人事のミッションはイノベーションを起こすこと

7月15日にブログを書き始めて約半年が経過しました。この間、韓国留学の思い出も含めて33回、投稿しました。私の仕事人生を振り返り、その時々で目にしたこと、聞いたこと、そして私がどんな行動をしたのかを一つ一つ思い出し、書き出したことに充実感を覚えました。

ある方から、

「記憶の断片を書き出すと頭の中に空間が出来て創造的な活動に取り組めるようになるよ。」

と教えていただいたことがあるのですが、私も今、そのような感覚を味わっています。そこで、おおよそ記憶の棚卸が終わった現時点から、次はどのような方向に創造的な思考を傾けてブログを書き続けるかを、ブログを勧めてくださったヴィーナスアソシエイションの手塚さんに相談したところ、次のアドバイスをいただきました。

「人事の仕事とは何か。会社、職場でイノベーションが起きるようにすること。偶然ではなく、必然的に起きるようにすることだ。」

手塚さんは続けて、

「企業には永続性が求められる。先が見通せない時代になってもその命題は変わらない。そして、永続を保証するものは、過去の延長線上にはない新しい価値の創造、つまりイノベーションを繰り返して起こすこと。イノベーションは、個人では生み出せない。たいていはメンバーの相互作用によって生みだされる。メンバー間の相互作用を起こすには、互いに自身の考えを自由に述べ合える心理的安全性が満たされた場が必要。そして、心理的安全性と相互尊重は、一人一人に自尊心が備わっていなければならない。だから、自尊心を育む必要があり、ずっとそれに取り組んできたんです。」

とおっしゃいました。そして続けて、

「イノベーションが、偶然の産物ではなく、必然的に生み出されるものとするために、人事が主体となって、人間中心の場づくりに関与するという理想を掲げ、その理想に共感する人々とつながるために、実現にむけた想像力を働かせてみてはどうですか。」

と勧められたのでした。手塚さんは、自らの理念、

「人は、断じて欠点だらけの無力な存在ではない。自分らしく輝いて生きるに値する充分なちからと能力を兼ね備えており、その可能性は想像をはるかに超えて大きい。」

を信じ、その理念の普及に人生をかけて取り組んでこられた本物の人だと第一回目のブログに書きました。その理念の先には、企業永続の条件である、イノベーションの創出があり、その大きな目的の実現のために、個を生き生きと輝かす必要があるとお考えになっているということを、何度もお話しを伺っていたにもかかわらず、お恥ずかしながら今まできちんと理解していなかったことに気づきました。

私の中では、企業永続=イノベーション までは頭では理解していたのですが、イノベーション=個人の自尊心 という公式までは描けていなかったのです。たしかに、暗く澱んで、人間関係も冷たく希薄で、懸念に満たされた居心地の悪い場でイノベーションが起きることを想像することはできません。偶然の産物が全くないとは言えませんが、そんな場を放置して世の中にあふれてしまったらイノベーションが必然的に産まれる状態にすることなどは到底望み得ないでしょう。

やはり、イノベーションは人間の相互作用によって産まれるもの。つまり、人事の仕事の領域なのです。再び手塚さんのお知恵を借りて、私のブログの方向性が定まりました。人事が主体的役割を担い、人と組織にイノベーションを起こす方法について、です。

そこでまずは、教科書的にイノベーションの定義を確認しておきたいと思います。

イノベーション(英: innovation)とは、物事の「新結合」「新機軸」「新しい切り口」「新しい捉え方」「新しい活用法」(を創造する行為)のこと。一般には新しい技術の発明を指すという意味のみに理解されているが、それだけでなく新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす自発的な人・組織・社会の幅広い変革を意味する。つまり、それまでのモノ・仕組みなどに対して全く新しい技術や考え方を取り入れて新たな価値を生み出して社会的に大きな変化を起こすことを指す。(Wikipediaより)

では、なぜイノベーションが、いま、私たちの日本で特に必要とされているのでしょうか。立命館大学アジア太平洋大学学長の出口 治明(でぐち はるあき)さんが、次のように述べておられます。

まず必要なのは、現在の日本で何が起きているのか、何が問題で、何を失いつつあるのかといった「現状把握」をすることです。全ての改革、全ての生存への作戦はそうした現状認識から始まると思います。改めて5つの問題を指摘したいと思います。

1つ目は、製造業から金融・ソフトといった主要産業のシフトに対応できなかったこと。また自動車から宇宙航空、オーディオ・ビジュアルからコンピュータ、スマホへと「産業の高付加価値化」にも失敗したこと。

2つ目は、トヨタやパナソニックなど日本発の多国籍企業が、高度な研究開発部門を国外流出させていること。つまり製造部門を出すだけでなく、中枢の部分を国外に出してしまい、国内には付加価値の低い分野が残っているだけという問題。

3つ目は、英語が通用しないことで多国籍企業のアジア本部のロケーションを、香港やシンガポールに奪われてしまい、なおかつそのことを恥じていないこと。

4つ目は、観光業という低付加価値産業をプラスアルファの経済ではなく、主要産業に位置づけるというミスをしていること。

5つ目は、主要産業のノウハウが、最も効果を発揮する最終消費者向けの完成品産業の分野での勝負に負けて、部品産業や、良くて政府・軍需や企業向け産業に転落していること。

この5つの結果として、日本型空洞化が日本経済を蝕んでいるのだと思います。1997年の人々が「このままでは2020年には世界のGDPの9.6%」というシェアまで落ちてしまう、そうなれば「日本が消える」と真剣に心配していたわけですが、実際の2020年になってみたら「9.6」どころか「5.9」という「地をはうような状況」になっているわけです。

出口さんが指摘されているポイントは、産業界が生み出す付加価値が下がっていて世界との競争に負け続けている、ということです。加えて、低付加価値の分野を殊更に過大評価して本質的な問題の解決(高付加価値分野への挑戦)から目を背けているということではないかと思います。

日本は今、絶望的な状況にある、という非常に厳しい見立てをされていて、私たち一人一人が何をなせるのか、何をなすべきなのかを考えると途方に暮れそうになりますが、諦めてはいけないと思います。過去からの延長線上には未来がないことを踏まえ、一人一人が現状を打破すること。とはいえ悲観的にならずに、明るく、前向きな気持ちでイノベーションに取り組みたいです。

次に、日本のイノベーションの先行研究とそこから得られる知見について整理をしておきたいと思います。

唯一といってもよい世界的に評価された日本発のイノベーション理論に、「知識創造(SECIモデル)」があります。私が多摩大学大学院在学中に修士論文の指導をお願いし大変お世話になった紺野 登 先生は、この理論の考案者である野中 郁次郎 先生の弟子で、お二人は共著も多く出されていて日本のイノベーション研究の先端を走っておられます。そんな紺野 先生が常々、

「イノベーションが産まれるのは、人間が蓄えた知(暗黙知と形式知)を人間の相互作用によって次々と変換して、進化、発展する場をつくること。それは、人間同士の豊かな関係性がベースとなっていて、且つ、触媒的な役割を担うリーダーの存在が不可欠である」

とおっしゃられていました。

そんな良い知恵を授けていただいたにも関わらず、大学院を修了しても尚、私が度々躓いたのは、企業組織に属すると、経営者、社員にかかわらず、人間の個としての属性が制約となって、なかなか理論通りにはいかない。理想と現実のギャップを埋めること、つまり、理論を、組織に、仕組みとして実装することが難しかったからでした。

本当のイノベーションとは、社会や経済を良い方向に変えるためのアイデアが社会に実装され、実際に社会が動いていくことだと思います。今、語られているイノベーションの話題は技術革新に偏りがちで、実装するための制約条件は何か、それをどのようにして解決するのか、についてはこれまで多く語られてこなかったように思います。

つまり、イノベーションを偶然の産物から、必然的な結果に変えるためには、イノベーションが起きる条件を考えるだけでは足りなくて、イノベーションが起きない阻害要因を明らかにして、それらを解決して、組織に実装する手段を講ずる必要がありそうです。

次回からは、数回に分けて、イノベーションを阻害する要因とその対策について、私の経験談を交えて考えてみたいと思います。

2 thoughts on “人事のミッションはイノベーションを起こすこと

  1. 手塚 美和子

    先日はありがとうございました。また、素晴らしいブログ、これからも楽しみです!どうぞお気になさらず目一杯書いて下さいね!!応援しています。

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