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体験学習とは? 日本におけるラボラトリーメソッド

<日本におけるラボラトリーメソッド>

 日本におけるTグループは、1958年に清里において開催された2週間にわたるワークショプが、初めてのものとされています。
 このワークショップは、世界キリスト教協議会主催の「教会における集団生活指導者研修会」というテーマの研修会であり、アメリカ、カナダのトレーナーのもとに開催され、成功し、さらにその後、1960年に第二回目のTグループが開催され、多大の成果を収め、ラボラトリー方式による教育方法が極めて効果的であること、革新的で今後の教育にとって価値が高いことが強く認識されることになりました。
 それらの研修の成功を受けて、1962年4月に立教大学内の一機関として「キリスト教教育研究所(通称 JICE(ジャイス):Japan Institute of Christian Education of Rikkyo University)」が設立されました。
 日本におけるTグループやラボラトリーメソッドによる教育技法は、このJICEの活動が中心となって広まっていくことになったのです。
その時のJICEのリーダーは、柳原光先生であり、私もご指導をいただいた先生です。
柳原先生は、気高くフェアーであり、不正には厳しく、また人間には優しく、自らがクリスチャンでいらっしゃったので、背景にキリスト教の人間哲学をしっかりと基盤に置かれてプログラムを運営されていました。
 私自身は、組織宗教には縁が無く、クリスチャンではないのですが、人間関係の本質は愛であること、人間存在の価値は途方も無く大きいこと、といった哲学を柳原先生の生き方やラボラトリーのプログラムから教えていただきました。残念ながら柳原先生は1994年1月にご逝去されていますが、先生から教えていただいたことは今の私にとって貴重な宝であり、先生の哲学は、今でも私自身の仕事の根底に流れています。

 さて、当初、そのようないきさつで、日本におけるTグループは、キリスト教の聖職者の方々を対象として立ち上がってきたのですが、その後、産業界においても、従来にない学習方法であることや、行動変容を促す実践的な方法であることが注目され、企業研修などに取り入れられて、大きなムーブメントを巻き起こすことになりました。
 しかし、大きなブームの中で、一部コンサルタントや業者などにおいて、ラボラトリーメソッドの原点となっている哲学である「人間尊重」の人間観や「共に学ぶ」教育観が欠如した、時には、洗脳的な操作や支配が横行し、STや自己啓発セミナーなど、社会問題ともなったのです。
 この問題は、現在でも続いており、このようなメソッドを安易に利用したコンサルタントやセミナー会社、業者で、問題視されているところも少なくありません。

 臨床心理学者カールロジャーズがラボラトリーメソッドを「今世紀最大の最も将来性のある社会的発明」と評したほど、ラボラトリーメソッドには、可能性と効果性を秘めていると言えるのですが、諸刃の刃であり、反面、使い方を間違えると、”人の心”を扱う方法であるだけに、大きな問題を起こしてしまう可能性は否めません。
 歴史的な経緯からも、ラボラトリーメソッドを運営するファシリテーターは、真摯な姿勢と哲学と注意深さが必要といえましょう。