「空気を読まず、正論を吐き、ノイズを起こす」「女性」が、組織の中に波風を起こしてイノベーションを産む原動力になる。
その阻害要因として男性の意識と言動があるということを、社会学者の上野千鶴子さんのコメントをもとに読み解きました。
そして、「女性」の登用を進める公平な制度の運用が、国際比較で日本が非常に遅れている裏付けとして、森喜朗元首相の発言(失言)を取り上げました。
さらに、その原因として、日本特有の「平等意識」とその源流である「和の精神」が影響しているとの私の推論を、法隆寺管長の大野玄妙さんの講話内容に照らして検討しました。
最後に、「女性の登用」を促進するためには劇薬が必要で、既存の組織のルールを根こそぎひっくり返してしまうようなパワーを女性のチームに与えること。さらに、ペナルティを伴ったクオータ制を導入することの必要性を述べました。
今回は、「若者 バカ者 よそ者によるイノベーション②」の番外編として、女性の登用を進めて成果を上げている株式会社東横インの事例を取り上げます。テンミニッツTV「東横インに学ぶ「女性活躍」の秘策」で、代表執行役社長の黒田麻衣子さんが語った内容から抜粋します。
①女性登用のきっかけ
冒頭、黒田さんは、東横インが女性を積極的に登用することになったのは、祖父から電気工事会社を引き継いだ父親が、ホテル事業を始めるにあたって生じた偶然の出来事だったと語っています。
インタビュアー:支配人の方々の97パーセントが女性というように、女性を積極的に登用されたのは、なぜなのでしょうか?
黒田:それは創業期からで、まさに1号店から女性の支配人でした。その当時、父が祖父から継いだ仕事は、電気工事の会社だったものですから、男性ばかりの会社でした。そこから父はデベロップの仕事、ビルの企画をするような仕事を始めて、ひょんなきっかけからホテルをやることになったのです。ただ、電気工事の会社ですから、ホテルの仕事をできる人が誰一人いないということで、父の行きつけの飲み屋のママさんに頼んで、ホテルの1号店をオープンさせたのです。たまたまママさんが、田舎に戻ろうかなとおっしゃるタイミングで、「それだったら手伝ってください」という経緯でしたので、最初から「支配人は女性でいこう」と決めていたわけではありませんでした。
②女性活用の始まり
最初は偶然でしたが、そのあと東横インがとった方法は現在に至る女性登用の流れを決定します。女性と男性の違いを発見して、それを活かそうと考えたようです。
黒田:実際、2号店目は男性の支配人だったのですが、1号店と2号店の稼働率にかなりの差が出てきてしまったのです。「これはなぜだ?」と現場に行くと、女性が支配人をやっている方は、とてもきれいで居心地がいいのです。一方の2号店はなんとなくタバコ臭いし、暗いし汚いということで、これは女性に向いている仕事かもしれないと思ったそうです。そこで、社員は女性にしていこうとなっていきました。
③適性も意欲もある人材の採用方法
「支配人」という「リーダーシップ」を必要とする仕事の適任者を獲得するにあたり、育成する余裕がないので、最初から「支配人になりたい人」を募集、採用せざるを得なかったことが逆に功を奏したようです。つまり、リーダー的資質を備えた人を内部で抜擢するよりも、リーダーになりたいという意欲、意志がある人に役割を与えた方がスムーズだということです。
インタビュアー:支配人になる方法、道筋ですが、どういうかたちで社員登用をされているのでしょうか?
黒田:「未経験で構いません」ということで呼びかけて募集しています。まもなく創業35年になりますが、創業期には人を育てていく時間がありませんでした。ですから、最初から「支配人をやりたい人」というように採用せざるを得なかったわけですが、今となってはそれがよかったとも思っております。最初から「私がリーダーをやりたい」と言って、手を挙げる方が来てくださるからですね。逆に、もともと部下、スタッフとして入った人は、こちらが優秀だなと思って「支配人をやりませんか?」と声をかけても、「いえいえ、私はリーダーには向きません」と、リーダーに手を挙げない傾向があります。ですから、最初からリーダーをしたいと手を挙げてくださる方は、意識が違うのかなと思っています。
④女性登用の促進理由
ローカル採用で転勤がないことが、女性登用をより促進することにつながったようです。ここで好循環が生まれています。
黒田:これは女性ならではなのかもしれませんが、転勤はなかなかできないのです。家庭を持っていらっしゃる女性の方は特にそうです。ご主人に「転勤するからついてきて」と言うことは、これまでの日本ではあまりありませんでした。ですから、基本的には出張はありますが、転勤はないということで、ご自宅から通える範囲で採用しています。これは支配人だけではなく、全スタッフが現地採用ですので、本社からスタッフを派遣したりですとか、そういったことはいっさいしていません。地元を愛する方にホテルのスタッフになっていただきたいと思っています。
⑤性別による得手不得手
黒田さんの見立てによると、女性と男性にはそれぞれ得手不得手があるようです。そこで、同社では男女それぞれが活きるように仕掛けを講じているようです。
インタビュアー:女性が活躍する職場の面白さ、特徴というのは、どういうところにありますでしょうか?
黒田:社外の取締役から「女性ならではなのかもしれないけれど、横への情報の伝達が速いね」と言われたことがあります。横に情報が伝達しやすいということは、例えば支配人たちがやってよかったことを横展開できるので、その点はとてもよいと思っています。一方で、「上から下への情報伝達が下手だね」と言われたこともあります。支配人同士、うわさもひっくるめて、うわーっと情報が集まるのですが、本社が言ったことが支配人、末端のスタッフまで伝わっているかという部分に課題があります。お恥ずかしながら、お客様の方から「もうこういうサービスに変わっているよ」と教えていただくフロントもいたりするものですから。
インタビュアー:女性の能力と男性の能力の違いをどうやればうまく生かせるのか、男性中心の組織の場合と女性中心の組織の場合で、どう違うのかについては、どう思われますか?
黒田:私がいる本社の部長は男性と女性が半分ずつぐらいです。男性の部長の仕事を見ていると、緻密で一生懸命やってくださる。自分の仕事、任された仕事を集中してやっていると感じます。しかし、自分と同じように部下もやってくれるだろう、「自分の背中見て仕事をしてほしい」というところがあるため、部員に目が行き届いているかといえば、そうでもありません。一方、女性の部長は、一生懸命やっていないわけではないのですが、ともすると「遊んでいるのかな」と思われるくらいにおしゃべりが多い。ただ、実際は、そうしながら部下の様子をうかがっていたり、モチベーションを高めるようなことをしていると感じています。
男女の違いを見たときに、男性は新しいものをつくることが好きであり、その能力に長けていて、女性はゼロからつくり上げるよりも、すでにあるものを磨きあげる方が得意ですし、好きなのだろうと思います。男性の場合、磨きあげていく作業は途中で飽きてしまう、つまらなくなってしまうとも感じていますので、そこが能力の違いというか、性格の違いなのかもしれません。
インタビュアー:たしかにホテルの仕事は、どんどん磨きあげていかないといけませんね。
黒田:はい。日々、違ったお客様がいらっしゃいますので、新しいことがまったくないわけではありませんが、例えば壁を壊して部屋をつくるとかではなく、あるものをいかにうまく使うか、いかにお客様に喜んでいただけるか、今いるスタッフをどう育てていくかを常に考えていくことになります。
⑥女性のコミュニケーションの特徴
女性は、上司とのコミュニケーションの方法が率直でストレートだとの見立てをされています。これは上野千鶴子さんが「ノイズを起こす」と述べ、森元首相が「話しが長い」と失言したことと符合します。
黒田:女性の方が上司にモノを言います。ある意味、女性の方が、出世よりも今の職場の環境をよくすることに重点を置くのかもしれないですね。周りがよくなければ自分もよくならない、居心地が悪いというようなところが、あるのかもしれません。ですから、私に対しても「こうだったらいいのに」と女性は言ってきますね。
⑦組織づくりの工夫
女性のリーダーを出したければ女性だけの組織にするべき。しかし、調整役の男性の存在が必要と述べています。女性にパワーを持たせても、男性が関与することによって組織運営がスムーズにいくようです。これは、クオータ制のオプションとして参考になります。
黒田:これまでは、女性は男性に遠慮する、男性をまずは立てて女性は支える役回りを求められてきましたし、女性としてもそれを楽だと思いがちでした。ですから、女性は男性がいると、「自分がリーダーをやります」とは言わないのではないでしょうか。一方、女性しかいなければおのずとそこから女性のリーダーは出てくるものです。エリアの支配人の代表もいるのですが、そこにはあえて本社の男性の役員クラスも担当につけています。どちらかというと調整役、相談に乗る役回りです。実際、その男性については、総務部長兼どこどこエリアのエリア長としてはいるのですが、ホテル業務は素人で、ホテルのことを隅々まで知っているわけではありません。では彼らが何をするかといえば、ホテルを1つずつ任されているという意味で、ライバル関係にある支配人同士の間に立つ調整役です。もちろん支配人には出っぱってもらってもいいのですが、それでも例えば隣り合わせの店舗の価格が違うのはよくありませんし、あとは口論になったり、揉めごとがあったときに調整に入ってもらっています。女性は大きなところから見るというよりも、細かくて重箱の隅に行ってしまうこともあるので、「いやいや、そういう細かい話ではなくて」と言える男性がいることはよいことだと思います。女性の話は本当によく脱線しますから。
⑧女性登用成功の条件
女性登用に本当に必要なのは「ロールモデル」。東横インの場合、大勢の女性支配人が活躍しているのでうまくいっているようです。
黒田:(他社で)とても優秀な女性の社員がいて、「ぜひ役員になってほしい」と言っても断られてしまう、というお話はいろいろなところで聞いたことはあります。一方で、当社の場合は、女性が手を挙げて支配人になりますし、支配人の中でもさらにリーダーになる役目をお願いすると、たいていは「はい、分かりました」と受けてくださいます。やはり女性だけの中では、女性がリーダーになりやすいのではないでしょうか。あとは当社の場合、ロールモデルがいるのも大きいですね。
⑨女性のモチベーションの源泉
女性ならではのモチベーションの維持向上について「見てあげている」ことを知らせること。「個別事情への配慮」の重要性、効果について述べています。これは前回取り上げた、私の友人Uさんの「女性には母性があり戦士にはなれない」という言葉を裏付けるエピソードです。
黒田:特に女性は、「見ていてくれている」というのがとても励みになると私は思います。例えば、「このまえ、こんなことを言っていたよね」と言うだけで、「あっ、覚えていてくれたんだ」と励みになったりするものです。メールに対しても、一言でいいので返信するとか、時間が経ってからでも「このまえ、メールでこんなことを書いていたね」と言うだけで、「あっ、見ていてくれている」と思うものです。それが上手なエリア責任者は、男性でも女性でもうまくいっていますね。
全国の支配人が集まる機会が3カ月に1回あると申し上げましたが、具体的には3月、6月、9月、12月となっています。ただ、3月は卒業式シーズンですから、1年前から「会議の日が卒業式と重なっていませんか?」と全員に聞くようにしています。そして、全員が大丈夫だという日に全国支配人会議をするというのも細かいことですが、工夫しています。あとは、入社したての方の研修日と、お子さんの受験日とが重なってしまったケースが本社で起こったことがあります。研修は朝早く出張しなければいけないものでした。おそらく入ったばかりということもあり、「子どもの受験日です」と言えなかったのだと思いますが、別の先輩の社員が、そのことを知っていて部長に「受験日だと思いますよ」と言ってくれたみたいなのです。そこで部長が本人に「受験日と重なっていますか?」と聞いたら「そうなのです」となったので、「研修日をずらしましょう」という対応ができました。細かいことではありますが、そういった女性ならではの心遣い、思いやりは、すごく大事だと思っています。
⑩手間を惜しまない経営
次の非常に手間をかけた取り組みは、なかなか男性の経営者からは出てこない発想かもしれません。しかも、そこにも女性視点、男性視点の両面を反映している徹底ぶりに感心します。
黒田:賞与のときには、支配人に手書きの寸評を全スタッフに書きましょうと言っています。お給料明細とは別に寸評を書いてお渡しします。支配人にはパートスタッフまですべてに対して書くように言っています。私たち本社も、まず支配人の賞与の寸評は、エリア責任者が書いて、その後、2、3言ではありますが、私と人事部長が手分けして全員分書いて支配人たちにも渡しています。
インタビュアー:300を超える店舗があるなか、すべての支配人の皆様に社長が書いているということですか。2、3行のメッセージにはどういうことをお書きになるのでしょうか?
黒田:男性の視点で数字を押さえて、「ここ、伸ばしましたね」ということを書くケースが多いですね。私と人事部長は女性なので、数字というよりは定性評価であったり、「新人の支配人の研修をしていただき、ありがとうございます」とか「体調いかがですか」「元気になられましたか」「この対象期間中はプライベートでも大変でしたけれども、よくやってくださいました」というようなことを書いています。プライベートで大変という部分は、お子さんの受験があったり、お子さんの環境が変わったり、介護があったり、ご主人の働く環境が変わったりと、女性はプライベートも忙しいですから、そういったことに配慮しながら、一言書いたりということもあります。そうですね。その他にも、誕生日にはお花とカードが届きます。誕生日カードにも、エリア責任者が一言書いています。あとは、私が1年に1回は、支配人と20分程度の個人面談をしています。
⑪女性は「話す生き物」
手書きの寸評に加えて、頻繁にきめ細かく面談をして「会話をする」ことでさらに見えてくることがあるようです。
黒田:入社1年ほど過ぎた方とは全員面談を毎年一度しています。私にとっても貴重な機会となっています。支配人ご自身の体調であったり、プライベートで大変なことなどは、わざわざメールでお伝えくださる方は少なく、2人きりになったときに「いや、実は」とお話しになる方もいます。あとは、現場でこんなことが起こっているというのを知る機会にもなって、お客様、従業員のことを考えていくときの大きなヒントになるのです。女性は、話す生き物ですから。
インタビュアー:さきほどもおっしゃったように組織の問題点とかも、かなりズバリと言っていただけそうですね。
黒田:はい。支配人たちには、まず着任したてのときに必ず全スタッフと早いうちに面談をすることに加えて、1年に1回、あるいは半年に1回、賞与か昇級のタイミングで個人面談をするように伝えています。支配人に言っている以上、私もしなくてはと思ってするようになったのです。ですから、東横インは私だけではなく、各店舗が面談を頻繁にする会社だと思います。
⑫「インセンティブ制度」とは?
モチベーションを維持する工夫として(給与とは別途支給される)「インセンティブ」があり、社員からパートに至る様々な属性の社員の努力と成果に報いるものとして効果があるようです。
黒田:売上高ではなく、とにかくお客様を何人入れることができたか、何人のお客様にご利用いただけたかをとても大事にしています。ですから、基本給とは別に、稼働率が高くなればインセンティブが上がる稼働率連動奨励金を支給しているのです。数あるインセンティブのうちの1つですが、自分の店舗の稼働率に応じて支給するもので、同じ店舗で働くスタッフはすべて同じ率で支給しています。例えば先月、85パーセントの稼働率となった場合、ある係数を基本給にかけることになります。基本給が違うため、額としては支配人が一番大きく、パートの方は出勤の多い人が多くなるようになっていますが、係数については店舗の全スタッフ同じなのです。
⑬支給まで工夫
インセンティブは、あえて給料日と違う日に「現金」で渡しているそうです。お金は所詮、外発的な動機付けに過ぎず持続的な意欲の維持向上への効果は限定的と言われていますが、支給の方法を工夫すれば金額に関係なく従業員の心理にプラスの効果があることを教えてくれます。
黒田 スタッフ全員で店舗の稼働率を上げるという意識を高めてもらう狙いがあるため、パートの清掃スタッフから支配人まで、全員がもらえるようにしています。同じ係数で渡せるということに加えて、渡す日も工夫しています。給料日が20日なのですが、給料日と給料日の間にインセンティブを渡すようにしているのです。20日にもらえるのは普通のお給料で、ちょうどお給料がなくなってきた10日ぐらいに、あえて違う封筒に入れて現金でインセンティブをお渡しするようにしています。支配人たちから全スタッフに、「先月の稼働率はこれぐらいだったので、こういうインセンティブですよ」と渡すのです。インセンティブにはいくつか種類があって、例えばフロントは、会員を増やす役割を担っていますので、何人会員を増やせたかということもインセンティブに入っています。ですから、「あなたは先月会員を何件取ってくれたから、この金額です」と言いながらお渡ししています。インセンティブは、賞与のように給与の何カ月分も入っているわけではありません。パートの方で何千円、フロントの方でも数万円程度なのですが、お給料がなくなった頃にもらえると、ありがたみも違います。また、金額の多寡にかかわらず、先月の結果をすぐもらえるということも大きいと思っています。
⑭手間を惜しまない本当の理由
なぜ、現金支給という非常に手間がかかる方法を止めない理由は「喜んでもらうためだ」という」シンプルですが本質的な言葉を述べています。
黒田:インセンティブは給与ほどの額ではありませんから、やはり給与明細にすると味気ない。明細でお札何枚、たとえば5万円と書いてあっても、そこまではうれしくないかもしれないのですが、少額でありながら喜んでもらえる方法として、現金をその場でお渡しできるのはとてもいいと思っています。本社も本社で支配人の分を数えますので手間ではあります。店舗の支配人たちにとっても、何百円単位まで間違えてはいけませんので、大変な手間になります。ですから、支配人の働き方改革の一環として、「やめる」という議論もしたことがあります。ただ、例えば、現金でお渡ししたときに清掃スタッフから「ありがとうございます」と言われたときの顔を見るのがうれしくて、「続けていきたい」と支配人たちが言ってくれますし、やはりやめられないと思うのです。
⑮女性ならではの悩み
男性が見落としがちな女性登用の阻害要因に「周囲に頼ることを躊躇する女性の意識」があるとのこと。また、男性にも家事や育児へ関わる意識を変えて欲しいと明言されています。
黒田:私が結婚して子どもを産んだ頃は、ちょうど働いている女性と専業主婦の女性との割合が逆転した時期なのです。私の友人も、子どもを産んで働いている人と働いていない人がちょうど半分ずつぐらいでした。私の場合は、自分の実家だったり、主人の実家だったりとサポートしてくれる人がたくさんいて、それから区のサポートなどを積極的に使うことができました。ただ、そういう時代でしたので、子育ての主体はまだまだ女性であり、家庭を守るのも女性の仕事という風潮が強かった。私自身もそうでしたし、私の周りでも自分で子育てをしないといけない、自分が家庭を守らなくてはいけないという意識が強すぎて、「周囲に頼れない」と聞いたことがあります。その部分については私たち女性が変わっていかなくてはいけないと、他の女性経営者の方とも話をしています。幼い子どもをどこかに預けることに罪悪感を感じてしまうお母さんがまだ多いのではないかと、女性の経営者の方とよく話をしています。
インタビュアー:そのあたり、まさにご自身で体験しているからこそわかるのですね。
黒田:なんと言っても日本人の男性には、働く女性に対して「なぜ、家にいないのだろう」と思う気持ちを変えてもらわないといけませんね。男性のなかには、子育ての「手伝いをしている」という感覚を持っている方も多いと思うのです。今でこそ手伝ってくれる男性は増えていますが、まだまだ「手伝い」なのです。一方の女性たちは手伝っているのではなく、やっています。例えば、私も主人に子どもを見てもらって、プライベートで飲みに行くことがありますが、「空いている?」と聞かなければいけません。だけど、主人は「行ってくるからね」と言って、飲みに行きますよね。私が飲みにいくとき、主人は「行っておいで」と言ってくれるし、預かってくれますが、女性の場合は「預かってくれる?」と聞かなければいけないというのは、男性と女性の意識の大きな違いだと私は思っています。
⑯本当に必要な施策とは?
気軽に頼れる存在としてのベビーシッターの普及が有効であるとの考えを述べています。これからの日本に本当に必要なことを黒田さんは教えてくれています。
インタビュアー:これは一般論、社会全体の話ですが、女性がより活躍できる社会に向けて、どのようなことが必要だとお考えでしょうか?
黒田:気軽に頼れるベビーシッターは、日本社会に根づいていかなければいけないと思います。娘の留学先であるイギリスでは、高校生からベビーシッターのアルバイトを頻繁にするそうです。そのくらい需要があるのだなと思いました。知らない子かどうかは別として、高校生に子どもを預けるかといえば、日本では預けないと思うのですが、気軽にベビーシッターに頼れる社会になっていくと、もっと女性が活躍しやすくなると思います。当社自身、まだ保育園の補助などができていませんが、保育園とか、お子さんを預けられる設備、施設は増やしていかなければいけないと考えています。
黒田さんの、女性として、妻として、母として、そして経営者としての実践的な話は目からうろこが落ちます。
女性登用は「男性の意識改革」など掛け声だけでは到底実現しないこと。経営者が、そこにかかる手間や心遣いを、継続的に、しつこく徹底的に実行する覚悟が不可欠なのだと思いました。
日本人の半数は女性です。その力を最大限発揮せしめることが出来るかどうかが、日本の未来を左右するといっても過言ではないでしょう。
ところで、黒田さんはベビーシッター活用に言及されましたね。コロナウィルス拡散が収束したら東横インは「ベビーシッター」関連の新ビジネスを始めるかもしれません。女性が子育てを任せることへの罪悪感の払拭と、社会の許容度をどう高めるかといった難しい課題がありますが、ベビーシッターの認定資格化と育成事業への新規参入。そして、ホテル経営のノウハウを生かした託児施設の運営等など。。今後の同社の取り組みが楽しみです。