ラボラトリーメソッドとしての体験学習:ヴィーナスアソシエイションの研修の特徴‐その1
ヴィーナスアソシエイションは、研修運営にあたって、ラボラトリーメソッド としての体験学習を基盤としています。体験学習とは、先生の言うことや既に本に書かれていることから学ぶというよりは、自分が感じたことや気づいたこと=“今ここでの体験” から大切なことを学ぼうとする学習方法です。
リーダーシップやコミュニケーションといったヒューマンスキルは、個性の現れであり、あるべき正解などありません。 そのような自分らしさを学ぶためには、体験学習が最適と言えましょう。
体験学習とは
体験学習とは、本や理論など、既に一般化されたモデルから学ぶのではなく、自分が体験したさまざまなことを大切にして、そのような今ここの生きた体験から学ぶ学習方法です。
その歴史は古く、1940年代に社会心理学者K.レヴィンによるグループダイナミックス研究の一環として開発されたトレーニング方法に端を発しています。
主に、コミュニケーションやリーダーシップと言ったヒューマンスキルトレーニングに適していると言われており、現在では、企業教育はじめ、 学校や病院、さまざまな組織におけるソーシャルスキル、ヒューマンスキルトレーニングの方法のひとつとして広く一般的に活用されています。
体験学習とモデル学習
体験学習を深く理解していくために、ここでは、体験学習を、モデル学習との対比の中で見ていきましょう。
私たちが“学習”と言った場合には、一般的にイメージされるのは、モデル学習ではないでしょうか。
モデル学習とは、既に出されている答や成功モデルから学ぶ学習方法であり、正解を複写し、 練習して記憶し自分のものにすることを通して成長しようとする学習方法です。
モデル学習は、先哲の叡智の結晶を短時間で体得するための大変効率の良い方法であり、 どんな文化や組織でも実施されている教育方法でもありますが、しかし、決して万能とはいえません。 例えば、コミュニケーションやリーダーシップと言ったヒューマンスキルを考えて見ましょう。 私たちの考え方では、ヒューマンスキルとは、個性の現れであると認識しております。 その際、個性には、正解やあるべきモデルはありません。すばらしいリーダーと言った場合、 咲く花は一輪だけではなくて、百花百様であり、あらゆる個性がすばらしいリーダーになりうる萌芽を持っているのです。
そのように考えた場合には、ヒューマンスキルのように正解が存在しない要素については、 モデル学習は、効果的には機能しづらいと言えるでしょう。
一方、体験学習とは、従来のモデル学習とは違って、既に一般化された知識やモデルから学ぶのではなく、 自分が感じ、体験し、気づいたことを大切にし、そこから宝を導き出す学習方法です。 体験学習は、過去の枯れた理論というよりは、“今、ここ”のリアルな体験を教材にします。 体験学習は、頭で分かることよりもハートで分かることを大切にするのです。
体験学習は、自分や関係性を体験を通して観察し、個人で感じたこと気づいたこと=個人の主観をチームで分かち合い、 さまざまな視点から本当のことを明らかにしていくことを通して、真実の理解や、 よりよいあり方の探求をしていくことができる学習方法です。
また、ありのままの現実を淡々と観察していく方法でもあり、「こうあるべき」や「こうあるべきではない」 と信じ込んでいる考え方から離れ、自然で等身大の自分自身をみつめ、本来の自分らしさを探求していくことができるので、 自由になる、本来のエネルギッシュで生き生きとしている自分を取り戻す方法ともいえましょう。
技術の進歩が早く、変動の大きい時代にあって、変化に柔軟に対応し、智恵を生み出し、 創造的に問題解決を図るための質の高いコミュニケーションやリーダーシップの能力育成が求められている現代では、 主体性や個性を重んじて、その限りない潜在性を引き出す支援をする体験学習による教育方法が 大変威力を発揮すると言えましょう。
体験学習の学習プロセス
体験学習は、先生の講義や理論モデルから学ぶと言うよりは、体験から学ぶ方法であり、通常の場合、まず、チーム活動や個人ワークのような"実習(structured experiences)"と呼ばれる体験エクササイズを実施します。
各種の実習は、さまざまなレパートリーがあり、楽しく熱中して参加できるように工夫されています。たとえばチーム活動のような実習を実施すると、チームコミュニケーションは一気に活性化し、文句なく楽しいことが多いので、メンバーの参加度合いは増し、凝集性は高まることが多いといえましょう。
しかし、ややもすると、このような刺激的な実習の側面だけをとらえて体験学習と呼ばれることが多いのですが、 単に体験だけでは、本当の意味での学習にはつながらないと私どもは考えております。
体験学習は、実習の後に、体験プロセスをじっくりと丁寧にふり返り、観察していくことを通して、 普段は隠れて見えることがない人間関係の中で起こっているさまざまなことがらに光を当てて、 思い込みではなく、ありのままのリアリティや関係性の真相を理解していくことを試みる学習方法なのです。
ですから、どちらかと言うと、刺激的で興奮する学習方法と言うよりはむしろ、粛々と淡々と内面や関係性をみつめ理解を深めていく 方法であり、その学習がうまく行くときは、たいていの場合、静かで穏やかな雰囲気になることが多いと言えましょう。
その具体的なプロセスは、以下のとおりです。
1.体験
グループワークやエクササイズなどの実習を実際に体験します。
2.観察
実習の後で、実習中に体験した様々な事柄(自分の感情、感覚、思考、など)を言語化し、記述します。
日常生活の中では、多くの場合、どう行動すべきか、どう考えるべきか、 などといった自分なりの仮説や正解、態度をもって体験と関わり行動を評価しますが、体験学習の場合には、 そのような自分の中に既に構築されているメンタルモデルをひとまず保留して、 起こった出来事や体験したことを、ありのままに丁寧に観察していくことになります。
謙虚に現実を観察し、ありのままの姿をよく探求していくことで、思いもよらなかった可能性と出会い、 隠されている真相や真実が明らかになっていくことになります。
具体的には実習の後で、実習中に体験した様々な事柄(自分の感情、感覚、思考、など)を言語化し、 紙に書いていきます。その際、体験をふりかえりやすくするために設計された一定の書式(プロセス観察シート)を使うこともあります。
3.分析
2で記述した体験は、自分の内面で起こった出来事なので、自分にとっては本当のことですが、 人間の認識にはバイアス(偏向)がかかっており、現実をありのままに理解しているとは限りません。例えば、自分の実感では、「太陽が動いている」のですが、 真実はそうではありません。
特に、人間関係のような複雑な現象を理解する場合には、誤解や思い込みが多く、 真実を知るためには個人だけの認識ではなく、多くの視点から観察したデータを持ち寄ることが大切となります。
ですから、本当のことを理解していくために、メンバーそれぞれが体験をふりかえった観察データを公表し分かち合います。 この分かち合いを通して、ありのままの現実や本当のことを理解していく事が出来るようになるのです。
本当のことが分かれば、自分はどうあればいいのかは、自明のこととなりましょう。
4.仮説化
実習の後で、実習中に体験した様々な事柄1〜3までのプロセスを経て明らかになった現実に基づいて、 「なぜその様な事になったのか?」「よりよくするためには、どうあればよいのか?」について自分なりに仮説化します。 その時に、小講義と言う形で、既に一般に公表されているような理論や学説などを参考にする場合もあります。
導き出された仮説は、次の実習で検証したり、実践してみて、更に深く探求し理解していくことが出来ます。 また、より良いと思える方法を次の実習で試みて行くことができるので、実習を繰り返すうちに、 個人として、チームとして成長を実感して行くことができるでしょう。
このように、実践や試みを通して学習し、成長を図ることができるので、 体験学習方式による方法は、ラボラトリーメソッド(実験室メソッド)とも呼ばれています。
ラボラトリーメソッドとしての体験学習の効果
体験学習の目指すもの、そのねらいは、主に、個人の領域と集団の領域に分けることができます。
1.個人の領域
体験学習は、ありのままの現実を良く観察することを通して、本質や可能性を探究してく方法であり、 個人が本来持っている自然でリアルで限りない力や可能性と出会い、本当にそう生きたい生き方や自分らしく輝いて生きる生き方を後押し、 支援ができる優れた方法です。
体験学習を通して個人が学ぶことができる要素の代表として、私どもは以下の項目を考えております。
@主体性
自分自身が感じたことや気づいたことを信じ大切にして、その体験をもとに学ぶことを繰り返すことで、 自分のコントロールセンターを、他者の権威に置くのではなく、自分自身でつかみとり、ついには自分の人生を自分らしく 輝いて生きる主体性を獲得することにつながります。
A自己信頼と自尊心の回復
等身大で、ありのままの自分自身を探求することを通して、自分の注意すべき点に気づくと同時に、 思ってもみなかったような輝かしく大きな存在としての自分自身に気づくことが多く、自分の中に深く根付いている否定的な 自己概念が解かれて、よりリアルで自然で健康的で偉大な存在としての自己を回復することにつながります。
B落着きと集中力
ありのままを一旦受け止めてみること、現実をそのままで観察してみることを繰り返すことで、 その場で起こっているありのままの現実を嫌ったり恐れたり拒絶したりすることによる内面の騒がしい反応が静まり、 落ち着いてよく場や現実を観察する能力や集中力が格段に向上します。またその落ち着きと集中力は、 個人の潜在化しているさまざまな能力やスキルを表に出す強烈な力となるのです。
C創造性(Creativity)
内面で起こった気づきやひらめきやアイデアを大切にして、それを書きとめて、 実際に表現していくことを通して、次第に個人の表現力のスキルが高まり、個人の創造性も同時に開花していくことになります。
Dチャレンジ精神
体験学習は、実践を通して学ぶ方法であり、試みる学習方法でもあります。ですから、個々人のさまざまな挑戦や試みは、守られ奨励される風土の中で、新しい自分を発見し、 その可能性に挑戦していくスキルも身につけることができます。
2.集団の領域
体験学習は、リアルに起こる人間関係のプロセスを通して、そのより効果的なあり方を探究していく方法です。 ですから、人間関係(チーム、組織)のより良いあり方を学ぶと同時に、実際に場のメンバーのコミュニケーションの改善や リーダーシップスキルの向上が起こり、受講チームの生産性や創造性が大幅に高まることが多いといえます。
学習と改善が同時に起こる体験学習方式は、職場ぐるみで実施するなどを通して、 実際の現場を改善していくことができる実践的な現場変容のツールともなるのです。
@コミュニケーションの改善
コミュニケーションは、安全性や生産性、創造性に大きな影響を及ぼす要素ですが、 体験学習は、この職場のコミュニケーションを改善し、開放的でオープンな風土を醸成することにつながります。
Aチームビルディング
チームとして協力し、チームパフォーマンスを高めるための実践学習を通して、 チームの優れた可能性を引き出すことにつながります。
B基本的な信頼関係
深くて正確なコミュニケーションを通して、メンバー相互の懸念や誤解を解消し、 相互理解を促進すると同時に、共に協力し合って課題を成し遂げるために必要な基本的な信頼関係を育成することができます。
C生産的、創造的な組織風土の醸成
体験学習の学習目標である、オープンなコミュニケーション、相互に信頼しあえる関係、共通のヴィジョン、 自己実現に関する学習を通して、組織全体としての力、生産的で創造的な組織風土の育成につながります。
Dチャレンジ精神に基づく組織風土
失敗を許される風土、挑戦を尊ぶ風土、繊細な問題を無視しない風土、問題から逃げない風土、あきらめない風土、 など、学習を通して、チームが本来持っている素晴らしい素質が育まれていきます。