元気と勇気と信頼の回復のために

16人の勇者 5.③一匹狼

第5章 ③一匹狼…誰にも支配されず、誰も信じず、自分の力だけで生きようとする者

一匹狼は、自立した人です。
少なくとも本人はそう思っています。

誰かに頼らない。
誰かに期待しない。
誰かに振り回されない。

自分のことは自分で決める。
自分の身は自分で守る。

それが一匹狼の誇りです。

しかし、その誇りの奥には、深い傷が隠されていることがあります。
信じたのに裏切られた。
期待したのに失望した。
助けを求めたのに届かなかった。

だから一匹狼は決意します。
「もう頼らない」
「もう期待しない」
「もう傷つかない」

そして心を閉ざし、防衛のための力を求め始めます。

お金。知識。能力。権力。権威。法律。ルール。
それらは人間の気まぐれよりも信頼できるように見えます。

人を信じる代わりに契約を信じる。
共感を求める代わりにルールを求める。

そうして一匹狼は、自分だけの城を築いていきます。

⑴光の側面
一匹狼には強さがあります。
自分の責任を他人に押し付けません。

困難が起きても、誰かが助けてくれることを期待せず、自分で考え、自分で決断し、自分で結果を引き受けます。

また、一匹狼は群集心理にも流されにくい特徴があります。
みんながそう言っているから。
みんながやっているから。
そうした理由だけでは動きません。
自分の頭で考え、自分で判断しようとします。

自分の生き残りと居場所をかけて、力、社会構造、儲かる方法、法律、ルールを学び、自らを守る術を身につけていきます。

周囲に流されない生き方をするので、既存の常識や権威に対しても疑問を持つことができます。
孤独に耐える力。
依存しない力。
自分の足で立つ力。
その力強さとたくましさは、一匹狼の美徳です。

⑵影の側面
しかし、その賢さは、時としてずる賢さに変わり、強さは時として、不遜、無礼に変わります。
例え常識と呼ばれることだって、ルールで決められていないのだから守らなくていい。
公序良俗、思いやり、年配者や地位への畏敬、などなど、自分で納得していないマナーを押し付けられるのはまっぴらごめん、と言うより、感情の世界から撤退して、構造の世界へ避難しているので、できません。厄介に思える人間関係ではなく、操作可能な力を選んだのです。
法律やルールさえ守れていれば、それ以上の人間性に関わる要求や圧力は拒否するので、本人には悪意はなくとも、他者からは不遜や無礼に見えます。

また、その強さは、時として冷酷さへ変わります。
人を信じない。
だから人の善意も信じない。
人の感情を軽視し、共感を弱さとみなし、効率や合理性だけで判断し始めます。

一匹狼は、自分が傷つかないために心を閉ざします。
しかし、心を閉ざせば、相手の痛みも感じられなくなります。
そうした感受性の鈍化に伴って、本人には悪意がなくとも、他者からは、冷酷で非情、攻撃的に感じられます。

さらに、自己防衛の欲求が嵩じて、被害者意識、憎しみ、復讐心、攻撃性、自己正当化の罠にはまってしまうと、正義の名のもとに暴力をふるう残虐な悪鬼へと闇落ちする危険性もあります。

理解されなかった。認められなかった。傷つけられた。
その怒りや恨みを抱えたまま力だけを追い求めると、復讐心や自己正当化が強くなります。

ルールを守るのではなく、ルールを利用する。
正しさを求めるのではなく、勝つことを求める。
法律違反でなければ何をしてもよい。
そんな発想に近づいていきます。

この状態の一匹狼が闇に飲まれると、勇者の道を踏み外し、悪鬼への堕落の道が始まるのです。

悪鬼は力を持っています。しかし愛を失っています。
頭脳はあっても共感がなく、能力はあっても慈悲がありません。
だから一匹狼にとって最大の敵は、他人ではなく、自分自身の中にある冷酷さなのです。

⑶恐れるもの
一匹狼が本当に恐れているものは、失敗ではありません。
裏切られること、利用されること、弱さを見せること、出し抜かれること、そして助けを求めても拒絶されることです。

だから人との深い関係を避けます。
本音を隠し、感情を隠し、そして孤独を選びます。
しかし皮肉なことに、孤独は一匹狼を守ると同時に、さらに孤独にしてしまうのです。

⑷課題
一匹狼の課題は、もっと強くなることではありません。
もっと人を支配することでもありません。
信頼を学ぶことです。

人を信じること。自分を信じること。
そして、世界には悪意だけでなく善意も存在することを知ることです。

誰にも頼らず生きることはできます。
しかし、誰ともつながらずに生きることはできません。
真の強さとは、傷つかないことではありません。
傷つく可能性を知りながら、それでも心を開く勇気です。

一匹狼は、力によって成長する存在ではありません。
信頼によって成長する存在なのです。

⑸成長の方向性
一匹狼の前には主に二つの道があります。

一つは、経済力や地位、ノウハウなどの更なる力を獲得し、暴君へと進む道。
もう一つは、孤独の中で鍛えた力を、誰かを守るために使う戦士への道です。

どちらも力を持っています。
しかし違うのは、その力を何のために使うかです。

自分を守るための力なのか。
愛する誰かを守るための力なのか。
その選択が、一匹狼の未来を決定します。