。その可能性と潜在性は、想像をはるかに超えて大きい」という哲学を持っており、その可能性を開く鍵となるものが教育であるという信念の元で、研修を展開している。
 筆者が置いているそのような基盤、考え方に基づいて、同士である教育スタッフにメッセージを送りたい。

1.メンタルヘルスの立場が必要不可欠な職場の現状
 リストラ、成果主義、など、近年の社会情勢や労働環境の急激な変化を受けて、働く人たちのストレスと心の問題が深刻化している。
 厚生労働省の労働者健康状況調査によると、「仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスがある」労働者の割合は、近年徐々に増加し、2002年では61.5%に達した。
 社会経済生産性本部が2006年に実施した「メンタルヘルスの取り組み」に関するアンケート調査によると、6割以上の企業でこの3年間に「心の病」が増加傾向にあると回答しており、心の病のため1ヶ月以上休業している従業員のいる企業の割合は、74.8%と、過去2回の調査結果である2002年の58.5%、2004年の66.8%を超えて大幅に増加し、とうとう7割台に突入している。
 自殺者数も9年連続で3万人を超えるという異常事態となっており、日本は、いまやメンタル不全社会へと突入しているといえよう。

 こうした心の健康問題の多発を背景に、日本の勤労者のモチベーションも極度に低下している。米国調査会社ギャラップによる「職場への帰属意識や仕事への熱意」に関する意識調査(2005年3月)によると、日本人の仕事に対する忠誠心や熱意は、「非常にある」9%、「あまりない」67%、「まったくない」24%となった。14カ国の同様な調査との比較によると、「非常にある」の9%は、シンガポールに並んで最低であり、最も高い米国(29%)の3分の1以下だったことが分かった。
 
 さらに、このような背景のもとで、日本のパフォーマンスレベルも低下しており、財団法人 社会経済生産性本部の「労働生産性の国際比較(2006年版)」によると、日本の労働生産性(2004年)は59,651ドル(798万円)で、OECD加盟の30カ国の中で第19位であり、主要先進7カ国間では最下位となった。

 以上のデータから判断すると、日本の職場の現状は、贔屓目にもうまく行っているとは言い難い状況であり、輝きと創造性に満ちているというよりはむしろ痛みと苦悩に満ちた状況にあるといえるだろう。実際のところ、われわれが直面し変えていこうとしている現状は、決して甘くはないのだ。

ダイアローグに至る過程‐新しい時代のマネジメント⑤

第1ステップ 懸念の解消
人と人とが出会うと、必ず懸念(疑惑、不安)が発生しますが、コミュニケーションが徐々に活性化し、お互いの理解を深めることができれば、自然に解消され、信頼へと変容していきます。

第2ステップ フィードバックと自己開示
信頼関係が醸成されてくると、メンバー個々人の内面で感じていることが、次第にオープンとなっていきます。フィードバックは、相手に映った自分の姿を聴くことであり、自己開示は、今ここで体験している気持ちやアイデアをオープンにしていくことです。
フィードバックと自己開示が行われると、個々人のグループへの関わり方は、真剣でより誠実なものに変わり、お互いに向ける関心や、相互理解が桁違いにレベルアップしていきます。メンバーは、チームの一員であることをしっかりと受け止め、たとえ不快な問題があっても、その問題が、自分とは異なる対象と言うよりも、自分もその問題の一部であると感じるようになり、解決に向けて主体的で積極的、責任あるかかわり方をするようになります。

第3ステップ 認知バイアス(偏見)の解除
深く正確なコミュニケーションが行われるにつれて、内面に隠されていたメンバーの本音や真相に光が当たり、メンバーは、より本当のことを理解するようになります。そのようにして明らかになってきたありのままの現実を正確に認識できるようなると、自分の中で信じ込んでいたさまざまなことが、真実ではなく、単なる誤解であったり、思い込みであったり、偏見であることに気づいてくことになります。
また、自分の立場や価値観、信念を防衛する必要がなくなるので、次第にそれらに固執することが孤独と感じるようになり、こだわりを捨てて、謙虚にメンバーに耳を傾け、正味相手の立場に立って、相手の理解をすることができるようになります。

第4ステップ エネルギーの集中
物理学者デビッド・ボームは、自身の「ダイアローグと思考の研究」のなかで、ダイアローグの状態を超伝導に例えました。
超伝導とは、特殊な合金を冷却して行くと、ある低温下の温度で、電子が自由となり、全く抵抗がない状態となり、非常に大きなエネルギーを生み出すことが可能となる現象を言います。
まさに、ダイアローグは、個々人の潜在能力を開放し、チームが一丸となって、大きなエネルギーを発揮している状態といえましょう。ダイアローグにおいて、メンバーは自由でリラックスしており、お互いに人間としての深い関心が向けられており、発言内容はもちろんのこと、発言者の気持や意図、雰囲気にいたるまでありのままに理解することができるので、交流する情報や感情は、質量ともにけた違いにレベルアップします。話し合いのテーマに対しての深い集中がなされており、出てくるアイデアや企画も創造的で質の高いものになるのです。まさに、生産性や創造性の高い、ハイパフォーマンスな輝かしいチームといえましょう。

<体験学習の地平>
ダイアローグは、そのエネルギーと創造性を武器として、組織を活性化し、組織に決定的な競争優位性と成長力をもたらすでしょう。体験学習は、組織をダイアローグ型に変容する可能性を秘めた非常に優れた学習方法です。今後、その役割はますます重要となってくることでしょう。来るべき素晴らしい時代に向けて、人間性を大切に育む精神を脈々と伝えてきた体験学習が、ますます多くの人たちと組織に役立ち、未来を開く手助けとなることを願っております。

ダイアローグとは‐新しい時代のマネジメント④

「ダイアローグ」は、「対話」を意味する言葉ですが、組織論においては、質の高いコミュニケーション、非常に深い相互理解と柔軟で創造性に満ちたチームの関係性を指し示す言葉として使われており、組織の存続と成長をもたらすキーワードとして注目されてきている言葉でもあります。

 ダイアローグが社会心理学的な用語として使われ始めたのは、実存哲学者マーチン・ブーバーによる哲学書「我と汝」からと言われています。
 ブーバーによれば、私達の関係のあり方は、お互いに利用しあう関係の「我ーそれ」の関係と、お互いに心から全人的に関わる「我ー汝」の関係の2種類があり、後者の際に交わされる会話のあり方を「ダイアローグ(対話)」と呼んだのです。関係性が「我ーそれ」であった場合、もたらされる結果は、葛藤や戦いであり、「我ー汝」のダイアローグの関係であった場合には、相互理解と平和、そして本当の意味での成長がもたらされると考えました。

近年『学習する組織(Learning Organization)』と言う理論、考え方が、経営学において注目されています。もともとは、1970年代にハーバード大学の組織心理学者クリス・アージリスによって唱えられていた概念であり、現在では、マサチューセッツ工科大学のピーターセンゲ教授が中心となり、世界的に広く知られるようになってきています。

 この理論によると、組織の競争力を高め、持続的成長をもたらす最も重要なことは、自ら問題を発見し学習し解決をはかる主体的に成長する「学習する組織」の体質を作ることであり、ダイアローグは、そのような組織を作るための重要なツールとなるとされています。

 体験学習は、コミュニケーションスキルの向上、チームビルディングをもたらす非常に優れた教育メソッドであり、組織をダイアローグ型に変容し、組織のもともと持っている素晴らしい力と可能性を引き出す強力な実践ツールです。
 私は、体験学習を通して、組織をダイアローグ型に変容していくことが可能であり、その際には、以下のステップに従って成長を遂げていくと考えています。