第20章 勇者として生きる
前章でご案内した通り、16人の勇者マップは、性格のタイプ診断ではありません。私たちは、人は成長し、変化する存在と考えており、その可能性には限界がないとも考えています。この地図は、そうした成長の旅のガイドマップなのです。
最終章の第2部として、勇者としての生き方をご案内しましょう。
① 個性化という旅
ユングは、人の成長を表す言葉として“個性化(Individuation)”と言う言葉を残しました。
ユングは、人間の心には二つの中心があると考えました。
・自我(Ego)…「私は○○である」と思っている自分。日常生活を営むための意識の中心。
・自己(Self)…人格全体の中心。意識だけでなく無意識も含めた、本来の全体性。
個性化とは、アイデンティティが自我から自己へと変容していくプロセスを言います。
自我が、自分は自分そのものではなく役割としての仮面だったことに気づき、見捨ててしまった自分の痛みと和解し、更なる深みにある分離を統合することを通して、私の中心が、狭いエゴから、意識や無意識を含む全体の中心に移動するのです。
言い換えれば、自我が、自分が世界の主人公だと思う状態から、自己というより大きな存在に導かれるようになる過程を言います。
私たちは「個性化」という言葉を聞くと、「もっと自分らしくなろう」「他人とは違う個性を伸ばそう」という意味に受け取りがちです。
しかし、ユングが用いた Individuation の語源は、決して分離や差別化を意味するものではありません。
・in-(~ではない)
・dividuus(分割できる)
つまり、「分割できないもの」「不可分なもの」という意味になります。
現代では individual は、「個人」「一人ひとり」という意味で使われますが、ユングは語源に近い意味で使っています。
つまり、
・バラバラだった心が一つになっていくこと。
・人格が統合され、分裂していた自分が「分けられない一つの全体」になっていく過程。
それを Individuation と呼んだのです。
これは、他者との差別化ではありません。
自分自身の中で分裂していたものを統合し、一つの全体として生きることなのです。
16人の勇者マップも、ユングの考え方と響き合っています。
ユングは、人間の成熟を「個性化(Individuation)」と呼びました。
それは、自我(エゴ)が人生の主人公であるという錯覚を離れ、自己(Self)という、より大きな人格の中心へ導かれていく旅です。
その過程では、まず自分の影(シャドウ)と向き合い、さらに自分の中にある対極的な性質を統合していくことが求められます。ユングはそれを、アニマ・アニムスという象徴で表現しました
16人の勇者マップでは、この「対極を統合する旅」を、一つの地図として描いています。
・縦軸は、不確実な世界に秩序を築き、責任を果たし、社会を創造していく力。
・横軸は、自分や他者を受け入れ、信頼と愛によって関係性を成熟させていく力。
人はどちらか一方だけでは成熟できません。
世界を変える力だけでも、人を愛する力だけでも、人は完成しないのです。
二つの力が互いに磨かれ、統合されていくとき、人は勇者となり、さらに賢者への道を歩み始めます。
また、16人の勇者マップでは、人にはままならないものが2つあると考えています。
一つは、外側の世界であり、もう一つは内面の世界です。
人は、不確実で危険に満ちた外側と内側の世界に挟まれて、右往左往しながら自分を守り、適応して、未来を拓いていきます。
その過程で、人は、戦士、武将、達人、勇者など、さまざまな勇者の在り方に変容していくことになります。
その際、自然児も、放浪者も、暴君、求道者も、成長とともに消えてなくなるわけではありません。
それぞれが自分の中に居場所を持ち、互いに争うのではなく、一つの人格の中で調和して働くようになるのです。
次第に、狭く防衛的だった自我が、内にも外にも関心を持ち、理解を深め、自分として受け入れて、自我の殻を破り、新しい可能性に目覚めていくことになります。
人は、小さな自分を守るために、他を警戒し、戦い、出し抜いて強くなるために生まれてきたのではありません。
自分の中で分かれていたものを一つにし、「分けることのできない一人の人間」として生きるために、この旅を続けているのです。
② 勇者とは何か
勇者とは、敵を倒す人ではありません。
単なる成功者でもありません。
勇者とは、自分の恐れと向き合い、恐怖に支配されていた人生の玉座を取り戻す人です。
勇者とは、小さな自我を完璧にする人ではありません。
力を得ること、財を得ること、権力を得ること、…。
それらは人生に必要なこともあります。
しかし、それだけでは人は自由になれません。
勇者とは、私が私だと思い込んでいる小さな自我が私のすべてではないと気づき、より大きな自分の様々な可能性と向き合い、私そのものを探求して、本来の自分を生き始める人です。
勇者とは、小さな自我だけではなく、自分の内に静かに語り続けていた本来の自分の声にも耳を傾け、その導きに従って生き始める人です。
勇者とは、「これが私のすべてだ」と思い込んでいた小さな自我を超え、本来の自分として、小さな自我をはじめとする心の王国を調和へと導く人なのです。
その人の心の王国では、自然児も、戦士も、暴君も、反逆者も、求道者も、それぞれが争うことなく、本来の役割を果たしています。
かつて世界を支配しようとした「傲慢な力(覇王の影)」も、不確実性を恐れて人を縛ろうとした「固直した正しさ(求道者の影)」も、すべては恐れから生じた幼いエゴの防御だったと知っているからです。
外側の世界を力でねじ伏せるのでも、正義で裁くのでもなく、その陰にあった「恐怖」に寄り添い、内なる王国全体を調和へと導く。そこから、真の王(Self)としての歩みが始まるのです。
勇者は、「分ける」ことにも、「結ぶ」ことにも自由です。
必要なときには、境界を引き、秩序を築き、世界に責任を果たします。
また必要なときには、その境界を越え、人とつながり、愛し、共に生きます。
どちらか一方に執着するのではなく、その両方を状況に応じて用いる自由を取り戻した人――それが勇者なのです。
『16人の勇者』は、「善人になる」ことを目指していません。
「全体の人間になる」ことがテーマなのです。
善を伸ばすことでも、悪を消し去ることでもありません。
善悪を区別すること自体は必要です。しかし、その区別だけで世界のすべてを二元的に裁こうとするあり方は、決して成熟した在り方ではありません。
善にも悪にも、狭い了見では計り知れない役割があります。太陽は、善人にも悪人にも、等しく光を注ぐからです。
善も悪も、内も外も、上も下も、聖も俗も。
自然児も、戦士も、暴君も、求道者も、覇王も、反逆者も――。
そのすべての分離を癒し、和解し、自分という全体の中で居場所を与え、調和させ、本来の役割を取り戻していくこと。
それが、ここでいう「勇者」の道なのです。
ですから、16人の勇者とは、16種類の個別の生き方ではありません。
私たち一人ひとりの中に生きる16の可能性なのです。
③ 同じ勇者でも同じじゃない
16人の勇者マップでは、全ての成長ルートの通過点として、“⑬勇者”が存在すると考えています。
構造化と秩序の縦軸を経てきた勇者と、愛と信頼の回復の横軸を経てきた勇者、さらに、力と愛を統合しながらまっすぐに斜めの道を進んできた勇者とでは、同じ勇者でも、全く性格が異なる勇者となります。
人には、16の勇者の全ての可能性がまどろんでいます。今、⑬勇者 であったとしても、勇者だけが存在してるのではなく、16の可能性が共存しており、その中で最も強い要素が ⑬勇者 なのだと考えるのです。
ですから、各ルートをたどってきた⑬勇者は、内面に擁する勇者の要素は、ずいぶん変わってくるでしょう。同じ勇者でも、ユニークであり、唯一無二であり個性的なのです。
これは、⑬勇者 に限らず、全ての勇者に当てはまります。
同じ名称の勇者でも、たどってきた人生は異なり、千差万別、百科百様、人の数だけ美しい在りようが存在しています。
④ 勇者は完成しない
16人の勇者マップでは、成長の究極の姿は ⑯賢者 ですが、賢者で成長が終わったとは考えていません。
賢者は、人としての成長の極みですが、完璧な訳ではありません。そこには光も影もあり、課題もあります。学びの旅には、終わりは存在しないのです。
賢者は、自分の中のペルソナを卒業し、影を受け入れて癒し、更に深い分断を統合することによって、平和を実現します。それは、愛であり、調和であり、自然です。
矛盾や分離の無い分かりやすいシンプルな在り方であり、本来のエネルギーと叡智が脈動する大歓喜でもあります。
賢者は、そうしたみずみずしく生き生きとしたエネルギーに満ちて若返り、再び新たな次元の自然児となって、新たな成長の旅に出かけることになります。
勇者は、完成しません。常に発展途上であり、プロセスにあります。その意味で、どの勇者にも学ぶべき先輩がおり、指導すべき後輩がいます。あらゆる勇者は、成長に向かうプロセスの中にあり、その意味で、あらゆる勇者は平等なのです。
だからこそ、今の在り方を恥じたり、逆に自慢したりすべきではありません。いつでも、いまここは、かつての私の結果です。だから、いつでもどこでも、いまここから始めなければなりません。
だから、今ここを受け入れて、今ここを愛する。今ここに誇りを持ち、今ここを十分に楽しむ。成長は、そこから始まります。
抱えきれない矛盾や準備不足や不確実性を恐れる必要はありません。
不完全なあなたのままで、どうぞ、自分だけの勇者の旅を進めてください。
あなたの内なる16人の勇者が、いつでもどこでもあなたと共に歩んでいるのですから。
最後に
人は誰もが、人生という旅の途中にいます。
ときには自然児となり、ときには暴君となり、ときには放浪者となり、ときには勇者となります。そのどれもが、あなたです。
だから、自分を責めないでください。
また、人を裁かないでください。
人は皆、それぞれの旅を歩いています。
誰もが、今日という一日を精いっぱい生きています。
もし、この『16人の勇者』という地図が、あなたが自分自身を許し、もう少し深く理解し、誰かを少し優しく理解し、明日への一歩を踏み出す小さな勇気となれたなら、作者として、これほど嬉しいことはありません。
勇者の旅に、終わりはありません。
成長に、終着点はありません。
人は、生涯を通して学び、生涯を通して愛し、強くなり、生涯を通して成長し続ける存在です。
ユングは、その終わることのない成熟の旅を「個性化」と呼びました。
私は、その旅を歩み続ける人を、「勇者」と呼びたいと思います。
多くの勇者たちへ、地球は、決して天使に囲まれている天国ではありません。
だからと言ってくじけてはいけません。
あなたには、困難を乗り越えるに十分な力があります。
あなたは、あなたが思っているほどちっぽけな弱い存在ではありません。
あなたは、今は気づけていない偉大なる可能性をまどろませている勇者なのです。
さあ、元気を出して立ち上がり、背筋を伸ばして一歩踏み出しましょう。
震える足でも大丈夫、勇気ある一歩は、あなたの勇者性を目覚めさせるカギとなります。
冒険の旅は、まだまだこれからです。
世界は、あなたの船出を待っています。
なぜなら、あなたは、主人公の勇者なのですから。
【16人の勇者シリーズ】
第1章 16人の勇者へようこそ ―二つの軸と一枚の地図
第2章 ①自然児・隠遁者 A.自然児
第3章 ①自然児・隠遁者 B.隠遁者
第4章 ②放浪者
第5章 ③一匹狼
第6章 ④職人
第7章 ⑤暴君
第8章 ⑥戦士
第9章 ⑦求道者
第10章 ⑧達人
第11章 ⑨武将
第12章 ➉覇王
第13章 ⑪魔法使い
第14章 ⑫反逆者
第15章 ⑬勇者
第16章 ⑭仙人
第17章 ⑮国王
第18章 ⑯賢者
第19章 勇者としての成長
第20章 勇者として生きる