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ヴィーナス通信「B動機とD動機(2015年新春号)」

以下、ヴィーナス通信からの転載です。

 

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明けましておめでとうございます。ヴィーナスアソシエイションの手塚美和子です。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

寒波が来て、寒いですがみなさんお体大切になさってくださいね。

 

さてヴィーナス通信新春号をお送りします。

今回はB動機とD動機について弊社代表手塚芳晴が寄稿致します。

お仕事の合間にどうぞお読みください。

それではヴィーナス通信新春号発信です!!

 

※ヴィーナス通信は、ヴィーナスアソシエイションにご縁のあった方々にお送りして

いるメールマガジンです。配信中止を希望される方は、お手数ですが、下記連絡先

までご連絡ください。

reference@venus-association.com

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ テーマ「B動機とD動機」 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

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1.D動機(欠乏動機)とB動機(実存動機)

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 A.マズローは、人には、本質的に全く性質の異なる2種類の欲求があると主張した。1つは、D動機(欠乏動機)であり、もう一つはB動機(実存動機)である。

 D動機とは、「そうしたいからする」と言うよりは、「そうしないと恐ろしいからする」と言うタイプの欲求である。「私には、何かが欠けている。欠けている何かを得なければ生存の危機にさらされる。万難を排して欠けている何かを手に入れなければならない。」という自己認識に基づく欲求であり、生存の危機を起因とした、不安や恐怖に焚きつけられた渇望といえよう。
 そのような特徴から、マズローは、Deficiency(欠乏)の頭文字をとってD動機(欠乏動機)と名付けた。
 一方、マズローは、人間の欲求は、D動機とは全く性質の異なる欲求も存在すると主張した。D動機は、不安や恐怖から逃れるために起こる様々な欲求であることに対して、それは、自分の本当の本音、魂の本質からたち起こってくる欲求であることからBeingの頭文字をとってB動機(実存動機)と名付けた。
 B動機は、前提として「自分自身は充分である。自分自身は価値に値する。自分自身は今ここで満足であり幸せである。」という自己認識に立っている人が、「素晴らしい自分自身を表現したい。自分の理想を実現したい。自分らしく生きたい。自分にとって意義のあることにチャレンジしたい。」というハートの奥底からやってくる力強い喜びや意欲によって突き動かされる情熱でもある。
 それは怖いからするのではなく、本当にそうしたいからするのだ。また、下位の欲求が満足されることによって発現されるタイプの欲求でもない。D動機に基づく欲求が十分に満たされたからと言ってB動機が発現されるわけではない。逆に、死の恐怖にさらされているからと言ってB動機が起こらないわけではない。B動機は、D動機の満足不満足と言うよりはむしろ、D動機の束縛から自由になった人、恐怖や不安に強く支配されることから解放されたハートにやってくるのだ。

 だから、恐怖や不安の真っただ中でも自己実現の欲求は起こる。

 取り残された人を救うために、自分の命を顧みずに炎に飛び込む消防士、

 子供たちの命を救うために、自らの命をかけて戦う戦士、

 聖なるものとの出会いを求めて無一文で出家し修行する僧、

 貧乏のどん底にあって最高の芸術を生み出すアーティスト、

B動機は、今の人の現状とは関係なくやってくる。その人の置かれている外部環境というよりは、その人の内面のあり方、生き方、哲学とかかわるのだ。

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2.動機づけのマネジメント

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 経営管理の視点からこの欲求理論を考えた場合、D動機とB動機のそれぞれのマネジメントの特徴を整理すると、以下のとおりである。

 

<D動機によるマネジメントの特徴>
①強み
・コントロールしやすい
 恐怖と不安による動機付けなので、経営の意図に確実に従うことを期待できる。

・見通しが立ちやすい
 命じたことに関して、ある程度確実に成果を期待できる。

・計画を立てやすい
 したがって、将来の計画を立てやすい。

②弱み
・低いモチベーション
 脅されてすることで、生きがいと情熱を感じることはあり得ない。

・官僚主義的体質
 言われたことしかやらない。保身が優先事項であり、官僚主義的となる。

・低い生産性
 結果、生産性は頭打ちで、低調にとどまる。

 
<B動機によるマネジメントの特徴>
①強み
・高いモチベーション
 人の本音の喜びに働きかけるので、情熱と強い意欲を引き起こす。

・クリエイティビティとイノベーション
 新商品の開発、新規販路の開拓、新機軸の誕生など、過去からの延長ではない全く新しイノベーションを創造する。

・オープンでエネルギッシュ
 組織懸念が低く、オープンで気の置けない家族のような信頼関係があり、総じてネガティブなストレスは低く、健康であり、元気である。結果、高い生産性や創造性を生み出すことにつながる。

 

②弱み
・不安定
 いつも好調とは限らない。好不調の波は決して小さくない。

・見通しが立ちづらい
 予測不可能なイノベーション(奇跡)による成長なので、奇跡は予測することは本質的に不可能であり、計画を立てづらい。

・成功の保証がない
 人を大切にして、人間主義的なマネジメントを貫いたからと言って、必ずそれに応えてもらえる(成功する)保証はない。

 

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3.D動機の経営

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 経済活動の現状を観察すると、世界中の多くの経営や組織が、D動機を基盤としていることが分かる。弱肉強食、適者生存という世界観のもとで、存続と成長を勝ち取ろうとする経営の目的自体が、D動機そのものである。
 D動機による経営は、「自分は弱く、何かが欠けており、周囲からの脅威にさらされている被害者であり、このままではそう遠くない未来に必ず破綻が来る」と言う信念に基づいて、サバイバルをかけて懸命な努力を繰り広げる。
 しかし、行き過ぎた被害者意識、危機感は、時には手段を択ばない常軌を逸したふるまいにつながり、結果的に強欲さや乱暴さ、不祥事につながってしまうだろう。日々のニュースの中で、そうした企業の暴挙が報道されている事例は、枚挙に暇がない。
  大容量の情報が瞬時に行き交う情報化社会の時代、ディスクローズの時代、そのような企業の振る舞いは、ただちに消費者の反感を呼び起こし、売り上げ、利益、株価の低迷につながってしまうだろう。
 もちろんD動機は大切な動機であり、否定すべきではない。生活の安定、安全の確保、適度な防衛力がない存在は、ただのお人よしのおバカさんである。しかし、だからと言って、全面的にD動機に依存し、その奴隷となるべきではない。人は、パンのみにて生きるにあらず。人は、逃げるために生きるわけではない。人は、幸せのために生きるのだ。

 

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4.B動機の経営

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 ところで、経営の目的は、存続と成長ではない。それは手段であって目的ではない。経営の目的は、こころざしにある。創業の精神、大義、社会貢献への思い、哲学、気高い理想にある。企業経営者は、このことを決して忘れてはいけない。経営の目的は、株主に文句を言われないことでも、シェアーを伸ばすことでも、コストを削減し利益を絞り出すことでもない。それらは、方便であって本質ではない。本当のところ経営の目的は、経営理念なのだ。

 陰気な皮肉屋の「理想や理念では飯は食えない」という言葉に惑わされてはいけない。青臭い理想こそが未来を拓くイノベーションの源となる。

 「戦争の真っただ中にあって、夢だの希望だの浮ついた甘いことを考えるなんて、間抜けでいかれた青二才だ」と言うトゲトゲしく不機嫌な頑固者の言葉に惑わされてはいけない。実のところ、経営が存続していくためには、未来の奇跡が必要である。現状の枠組みの中で5年後10年後もうまくやれると言う考えは幻想である。未来において新機軸となる新商品、新市場の開拓、全く新しい協力関係、多くの感動の創出が起こらなければ、現状以上の売り上げは確保できない。そして、未来に起こるイノベーションは、現在において予測することは全く不可能である。なぜならそれは現在のあらゆる想定を超えているからだ。そんな奇跡を生み出すためには、恐怖から逃げ惑うD動機の萎縮し攻撃的で孤独、感受性の鈍いハートには不可能である。それは、理想に向けて陽気で元気で前向きで他者への深い関心と愛を持った感受性豊かなメンタリティにこそ可能なのだ。

 B動機による経営にシフトすることは、経営者にとって勇気が必要である。D動機による支配体制を敷いている分には経営者は楽である。あめとムチによって容易にコントロールできる上に、命じたことは確実にやり遂げることを見込めるので、簡単に未来を予測できる。だから、仕事の基軸は、脅すこと、弱みに付け込むことであり、それは、巧妙に計画し考えれば誰でもできうる。

 一方、B動機によるマネジメントを展開しようとする経営者は、勇気と度量が必要である。人間主義的で温かく働きやすい環境を創るために多大なエネルギーと投資が必要であると同時に、そのようにしたからと言って成功の保証はない。従業員はそれを意気に感じて一生懸命に働いてくれる保証はないし、新商品を生み出すマジックを見せてくれる確証は全くない。効果は、現れるとも現れないとも言えないうえに、それが表れるとしても長期的である。だから、経営者は投資効果の責任を問われ、口うるさい利害団体からの攻撃の矢面に立たされる。高いストレスの中にありながら、気高い精神性を維持し、愛を持って従業員の可能性を信じきる必要がある。まさに、不退転の武将としての勇気と部下をいつくしむ仏の両面を持つ必要があるのだ。

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5.B動機の時代がやってくる

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 今、時代は大きく変わろうとしている。D動機からB動機へと、競争から協力へと、隠蔽から開示へと、緊張から解放へと、戦いから許容へと、恐怖から喜びへと、時代は大きく舵を切ろうとしている。

 ギリシャ問題など、としだいに深まる資本主義経済の綻び。自然環境の破壊による異常気象と度重なる自然災害。ますます増加する経済的弱者と飢餓問題。国家間の対立と紛争。解決不能とも思える様々な諸問題は、D動機による文化の限界を指し示すものであり、同時にD動機による文化の破綻を象徴する出来事でもある。

 D動機は、結果的に奴隷の生き方をもたらすことになる。
 人が人らしく生きる生き方は、B動機の生き方。情熱、挑戦、気高い思い、理想、こころざしに従った生き方である。

 ちょうど今、D動機の文化からB動機の文化へと大きく時代が変わろうとしているのだ。

 次々と報道されている悲惨、暴力、犯罪だけをみて世を絶望してはいけない。苦悩は十分だと悲劇を選択することを拒絶し始めた市民が一人、また一人と増えてきているのだ。

 エコに向けてできることを一歩ずつ実践し始めた草の根の市民、フェイスブックで公然と戦争反対を訴える戦争当事国の市民、困っている人がいたら手を差し伸べる善良な市民。きっと、テレビでは放映されない草の根では、悲惨な事件の数十倍もの素晴らしいささやかでたくさんの幸せが起こっているだろう。

 本当のところ、人は、パンのみにて生きているわけではない。人は、やりがい、愛、情熱、喜び、価値ある人間性や美徳のためにこそ本気になれるのである。そして、人は本気になったら、どんな人でも、想像をはるかに超えたすばらしい仕事をやり遂げることができる。人は、自分で思い込んでいるほどちっぽけな存在ではない。本当のところ、人の可能性は、想像をはるかに超えて偉大なのだ。

 企業も、D動機という古いやりかたを乗り越えて、B動機という大きな宝を開拓すべきだ。単なるコストリーダーシップ戦略は、最終的には破たんをもたらす。持続的成長のためには、イノベーションが必要不可欠であり、イノベーションを生み出す源泉は、B動機によって動機づけられた人間意識なのである。

 既述の通り、B動機によるマネジメントには、経営陣の勇気が必要だ。予測不可能性、不確実性、不安定性のリスクを引き受けなければならない。しかし、そこにこそイノベーションの活路がある。そこにこそ消費者と共感し消費者に愛される会社になれる活路がある。

 今こそ、B動機の経営に舵を切ろう。人を大切にして、人の真実の可能性を引き出す経営をしよう。

B動機には、リスクに挑戦し勇気をもって取り組む価値がある。B動機の時代は、まさにやってこようとしているのだから。