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強い組織の要件

【強い組織の要件】

1.ビジョン・目標が明確
組織とは、多くの人たちの協力体です。ですから、向かうべき方向性やなすべき目標が明確であることが必要です。目標やビジョンが明確でない場合は、例えば右手と左手がバラバラに動いてしまうように、組織の末端では、ちぐはぐで非効率的で矛盾した言動が起こってしまうでしょう。
また、単に明確にするだけではなく、そのビジョンや目標を組織構成員の全員が良く理解し、自分のものとして日常の活動の指針とすることが必要です。方向性と目標についての十分な共通認識が起こることで、信頼関係や協力体制が出来上がり、結果的に組織として優れた活動ができるのです。

2.風通しが良い
組織の中では、どんなことでもオープンにできるコミュニケーションの良さが必要です。
組織のメンバーが、どんなことでも話せる気の置けない仲間だった場合は、仲間のために自分の持てる力をすべて発揮して役に立ちたいと言う思いは自然にやって来るでしょう。
コミュニケーションの良さは、信頼関係やモチベーションを高め、結果的に高い生産性と創造性をもたらすのです。
逆に、うそや隠し事が多く、言いたいことがなかなか言えない不安と懸念の強い風土だった場合、集中力を失い、失敗も多くなり、本来できることも出来なくなってしまうかもしれません。
まさに、組織の強さを決める決定的な要因の一つが風通しの良さだと言えるのです。

3.組織懸念の低さ
組織の中では、様々な懸念(誤解、不安、恐怖)が発生しがちとなります。
「私は、組織の仲間として受け入れられるだろうか?拒絶され、排除されないだろうか?」
「ここではどう振る舞えばいいのだろうか?」
「コミュニケーションの取り方にルール、タブーはないか?どこまで話してよいのか?」
「メンバーの真の目的はなんだろうか?」
「ボスはだれか?どう振る舞うのか?自分は虐待されないだろうか?」・・・・・
強い組織にするためは、出来るだけこうした懸念が解消されている必要があります。
もし懸念が未解消で組織に強い懸念がある場合は、不安や恐怖、不信感が高まり、本来お客様のために働くと言う目的意識が、自分や自部門だけの保身や防衛が目的となり、万事にわたって消極的態度、過度な慎重さ又は意図的なサボタージュ、慇懃な見せ掛け、協力の拒否、情報の隠蔽や操作、部門間の葛藤、など組織不全が起こる可能性があります。
懸念を解消するためには、オープンで明るい風土、隠し事のなさ、暗黙のルールの明文化、悪意の入り込むすきのない明確でわかりやすく正直なコミュニケーションが必要となります。信頼関係は、演技や演出で作るものではなく、正直なコミュニケーションを通して懸念を丁寧に解消していくことを通して自然に育まれていくものなのです。
そして確かに信頼関係は難しいかもしれませんが、もし本当に育むことができるとしたら、組織の持っている偉大なる潜在力や可能性が解放されて、結果的に生産性や創造性を大きく高めていくことになります。

4.自信と誇り
組織メンバーが、組織の一員であることに対して自信と誇りを持てることは、優れた組織の重要な要素の一つです。自信と誇りは良くも悪くも組織成果に強烈な影響を及ぼすからです。
それが健全であれば、組織活性、高い創造性、組織成長につながりますが、逆に不健全であれば、コミュニケーションの悪化、誤解の増大、反感と悪意、生産性の低下、ついには事故や不祥事につながりかねません。
「我々なら何とかなる、大丈夫だ。」
「今は困難でもきっと挽回できる。」
「未来は明るい。」
「我々は、価値の高い意義のある仕事をしている。」
「仲間でいられることが誇らしい。」
そのような思いがあるからこそ、自分の力を思い切り発揮していこうと言う情熱、主体性、積極性がわいてくるのだと言えましょう。

5.前向きで粘り強い風土
前向きで粘り強い風土は、積極的意図的に育む必要があります。人は、たいていの場合、放っておくと悲観的になるものです。日常接する報道や情報には悲観を促進するものが多く、人のすばらしさ、世界の美しさを必ずしも伝えるものばかりとは限らないからです。
リーダー自らが、前向きで明るく健康的なものの見方考え方を心掛け、そのような考え方をメンバーに教育していくことが大切なのです。
もし風土が前向きでない場合には、何につけ不平不満が多くなり、責任逃れや人任せの態度が横行することになってしまうでしょう。被害者意識が強くなり、メンバーに対して良き仲間とはもはや思えず、警戒心、心の壁を厚くし分離感を強め、誤解が重なり、ついには敵意や害意を持つ可能性もあります。結果的にあきらめやすく投げやりで逃げ腰、うしろ向きの機能不全の組織風土となってしまうでしょう。
楽観的で明るく健康的で前向きな考え方は、教育によって育むことが可能であると心理学では考えられています。そうして育まれた健全性、明るさこそが、組織の魅力を引き出し、ついには競争優位、差別化につながると言えましょう。

6.思いやり
組織は、論理性のみで動くものではありません。意志決定に最も影響を及ぼすものは感情であるとも言われています。感情を大切にするということは、決して悪いことではありません。損得のみを取引の基準とするよりも信頼できる実感を大切にする方がより健全なビジネスにつながるとも言えるのではないでしょうか。
そうした大切な感情を健全にする要素こそが思いやりと言えましょう。思いやりのない組織は早晩衰退の憂き目を見るでしょう。組織の求心力のコアとなるものこそが思いやりなのですから。
組織に思いやりの風土をもたらすためには、メンバーひとりひとりの意識的な努力が必要です。組織とは、システムや制度であり、人を癒す高度な能力はありません。あくまでも人を癒し勇気づけるという複雑で難しく高度な能力を持っているのは人間存在です。
メンバーを受け入れ、強い興味と関心を持って深く理解し、その人間性に対する尊敬の念をもって関わる、メンバー個々人のそうした思いやりの意識が、組織を強め、困難を乗り越える強さをもたらし、力強い未来を開く糧となるのです。

多くの経営手法はまやかしだった!

実に痛快な本を読みましたので、ご紹介します。

「申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。」カレン・フェラン著 大和書房出版

著者のカレンさんは、アメリカにおいて長年にわたりコンサルタントとして活躍されている方です。

 本書では、ご自身の体験から、ビジネスの常識として適用されている多くの経営理論やモデルは誤りであり、思った通りの効果を発揮することはないだけではなく、思いもよらない逆効果を発揮して経営の足を引っ張るという衝撃的なことを語っています。

 彼女によると、「目標による管理」「競争戦略」「コアコンピタンス」「業績給」「能力主義的人事制度」「プロセスエンジニアリング」などの今を彩る様々な経営手法は、多くの場合、専門家同士の評価や第三者による検証がなされておらず、その正しさを証明できるものはほとんどないとのことであり、多くのダイエット手法と同じように、ブームにはなるものの、テクノロジーを導入しても成功しないことの方が多いだけではなく、逆に、職場から人間性を奪うものであり、生産性や創造性の足を引っ張るという論旨を展開なさっています。

 彼女は、コンサルタントとして、多くのコンサルティング案件を手掛けてきましたが、コンサルティング案件として受注するために、「在庫管理システムの構築」「工場におけるプロセスエンジニアリング」などの専門用語を使ったテクノロジーを駆使したように見せかけてはいたけれど、本当に業務改善が起こったとしたら、それは、職場の人間性の回復とコミュニケーションの改善による信頼関係の回復によるものだったと暴露しているのです。

 私も、実は、この仕事を始めたのは、学卒後に就職した会計事務所からであり、当初は、経営コンサルタントとして企業の戦略や業務改善を担当していたので、彼女の告白は、本当によくわかります。

 私は、大学時代、経営コンサルタントの仕事がかっこいいと思っており、そんな憧れをもって、とあるコンサルタント会社系列の会計事務所に入社した次第です。あこがれていた仕事ですので、それは一生懸命に勉強し、若いながらもがんばってコンサルティングの仕事にいそしんでおりましたが、頑張れば頑張るほど、何かがおかしいことに気づくようになってきました。端的に言うと、どんどん心が冷たくなっていったのです。まさに、新興宗教収益性教、効率性教、強者必勝教のバリバリの信者となり、それと同時に、何か大切なこと、優しさや思いやり、情熱や気高い思いをどんどん失っていったように思えます。

 そんな体験から多くの疑問と問題意識を感じ、私は、仕事自体はやりがいがあり、おもしろかったのですが、もっと本質的に大切な人間そのものを応援できる教育研修の業界に転職して現在のキャリアをはぐくんでいくことになりました。

 ちなみに、私が所属していた経営コンサルタント会社は、その後、多くのクライアント企業をプロデュースし、有名にして上場まで導き、一世を風靡した時代を築いたのち、あまりの強欲さと強引さと酷薄さによって顧客から見放され、あっという間に倒産してしまいました。

 まさに、力によって成長したものは、ふるったその力によって滅びるのです。因果応報の理は、どんな人も組織も逃れることはできないのです。

 カレンさんは、経営は科学ではないと言い切っています。科学的に分析し、数値的に把握し、管理すれば経営はうまくいくはずだという経営学の常識は、間違いであり、そんなことを真に受けてまじめに突き進むと、とんでもない隘路にはまってしまうだろうと警告されているのです。

 彼女によると、経営とは、人なのです。装置や建物や経営テクノロジーがどんなに立派でも、それ自体がイノベーションを起こすことなどなく、要するに「非理性的で感情的で気まぐれで、クリエイティブで、面白い才能や独創的な才能を持っている人間たち」こそが、未来を開いていくのであって、そのような人間が、理論どおりに動くはずがないと言っています。私もまったくその通りだと思います。

 カレンさんは、「大切なことは、モデルや理論などは捨て置いて、みんなで腹を割って話し合うことに尽きる」と主張されています。様々な経営理論や手法が、本当に良いものだったら家族に適応してみることを検討してみると良いとも言っています。例えば、業績考課制度。本気で業績考課制度を家族に導入してみたいと思っている人がいるでしょうか?そんなことを子供たちに適応してまじめに運営したら、きっと子供たちは病気で精神科にかかってしまうだろうと書かれています。本当にその通り、自分の家族にできないことを職場の仲間にやるということは、やっぱりどうかしていると思われても仕方がありませんよね。

 本書には、私自身、大いに勇気づけられました。創業以来15年間、はやりの冷たい経営テクニックに流されることなく、元気と勇気と信頼の回復をテーマとして、人とチームが本当にそう生きたい生き方の後押しをすること、真に役に立つ応援をすることをモットーに頑張ってまいりましたが、そのやり方が、決して間違えではなかったといってくれているようです。

 この本のメッセージの通り、これからも、コミュニケーションの改善と信頼関係の促進、元気と勇気と信頼の回復をテーマとした、本当に良い研修を展開していきたいと改めて思った次第です。

 素敵な本に感謝です!

企業の存続と成長に必要なもの

人に対して冷たい風潮を笠に着て、人に対して冷たい施策や手法が跋扈している現状は、決して、栄誉なことではない。

人の恐怖心を利用した施策は、決して永続的な繁栄を生まない。

無慈悲なやり方は、希望を放棄したリーダーの産物であり、結果的には絶望しか生まない。

規模と利益は、企業の存続と成長を保障しない。
無理を重ねた力で勝利したその同じ力で敗北を招くだろう。

企業の存続に必要なものは、こころざしだ。

こころざしこそが未来の繁栄を生み出す青写真だ。

あなたは、いったい何のために経営するのか?

あなたは、いったい何のために生きるのか?

あなたは、今していることをするために生まれて来たのだと胸を張って言えるだろうか?

今取り戻さなければいけないものは、生産性でも収益性でもない。

今取り戻さなければならないものは、ひとえにあなたの志なのだ。

企業の存続と成長に必要なものは、あめとムチではない。

あめとムチは、容易で効果的に見えるので、恐怖に首を垂れたリーダーが安易に使う方法だが、遠からず構成員の情熱の火を消し、分離感やうつ気質を強め、防衛的風土を助長し、生産性の低下のみならず、不測の事故、衰退を招くだろう。

企業の存続と成長に必要なものは、イノベーションだ。

人は、欠点を持った完璧ではない存在ではあるが、断じて無力ではない。

その可能性と潜在性は、人の想像をはるかに超えて大きい。

その情熱と英知に火が付いたならば、想像もつかなかったような奇跡が起こる。

日常の仕事の中で、優れたアイデアが湧き起り、情熱のエネルギーが響きあい、現実を変えていく。

絶望のリーダーには全く理解できない希望がある。

人はどんなに脅されても、創造性も革新も生み出すことはできない。

人がそうできるときは、真にそうしたい時だ。

人が、自分の素晴らしさを表現したいという情熱、人に貢献したいという気高い思い、未知なものに挑戦したいという勇気は、真に健康で信頼のできる温かい風土から生まれる。

北風にはできない太陽の技がある。

今、日本の企業が隘路にはまっているのは、その技を忘れたからだ。

今こそ、志と勇気を取り戻す時。

人本来の素晴らしい可能性を引き出して、イノベーションによる持続的成長を図る時だ。

奇跡への一歩を踏み出そう。

新しいモチベーション理論 ③

【成果主義の弊害の事例】 モチベーション3.0 ダニエル・ピンク著より引用

ダン・アリエリーも含めた四人の経済学者たちは、インドのマドゥライに仕事場を構え、外発的動機づけが成果に及ぼす影響を研究した。・・・彼らは八七人の参加者を集め、何種類かのゲームをしてほしいと頼んだ。たとえば、的に向かってテニスボールを投げるとか、・・・インセンティブの影響を調べるために、あるレベルの成績を達成した場合の報酬として、被験者に対して三種類の金額を提示した。
参加者の三分の一は、目標成績を達成した場合に、四ルピーという少額の報酬を与えられる
(・・・アメリカのおよそ五〇セントに相当)、もう三分の一の参加者は、四ルピーだ(およそ五ドルに相当)、残りの三分の一は、四00ルピーというたい一ん高額な報酬を呈られることになっていた。

 どのような結果が出ただろうか、報酬金額の違いは、目標の達成具合を反映していたのだろうか?答えはイエスだ。だが、その答えの中身はあなたの予想に反しているかもしれない。中問の四0ルピーを提示された人たちは、四ルピー提示された人たちよりも成績が悪かった。では、四00ルピーという、高額のインセンテイブを提示されたグループはどうだ一たのだろうか?このグループの成績は最悪だった。ほとんどすべてのゲームで、少額の報酬グループにも中問の報酬クループにも、後れをとっていた。・・・・

このように一見矛盾する結論に達したのは、アメリカの研究者だけではなかった。ノーベル経済学賞を11人輩出しているロンドンスクール・オブ・エコノミクスの学者が、二〇〇九年、五一社の成果主義の給与体系を分析した。その結果、「経済的なインセンティブは、全体的な成績に悪影響を与えるおそれがある」という結論に達した。

新しいモチベーションの理論 ②

【成果主義の弊害】 モチベーション3.0 ダニエル・ピンク著より引用

レッパーとグリーンの初期の研究・・・は、・・・モチベーシヨン関連でもっとも引用される論文となった。この三人の研究者は、幼稚園児を数日問にわたって観察し、「自由遊び」の時間に絵を描いて過ごす子どもたちを見つけた。次に、この子どもたちが楽しんでいる活動に対して、報酬を与えた場合の影響を調べる実験を考案した。

彼らは子どもたちを三つのグループに分けた。1つ目のグループは、「賞がもらえることがわかっている」グループである。一人ひとりに「よくできました」と書いた賞状-青いリボンをつけて、子どもの名前が記されている-を見せ、「絵を描いて、この賞状をもらいたいか」と子どもたちに訊ねた。二つ目のグループは、「賞をもらえることを知らない」グループだ。研究者らは子どもたちにただ、「絵を描きたいか」とだけ訊ねた。そして子どもたちが絵を描き終えると、「よくできました」という賞状を渡した。三つ目のグループは、「何ももらえない」グループだ。「絵を描きたいか」と子どもたちに訊ねたが、絵を描く前に子どもたちに賞を約束したわけでもないし、終了後に賞状を渡したわけでもなかった。

 それから二週間後の自由時問に、幼稚園の先生は紙とフェルトペンを用意した。一方、研究者らは密かに子どもたちを観察していた。「賞をもらえることを知らない」グループと「何ももらえない」グループの子どもたちは、実験前と同じくらいたくさんの絵を、実験前と同じくらい熱由心に描いていた。ところが、賞をもらえることがあらかじめわかっており、そのとおりにもらえたグループの子どもたちは、実験前より絵に対する興味を大幅に失っており、絵を描く時問も格}段に少なかった。

新しいモチベーションの理論

 ダニエル・ピンクによると、モチベーションの考え方は、以下の3つに分類できる。

【モチベーション1.0】  あめとムチによる動機づけ。企業経営の本質的な部分だとみなされてきたが、さまざまな実験で意図通りには機能しないことが分かった。

【モチベーション2.0】  交換条件付き報酬(成果型賃金制度の様な)。ほとんどの状況で効果がないばかりか、レベルの高い創造的で思索に富んだ才能をつぶしてしまう。

【モチベーション3.0】  自律性(自らの人生を管理したい)、熟達(自分の能力を広げて伸ばしたい)、目的(大義を持って人生を送りたい)、という人間に深く根差した欲求による動機づけこそが真の成長や高い成果につながる。

 

 ピンクは、著書「モチベーション3.0」の中であめとムチや報償によるコントロールが機能しないだけではなく弊害をもたらすことを多くの実験データを使って証明している。以降その実験を紹介していきたい。 

 

成果主義の功罪

 会社は、運命共同体です。私は家族だとさえ思っています。実際、伊那食品工業の社員たちは、自ら「伊那食ファミリー」と言っています。弟が力持ちでよく働けるからと言って、お父さんやお兄さんのごはんを減らして、弟に食べさせるでしょうか。弟さんにしたって、そんなことは嬉しくないはずです。家族それぞれが自分のできることを精いっぱいやって、共同で責任を持ち、ご褒美も家族みんなで分かち合うことのほうが、幸せではないでしょうか。

                 リストラなしの年輪経営(光文社) 塚越寛著 より引用

ダイアローグに至る過程‐新しい時代のマネジメント⑤

第1ステップ 懸念の解消
人と人とが出会うと、必ず懸念(疑惑、不安)が発生しますが、コミュニケーションが徐々に活性化し、お互いの理解を深めることができれば、自然に解消され、信頼へと変容していきます。

第2ステップ フィードバックと自己開示
信頼関係が醸成されてくると、メンバー個々人の内面で感じていることが、次第にオープンとなっていきます。フィードバックは、相手に映った自分の姿を聴くことであり、自己開示は、今ここで体験している気持ちやアイデアをオープンにしていくことです。
フィードバックと自己開示が行われると、個々人のグループへの関わり方は、真剣でより誠実なものに変わり、お互いに向ける関心や、相互理解が桁違いにレベルアップしていきます。メンバーは、チームの一員であることをしっかりと受け止め、たとえ不快な問題があっても、その問題が、自分とは異なる対象と言うよりも、自分もその問題の一部であると感じるようになり、解決に向けて主体的で積極的、責任あるかかわり方をするようになります。

第3ステップ 認知バイアス(偏見)の解除
深く正確なコミュニケーションが行われるにつれて、内面に隠されていたメンバーの本音や真相に光が当たり、メンバーは、より本当のことを理解するようになります。そのようにして明らかになってきたありのままの現実を正確に認識できるようなると、自分の中で信じ込んでいたさまざまなことが、真実ではなく、単なる誤解であったり、思い込みであったり、偏見であることに気づいてくことになります。
また、自分の立場や価値観、信念を防衛する必要がなくなるので、次第にそれらに固執することが孤独と感じるようになり、こだわりを捨てて、謙虚にメンバーに耳を傾け、正味相手の立場に立って、相手の理解をすることができるようになります。

第4ステップ エネルギーの集中
物理学者デビッド・ボームは、自身の「ダイアローグと思考の研究」のなかで、ダイアローグの状態を超伝導に例えました。
超伝導とは、特殊な合金を冷却して行くと、ある低温下の温度で、電子が自由となり、全く抵抗がない状態となり、非常に大きなエネルギーを生み出すことが可能となる現象を言います。
まさに、ダイアローグは、個々人の潜在能力を開放し、チームが一丸となって、大きなエネルギーを発揮している状態といえましょう。ダイアローグにおいて、メンバーは自由でリラックスしており、お互いに人間としての深い関心が向けられており、発言内容はもちろんのこと、発言者の気持や意図、雰囲気にいたるまでありのままに理解することができるので、交流する情報や感情は、質量ともにけた違いにレベルアップします。話し合いのテーマに対しての深い集中がなされており、出てくるアイデアや企画も創造的で質の高いものになるのです。まさに、生産性や創造性の高い、ハイパフォーマンスな輝かしいチームといえましょう。

<体験学習の地平>
ダイアローグは、そのエネルギーと創造性を武器として、組織を活性化し、組織に決定的な競争優位性と成長力をもたらすでしょう。体験学習は、組織をダイアローグ型に変容する可能性を秘めた非常に優れた学習方法です。今後、その役割はますます重要となってくることでしょう。来るべき素晴らしい時代に向けて、人間性を大切に育む精神を脈々と伝えてきた体験学習が、ますます多くの人たちと組織に役立ち、未来を開く手助けとなることを願っております。

ダイアローグとは‐新しい時代のマネジメント④

「ダイアローグ」は、「対話」を意味する言葉ですが、組織論においては、質の高いコミュニケーション、非常に深い相互理解と柔軟で創造性に満ちたチームの関係性を指し示す言葉として使われており、組織の存続と成長をもたらすキーワードとして注目されてきている言葉でもあります。

 ダイアローグが社会心理学的な用語として使われ始めたのは、実存哲学者マーチン・ブーバーによる哲学書「我と汝」からと言われています。
 ブーバーによれば、私達の関係のあり方は、お互いに利用しあう関係の「我ーそれ」の関係と、お互いに心から全人的に関わる「我ー汝」の関係の2種類があり、後者の際に交わされる会話のあり方を「ダイアローグ(対話)」と呼んだのです。関係性が「我ーそれ」であった場合、もたらされる結果は、葛藤や戦いであり、「我ー汝」のダイアローグの関係であった場合には、相互理解と平和、そして本当の意味での成長がもたらされると考えました。

近年『学習する組織(Learning Organization)』と言う理論、考え方が、経営学において注目されています。もともとは、1970年代にハーバード大学の組織心理学者クリス・アージリスによって唱えられていた概念であり、現在では、マサチューセッツ工科大学のピーターセンゲ教授が中心となり、世界的に広く知られるようになってきています。

 この理論によると、組織の競争力を高め、持続的成長をもたらす最も重要なことは、自ら問題を発見し学習し解決をはかる主体的に成長する「学習する組織」の体質を作ることであり、ダイアローグは、そのような組織を作るための重要なツールとなるとされています。

 体験学習は、コミュニケーションスキルの向上、チームビルディングをもたらす非常に優れた教育メソッドであり、組織をダイアローグ型に変容し、組織のもともと持っている素晴らしい力と可能性を引き出す強力な実践ツールです。
 私は、体験学習を通して、組織をダイアローグ型に変容していくことが可能であり、その際には、以下のステップに従って成長を遂げていくと考えています。

日本のマネジメントの現状‐新しい時代のマネジメント③

日本におけるマネジメントの現状を理解するうえで、2005年3月に実施された、米国調査会社ギャラップによる「職場への帰属意識や仕事への熱意」に関する意識調査が参考になるのでご紹介しましょう。
 調査は、2005年の3月に電話番号から無作為に選んだ千人を対象に実施され、03~04年にすでに実施されていた他国の同様の調査データと合わせると、14カ国の仕事や帰属意識に関する意識を比較、分析することができました。調査結果によると、日本人の仕事に対する忠誠心や熱意は、「非常にある」9%、「あまりない」67%、「まったくない」24%となりました。そして「非常にある」の9%は、調査した14カ国のうち、シンガポールに並んで最低であり、最も高い米国(29%)の3分の1以下だったことが分かったのです。
 このデータによると、日本人の多くが、職場に反感や不満を感じており、会社に対する満足度は、世界の中でも最低クラスであると言えましょう。

 私は、ES(従業員満足)が、企業の成長と存続にとってきわめて重要な要素であると考えております。よく、企業戦略の柱として、多くの企業でCS(顧客満足)を訴えていますが、私は、顧客満足主義を主張する大前提として、働く従業員が仕事や職場に満足し、自信と誇りをもって仕事に従事できている必要があると考えているのです。
 そのような視点から考えると、この調査データは、最近の日本の経営に何か大きな間違いがあることを証明しているのではないでしょうか。もちろん、従業員の問題もあるだろうとは思いますが、謙虚に、自分たちのマネジメントの方向性、施策、哲学をもう一度見直してみる必要があるのではないでしょうか。

 米国心理学者M.セリグマンは、「学習性無力感」の理論の中で、不快なショックと報酬(あめとムチ)によって動物を教育しようとしたところ、動物は決して学習成長することなく、逆に無気力となり、うつ状態になってしまった実験を報告しています。「学習によって無力になる」とは、何と皮肉なことでしょう。私たちも知らず知らずのうちに他者にハッパをかけてコントロールしようと働きかけることを通して、うつを生み出してしまっているのかも知れません。自らに厳しく問い直す必要があるといえましょう。
 人は、自分らしく輝いているときには、想像もつかないような大きな仕事をやり遂げる力がありますが、うつ状態に陥れば、考えられないような失敗や問題行動を起こしてしまう危険性もあります。
 厳罰によって従業員の行動を管理しようとしたマネジメントが、大惨事を招いた事例は、枚挙に暇がありません。

 前述の「メガトレンド2010」の中において、弱肉強食で、適者生存が謳われる市場至上主義の米国であっても、単なる取引や契約で働くのではなく、情熱や信頼、愛社精神を持って働いてもらうことが組織の存続や成長に絶対不可欠であることを理解し、その対策をとっている企業こそが高い成長と収益を遂げている事例がたくさん紹介されています。
 日本の企業も、いつまでも、旧時代の遺物であるあめとムチによるマネジメントにしがみついてはいけません。今こそ、もともとあった日本のよきスピリットを生かし、信頼と情熱に基づいた、明るさと楽しさと冒険に満ちた経営に切り替えていく必要があります。
 人は、本気を出せば、本当にすごいことができるものです。その可能性と潜在性を信じて、人を大切にする、お互いに理解を深め合い、協力し合える体制を作っていくことが大切なのではないでしょうか。
 私は、来る「意識の高い資本主義」の時代に、この協力し合える体制作り、チーム作りが最も重要な経営課題の一つとなると考えています。またそのような素晴らしいチームを作るための重要なキーワードが、「ダイアローグ」であると考えております。