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ポジティブ心理学 1.ポジティブ心理学が生まれた背景

 ポジティブ心理学とは、人間の”ものの見方、考え方”にスポットを当てる心理学です。

 アメリカの心理学者、マーティンセリグマン博士が提唱し始めた理論であり、私たちの認識の在り方、ものの見方考え方が、私たちのキャリヤや生活、幸福感や健康、生き方や人生そのものに大きな影響を及ぼすと考え、より自分らしく幸せな生き方に向けての具体的な方法を提唱してくれています。人生をより充実した豊かなものにするための方法、ウエルビーングを追求する方法、より自分らしく力強い生き方を促す方法の一つとして、現代心理学の主流の理論の一つとなっています。

 ポジティブ心理学を理解する上で、まずは、セリグマン博士が、なぜ心理学を志し、なぜポジティブ心理学を生み出したのかについての背景から探求してみましょう。なお、以下の文章は、「オプティミストはなぜ成功するか」講談社文庫(マーティン セリグマン著)に基づいて書いております。

1.ポジティブ心理学が生まれた背景

①心理学を志す

 M.セリグマン(アメリカ1943~)は、13歳の時に、父が病気により体が麻痺すると同時に、うつ状態となり、不幸な晩年を送ったことを契機に、父親のような人たちの助けとなりたいと思い、心理学を志すようになりました。

 彼の父は、彼が理想とする父親像にぴったりとマッチするような父親であり、物静かで落ち着いており、公務員として仕事に従事すると同時に、ニューヨーク州の高官選挙に出馬するといった大胆な挑戦を試みる尊敬すべき人物でした。

 しかし、ちょうど選挙への出馬を決心した頃、左半身の感覚が無くなったことを皮切りに、3度にわたる発作を起こし、49歳の若さで、永久の身体麻痺の状態となってしまいました。

 身体の自由を全く奪われた状態へと急激に変化して、彼は、心理的にもうつ状態となり、選挙に出馬しようとする闘志あふれる状態、落ち着いた尊敬すべき人格者であったころの父親と比べると見る影も無いほど絶望しており、みじめな状態になってしまったのです。彼のお父さんは、セリグマン少年の勇気づけや働きかけが功を奏することなく、その後、心身の無力状態が回復せずに、苦悩の中で亡くなりました。

 そのような体験を経て、彼は、お父さんのように絶望の中にいる人の助けになりたいと志し、心理学の道に入っていったのです。

②当時の心理学会の状況

 1964年、セリグマンは、実験心理学を学ぶためにペンシルバニア大学の大学院に進学しました。その頃の、心理学は、”行動主義”と呼ばれる考え方が主流であり、行動主義に基づいたさまざまな理論や実験が展開されていました。

 行動主義とは、「おおよそ、生物は、”刺激→反応”のパターンを観察、計測し分析することで、その行動を説明し、コントロールすることが出来る。」と言う考え方に基づいた心理学の一つの考え方を言います。

 現代では、生命は、そのような単純なものではなく、”刺激→有機的存在→反応”と言う複雑なプロセスを経て主体的かつ個性的な行動をする存在であると言う考え方が主流であり、行動主義心理学は、心や意識を無視し、主体性をないがしろにしているとの理由で批判されることが多いのですが、当時は、一種の暗黙の規範のように、「”行動主義的”な考え方でなければ心理学ではない。」と言えるほどの強い権威を持った考え方だったのです。

 複雑な心の内面を謙虚に研究し、理解を深めようとするのではなく、アメとムチのような刺激を工夫することによって被験者の行動や態度をコントロールしようとする行動主義の考え方は、現在からすると、カルト的な性質があると批判されても仕方のないところがありました。

 当時、行動主義を主導していたワトソンが、幼児のアルバート君に恐怖を人為的に教える心理実験など、現在では人道に反すると批判されることが多い心理学ですが、当時は、心理学会において強烈な権威を持っており、それを是とする者しか心理学者としてキャリアを伸ばすことが困難だったのです。

 そうした、現在では不自然で操作的、侵食的と非難される立場を正当化するように、自分たちの正しさを証明するような心理実験が多数行われています。パブロフの犬は、その代表的なものの一つと言えましょう。

 セリグマンが、進学時に大学院で行われていた実験も、まさにこのような”行動主義心理学”に基づいた実験でした。