元気と勇気と信頼の回復のために

16人の勇者 4.②放浪者

第4章 ②放浪者

自然児・隠遁者は、内面に自己中心的で周囲への配慮が欠けたわがままなあり方がある限り、周囲からの指摘や注意、叱責を受けることになります。周囲から拒絶され、距離を置かれるような、さまざまな出来事に傷つきますが、それらの出来事は、未熟な今の在り方を指摘し、より高い成長を促すメッセージでもあり、そのピンチをチャンスとしてとらえ、自らの成長に向けての努力をする必要があります。しかし、多くの場合、今まで慣れ親しんでいたあり方、考え方、習慣、態度を変えたくない気持ちが強く、現状を維持することに固執して、新しいチャレンジをすることを拒否します。
しかしながら、未熟な現在のありようを続ける限り、痛みを伴う体験=変容を促すメッセージはとめどもなく起こり続けることになり、自然児、隠遁者は、そうした痛みから逃れるためのあらゆる方法を探ります。
かくして、自然児、隠遁者は、放浪者へと変容を遂げることになります。
放浪者は、閉じた世界から外に踏み出した人です。それだけで、すでに一つの勇気がある。しかし放浪者の本当の旅は、まだ始まっていません。

⑴光の側面
放浪者は、恐怖や苦悩から逃れるためのありとあらゆる方法を探していきます。助けてくれる人、機関、知識、科学、宗教、気晴らし、束の間の楽しみ、趣味、悩みを共有して相談できる友人、などなど、痛みや苦しみ、内面の傷の疼きから逃れるためのさまざまな方法を研究しながら見聞を広げ、まともにぶつかりあわずに上手にかわす方法、たとえ投げ飛ばされても上手に受け身をとって怪我をしない方法、ディフェンスの技術を身に着け、次第にたくましくなります。友人と友情をはぐくむ方法や、時には逃げることも大切だということ、困難の中でもリラックスをして楽しめる自分なりの方法などを学びます。
放浪者は、さまよい逃げまどいながらも、明るさを忘れず、束の間ではありながらも楽しさや喜びを求めます。仲間ともに語り合い、気晴らしのゲームを楽しみ、ちょっとした冒険を繰り広げながら、次第に子供っぽさから卒業し大人の流儀を身にまとうようになります。放浪者は、痛みを体験しているがゆえに、人の痛みが分かるやさしさを持っています。自分が傷ついた経験があるからこそ、苦しんでいる人を放っておけません。周囲の人たちにとって、放浪者は、痛みを分かち合える気のいいやつであり、助け合える良き友です。苦しみの中にあっても明るさを忘れず、楽しく明るさをもたらし、場を盛り上げてくれる仲間なのです。

⑵影の側面
放浪者が求めることは、困難から逃れること、今の自分の在り方や日常の習慣を維持して変えないこと、執着している何かを失わないことです。不満や問題があることは知っていても、放浪者にとって日常は、これ以上の危険性のないそれなりに安心できる場所であり、居心地の良い領域なのです。また、自分に降りかかった課題に取り組むためには、全く新しい希望と危険が待ち受けている未知の世界に踏み出さなければならないことを知っており、自分がそこでやっていける自信がなく、怖気づいているのです。
しかし、この世に変わらないものなど存在しません。今の自分の在り方も日常の習慣や生活も、時間の流れとともに変わっていくものであり、成長を促すメッセージは、良いこと悪いことの両面からさまざまな形で次々に訪れて来ます。
放浪者は、それらのメッセージを無視して、成長を拒絶しているわけではありません。
むしろ成長したいのです。
だから本を読む。話を聞く。旅に出る。人と出会う。技術を学ぶ。
しかし、そのどれもが「出発の準備」のまま終わってしまいます。
まだ早い。まだ自信がない。まだ足りない。助けてくれる人や制度がない。
そう言いながら、いつまでも出発できないのです。
放浪者は、この変化への呼びかけを上手にかわしながら、準備が足りないと言って出発を先延ばしにします。
しかし、どれだけ準備を重ねても、不確実性が消える日は来ません。
未知の世界へ踏み出す勇気は、準備の量ではなく、一歩を踏み出すことでしか育たないのです。

⑶恐れるもの
放浪者は、狭く小さな世界の中の限定された安定の中から出ようとしません。自分の中に課題があることを知っていながら、その問題を先送りしてばかりで直面しようとしません。問題を乗り越えるための努力をする代わりにそのような野暮な努力を冷笑しがちです。真実に向き合う代わりに嘘をついて誤魔化す時もあります。苦しみに直面する代わりに気を紛らわせるための束の間の楽しさに依存しやすい弱さもあります。友情を大切にする一方で気に入らない人や嫉妬を覚える人には関係改善の努力をせずに冷淡に突き放します。間違いを正そうとする代わりに仲間外れになることを恐れて悪行につきあいます。仲間受けを良くするために蛮勇をみせて虚勢をはることはありますが、基本的には失敗を怖がって挑戦をしようとしません。放浪者は、放浪を通してさまざまな知識や技術を磨き、多くのことができるようになりますが、それは、あくまでも限定的なもの、先が見通せて確実に解決ができることが保証されている問題への対処法であり、広い世界の中の不確実な事柄には対処できません。放浪者は、本質的により大きな可能性を持った存在なのであって、そのような狭く限定された力にとどまり続けることはできません。どんなにごまかしても、成長への課題や高い壁は消えることはありません。どんなに打ち消しても、自分の内面で芽生えた理想や夢は打ち消すことはできません。長い目で見た場合には、いつかは心地よい日常、自分にとっての楽園を後にして冒険に出る必要があるのです。

⑷課題
放浪者にとっての課題は、自分自身の可能性を信じること、執着を手放すこと、夢を持つこと、そして、ちょっとした挑戦をすることと言えます。ただし、大それた挑戦やリスクテイキングは必要ありません。ちょっとした勇気が大切なのです。行ったことのない所に行ってみる、食べたことのない食べ物を食べてみる、着たことのない色の服を着てみる、難しそうな本を読んでみる、正直になってあやまってみる、自分の弱みを言ってみる、相手に愛を伝えてみる、などなど、大きなことをすることに意味があるのではなく、ちょっと勇気が必要なことを丁寧に挑戦し、じっくりと味わってみる、そんな身の丈に合った挑戦が意義ある成長に結びつくことになります。