或る人事担当者の回想録

経営者の動機と発想の原点

今後、私らしく、また一人でも多くの方に読んでいただけるブログを書くために、私の理想の状態、また、一番満たされる瞬間を確認しておきたいと考えました。そこで、私の友人で、「Sound Souls」の考案者である神川起世彦さんに相談をしました。「Sound Souls」は、ひとり一人が自分の力が入るタイプポータルとロールポータルを各1種類ずつ持っていて、自分がどのタイプかが分かれば、自分が生まれながらに持っている『世界観』、そしてそこから生まれる『才能』や『役割』を知ることができるという理論です。ちなみに、私のタイプポータルは、鎖骨(人や物事の本質に触れることに喜びを感じる。本質を大切にしているため、話の内容よりも話している人の本心を見ていることが多い)。そして、ロールポータルは頸椎(行動レベル、前に進めていき、アイディアを形にしていくために実際に手足を動かしてイメージが形になるよう情報を集めていくのが得意)です。簡単なチェックで両ポータルが分かり、日常生活で簡単に実践でき効果が体感できるので是非お勧めします。

そんな神川さんのサポートを頂いて、私がずっと志向してきたことが分かりました。それは、「人が強み、持ち味を発揮できていない状態を解消する」こと。ポイントは、「強みを発揮する」ことではなく、「強みを発揮できない環境をどうにかしたい」という無意識の動機です。言葉を変えると、「楽しいことを見つける」ではなく、「楽しめない原因を解消する」という感覚が私にはしっくりきます。その結果、私はずっと新しい職場に入るとイキイキしていない人、不機嫌そうにしている人についつい目が向きました。そして、その原因を探索、発見して対処することで、組織が抱える根本的な問題を解決することができると信じ、様々な方法を学び、あらゆる手立てを講じてきました。その根底にはこんな無意識があったことにいまさらながら気づかされました。神川さん、本当にありがとうございます。

では、成功した経営者はどのような無意識の動機をもっているのでしょうか。一般論としては、無から有を生み出す「発想力」や、事業を極限まで大きくしたいという「欲望」が思い浮かびます。

私が仕えた経営者のお一人にNさんがいらっしゃいます。Nさんは、神奈川県の電子部品メーカーをたった1代で株式上場、グループ総勢10,000人の規模にまで成長させた方です。私はこの会社に2011年3月11日の東日本大震災の発生直後の4月1日に入社しました。同社の常務取締役のSさんがNさんについて、「私は経営者になりたかったのだが、Nさんに仕えるようになってそれは難しいことに気付いた。なぜなら、Nさんにはとてつもなく大きな欲望があって、社長というのはそういう資質がないと務まらない。自分にはそれがないから諦めたんだ」とおっしゃっていました。恐らくNさんには事業拡大のあくなき欲望があり、それが成功要因になったことは間違いないと思います。しかし、その後、私はNさんの意外な一面を見ることになります。

それは、私が企画した、「中堅社員向け研修プログラム」の冒頭、Nさんにお願いした講話の内容でした。Nさんがおっしゃるには、ずっと目指してきたのは、事業を拡大させることではなかった、と。日本国内にひしめく競合他社と比較して様々な面で優勢性に乏しかった同社を倒産させないために、仕方なく中国に進出したと言われたのです。当時、国内で確か300名程度だった規模の会社が、中国でいきなり1万人規模の工場を次々と立ち上げる離れ業をやってのけたのは、決して、事業拡大への野心ではなく、会社を存続させるために仕方なく選択した手段だったと淡々と話しをされるお姿が今でも目に焼き付いています。一代でここまで事業を拡大された方の野心はどれほどのものかを聞けることを期待していたものですから、研修参加者一同、ちょっと拍子抜けしたのですが、それと同時に私は大きな気づきを与えて頂きました。それは、「人には、それぞれ全く異なる動機と発想がある」ということです。経営的な意思決定、行動は同じでも、その原点をひとくくりにして語ることは出来ないということです。Nさんは、「私は常にマイナスの状況からの挽回を発想し意思決定してきた。それが当社の社風になっている」とおっしゃいました。まだ若い中堅社員がその言葉の真意をどこまで理解できたかは分かりませんが、私は、Nさんの動機は「生き残り」。そして、発想の原点は「弱みを強みに変えていくための一発逆転の方法論」であると解釈しました。これを、常人では決して持ちえない欲望と不屈の意思で成し遂げられたNさんに関するエピソードは他にもたくさんありますので、改めて記したいと思います。