経営の神様の金言①(松下幸之助さん)

今日12月31日は、コロナウィルスの感染で世界中が大混乱に陥った2020年の最後の日です。来年はどんな一年になるのでしょうか? 日本でもワクチンの接種が始まり、抗体を持つ人が増え始めると感染者数も徐々に減少していき収束に向かっていく。そんな目途が1年以内に立つことを祈るばかりです。

感染収束のために、一人一人が感染を広げないように努力する必要はありますが、多分に不可抗力の面が大きいので、じっと、その時が来るのを待つしかない、という覚悟が必要かもしれません。ポイントは、どのような心持ちで「待つ」のかということだと思います。

年末年始の今こそ、来年はどんな過ごし方をするか、一人一人の知恵が試されるときです。

私にとって2020年は、このブログでこれまでの仕事経験を書き出したり、30年近く音信不通だった友人と再会したりした、「振り返る年」でしたので、来年は、「未経験のことに挑戦する年」にしたいと考えています。

そこで、「挑戦」を向ける先として考えているのが、次の2つのテーマです。

一つ目は、組織の視点から、私が考えた、「創発を生じ、イノベーションを産む条件」を企業に提案して組織に実装すること。

二つ目は、働く人一人一人の視点から、私が考えた、「3つの人生の座標軸」 ①良い人間関係 ②人生の目的 ③好きな仕事 を備えて、イキイキとして輝いている人が、企業に蓄えられるように支援することです。

いずれも、ブログに書いた、これまでの人事の仕事を通じて見聞きした、経営者や従業員のリアルな姿を通じて気づいたことがベースになっていて、私がライフワークとして取り組みたいテーマです。

私が2つのテーマに取り組むにあたり自身に課すことは、「多くの人との出会いの場をつくる」ことです。そして、自分のこと(やりたいこと、出来ること)を分かりやすく伝えて関心をもって頂く。そして、先入観なく、お話しを聞かせて頂いて、自分が出来ることを提案、提供し、喜んで頂いてお一人お一人と信頼関係を築く。そういう好循環を起こしていきたいと思っています。

初対面の人に関心をもって頂くためには、私がお伝えする言葉に誤りがあってはいけません。そこで、「創発が生じ、イノベーションが産まれる条件」について、以下3つの条件の妥当性を検証してみたいと思います。

条件①:トップがメンバーに自分の考えを押し付けない

*前回までのブログでは、「トップがメンバーに答えを求め過ぎない」と書きましたが、トップが、自分が持っている考え(答え)に固執して、これをメンバーに押しつけると、創発が生じにくくなるという方が適切と考え訂正しました。

条件②:トップとメンバーが同じ絵を見ている

条件③:トップとメンバー間で経営上の重要情報が共有されている

これらを念頭に置いて、成功した経営者が語った言葉を確認していきます。まずは、「経営の神様」、松下幸之助さんの言葉です。

「今はインターネットとデジタルの時代。AIが人間にとって代わろうとしている、そんなときに大昔の人の言葉を引き合いに出しても、あまり意味がないのでは?」と反論される方がいるかもしれません。

私も少し自信がなかったのですが、あまりにも有名すぎる松下さんの言葉と逸話を読み返したところ、いまでも色あせていない金言にあふれていました。

これまで数えきれないくらいの多くのリーダーたちが、その拠り所としてきた松下さんの言葉が果たして、私の掲げた「イノベーションの3つの条件」と符合するでしょうか。

参考にしたのは、東洋経済のインタビュー「松下幸之助縦横談(1953年8月15日2588号)です。

まず、【条件①:トップがメンバーに自分の考えを押し付けない】に関連することを述べておられますので抜粋します。

「皆が僕にワンマンというが、なるほどワンマンのような形であるけれども、僕自身ワンマンではない。僕の知慧というものは全社員の知慧の一端をもらい、そこでカクテルにして要するに返還しておるのです。僕は権力的なワンマンではない。皆の代弁者になっておるだけで、要するにアメリカの大統領のようなもので、社員の意志を意志としてやっておるわけですな。」

「この頃は非常に高度な技術が必要でしょうだから実際のところ、わからんことに頭を使わないようにしております。それより皆の働いておる姿を、枯らさないようにせねばいかん、これを伸ばすようにすることが、自分の仕事でもあり、立場でもあると思っているのです。だから僕は技術者に対して、もっといいものにしてくれんかというと、ではどうしたらいいですかという。そんなことはわからん。君が考えよ、と僕はいいます一分でしまいですわ。」

松下さんは、結果に対して絶対に妥協しない非常に厳しい方だったそうですが、これらのコメントを読むと、一方的なトップダウンで押さえつけるのではなく、社員の意志とアイデアを経営に生かすことに苦心されていたことを垣間見ることが出来ます。

また、社員の力を生かしたのは、ご自身が病弱であったこと、また、学歴がなかったからそうせざるを得なかったという次のコメントも興味深いです。

「その当時、相変わらず肺が一向によくならない。(中略)それですから勢い人に仕事をしてもらう。これが却って伸びた所以だと私は思っています。余り自分が偉いのはいけません。余り偉い人の下では人間は育たない。一概にはいえませんが、総じてそうです。私はそんなに学校に行っていないので、今も手紙一本自分で満足に書けません。だから人に頼む。そうすると思いは千里を走るというふうにもいくのです。要するに私が体が弱かったこと、学問がなかったことが却って私に幸いしております。」

ここでおっしゃっている「偉い」というのは、「威張っている」という意味ではなく、「優秀過ぎる人」、というのが本意だったのではないでしょうか。そういう人の下では社員はいつまでたっても主役になれない。だから育たないということをおっしゃりたかったのではないかと想像します。

続いて、【条件②:トップとメンバーが同じ絵を見ている】に関連してつぎのような発言をされています。有名な「水道哲学」の解説とその扱いについてです。

「それは昭和七年五月五日です。その時は職工さん以外の所員―社員でなく所員といっておりました。製作所ですから、百数十名を電気倶楽部に集めて、松下電器の使命というものを宣言したわけです。今までわれわれは無自覚に、社会通念に基づいて勉強してきたけれども、今日只今からそれだけじゃなく、そのほかにわれわれは目醒めたところの一つの使命にたたなければならない、というて水道の水の話をしたんです。水道の水は、つまり加工したもので必ず値段がついている。が、道端の水道をひねって渇を癒やす。これは盗むわけです。けれども水を返せと言っても誰も咎めない。それは水があまりにも安いからです。安いのは量が多いからです。ところが電気器具にしてもその他のものにしても、実際の効果からいえば水よりも力のないものです。それが値が高くて、盗んだら咎められるということは、量が少ないからです。だから水のようにすべての物資を作り出すということが必要である。そうすると貧からの悩みがなくなってくる。四百四病の病より貧ほどつらいものはないといわれているが、その貧困をなくすることがわれわれの使命や。われわれの仕事というものは物資を無尽蔵に作って貧をなくするということです。ところが物だけではいかん、人間の心の問題もある。それは宗教家におまかせするとして物の方なら自分の力によって多少づつでもできるわけです。そうすると宗教と同じで尊い仕事や、心の渇を癒すか、物の渇を癒すか、いずれにしても尊い仕事や。われわれはこういう尊い使命に生きようじゃないか、というふうに指導精神を確立したわけなんです。」

昭和七年で、既に、社員と社会から共感を得られる事業の目的を定めて「指導精神を確立した」というのは、日本におけるビジョン経営の先駆けだったのでしょう。松下さんが、もし今の時代に生きていたら、いったいどんなビジョンを掲げるでしょうか。きっと、世界の潮流において日本が果たすべき役割を分かりやすく言葉にして、みんなにいいねと言われる絵を見せてくれたに違いありません。

最後に、【条件③:トップとメンバー間で経営上の重要情報が共有されている】について、松下さんはどう言っていたでしょうか。

「二百人なり二百五十人の規模になった時、はじめて事業家としての使命がなにかあるんじゃないか、それはどこにあるのかということを考えた。それはどんな考えかというと、当時個人経営でしたが、この仕事は個人のものと違うと思った。世間から委託されているものであって、だからその委託者に対して忠実に仕事をすることが、事業家としての使命である。こういうことを考えた。だから私事を許さない。それ以来は個人経営だけれど個人の金と店の金を区別した。そしてずっと毎月決算して、当時幹部もできていたので、その幹部にも見せ、今月は諸君の努力によってこんなに儲けたと、毎月利益を発表しました。」

ここでは、松下電器が、個人商店からパブリックカンパニーへと脱皮する姿が語られています。それは、事業家として果たすべき使命だと。そして、まずは公私を区別する。そして、公の部分に関する情報は社員と共有して目標達成に向けて一体感を醸成したのだと思います。経営上の重要情報の共有は、個人商店とパブリックカンパニーとを分ける一つの重要な指標になりそうです。

これらは偶然なのか、必然なのかは分かりませんが、「経営の神様」が、私が考えたイノベーションの条件について、ずっと昔に言及されていたことを知り、とても勇気づけられました。

次回はもう一人の「神様」、昭和の名経営者、本田技研工業の創業者「本田宗一郎さん」の言葉を確認してみたいと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)