猫の妙術(意訳)

猫の妙術(意訳)

原典 佚斎 樗山

剣術家の勝軒の家に大きなねずみが住み着いた。それを退治しようとしたが歯が立たず次第に我が物顔で悪さをするようになった。勝軒は近所から腕利きの猫を集めてネズミ退治をお願いしたが次々と返り討ちにあってしまった。困ってしまった勝軒は、ネズミ捕りの達人の誉れ高い猫を招くことにした。しかし、達人の猫は年老いてヨボヨボ、とても強そうには思えなかった。期待はずれでがっかりしたものの達人猫を大ネズミのいる部屋に案内したところ、老いた猫はゆっくりと自然にネズミに近づき、あっけなく大ネズミを捕まえてしまった。
様子を見ていた勝軒や腕利きの猫たちは、達人に教えを乞うために反省会を開くことにした。

1.技術の段階
若い黒猫が言った。「幼少の頃より技の鍛錬を続け、早業軽業でできぬものがないまでに至ったが、今回は不覚をとってしまった。」
⇒単なる技術は、表面的で弱く、意味がない。技術の背景には真理や道理がある。真理をしっかりと学び会得することが大切。未熟者は道理を無視して小手先の真似事を学びたがるが、生兵法は大怪我の基、真理に基づかない技術は弊害が多く偽りでしかない。

2.気力の段階
壮年の虎猫が言った。「武術で重要なのは気であり、長い間、鍛錬を続けてきた。今では気は天地に満ちるようになり、にらむだけでネズミを退治できるようになった。しかし、今回のネズミには歯が立たなかった。」
⇒力に頼れば、より大きな力にはかなわない。気が天地に満ちると感じるのは自分の勘違いであり本物ではない。命がけの捨て身になったネズミの気力は強く本物であり、歯が立たないのは当然だ。

3.心の段階
年配の灰猫が言った。「長い間、心を鍛えてきた。いたずらに気色ばらず、物と争わず、常に心の和を保って、いわば幕で石つぶてを受ける戦法で勝利を得てきた。しかし、今回のネズミはこちらの和に応じなかった。」
⇒和をもって勝利する奥義を学んでいることは間違いがないが、そこには未だ作為がある。ねらいと意図があれば、相手に伝わってしまい上手を取られてしまう。わずかにでも作為があれば自然ではなくなるので、無心の妙用を発揮できなくなる。

4.達人の段階
⇒「私が大ネズミを捉えることができたのは、私が猫だからだ。猫がネズミを捉えるのは天地自然の真理である。私は天地自然の真理に従っただけだ。君たちが修行したことは無駄ではない。どのような技術にも背景には真理がある。気力も心の基となる。要はそれらが作為から出るか、それとも無心から自然に表現できるかで天地の距たりができるのだ。」

5.無敵の段階
⇒「私の言うことが頂点と早合点してはいけない。私は、はるかに高い境地を生きる猫を知っている。彼には敵が現れない。「我-それ」の分離があるから敵が現れる。分離がないところには敵が現れないのは道理。彼はすべてと一体で、そこから分離した形象がない。彼の周辺はすべては穏やかで平和で争いは起こらない。彼こそ不殺の勝利、英雄聖人の境地である。私には及びもつかない境地だ。上には上があるのだ。」

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